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「一部下である君が? 僕がしようとしていることを制限できる立場だとは思えないけどね?僕はね、身分差は気にしないタチだけど、今回ばかりははっきりさせておかないといけないと思ったから言うけど、僕がすると決めたことを君は止めることは出来ない。僕は自分を犠牲にしてでも彼の話を聞かなければならないと判断したからだ。

それを君はするなと言った。普通だったら、上司の指示に背いたから、クビものだけど、僕はその背いた理由が僕のためでもあり、君の愛のためでもあるから見逃してあげてしまうような上司失格だ。だけどね、それでも僕は逃げないと決めた、この計画を終わらせた後にすると決めた目的があるから。だから、犠牲になりそうな可能性がある選択でも、確実にこの計画を果たすためなら茨の道にだって歩く。だってそうだろう? こんな計画を作り上げた時点で、茨の道覚悟の上。だから、僕は危険な選択だろうと確実に目的を果たせるならそちらを選ぶ、……君達部下を危険に巻き込まない限りはな。

それでも、僕を縛りたいと言うのなら、僕がいる場所くらい特定することを許してあげてもいいよ? 僕はね、一度やると決めたら、大事な人の大事な人をこの世からいなくなるようなことだってやるよ? 止めるべきなのは僕じゃなく、君の友人だよ。君は知らないよね、僕は雪くんと違って理性は持っているけど、間違いなく狂気を隠し持っている人間なんだよ? 逃すのは僕じゃない、君の大事な友人だ。

人間は気づかないだけで、狂気はいつも潜んでいるんだ。雪くんみたいに表に出る人もいるし、僕みたいにその闇を認めて共存している人もいる。彼が男性であろうと、僕はどんな手を使ってでも、この計画を邪魔するものは排除するよ。ああ僕は駄目な奴だなぁ、闇の部分が表に出るとついつい僕って言っちゃう。僕って言っちゃうのは気にしないでくれ、これは昔からの癖だ。

僕の癖はさておきだ、君はこれを聞いてどちらを選ぶ? 止められないとわかりつつも、意固地になって止め続けるか。それとも、僕の提案を飲んで、僕が危険な目に遭いそうな時に直ぐに駆けつけられるような状態を作れることを選ぶか。……賢い君にならわかるよね、どちらが僕にとっても君にとっても都合のいい選択なのか。選択は二つでありながらも、一つだけなのを賢い君は気づいているよね。それでも、君は僕がこれからすることを止め続けるのか? 僕のためにも、君以外の部下でのためにも君は僕が望む選択をしてくれるよね?

説得するだけ時間の無駄なのに。僕は頑固だよ、君はよく知っているはずだよね。

僕は権力を使うのは嫌いなんだよ。こうしてね、狂気を振りまいて、君に圧をかけて答えを言わせるのは嫌なんだけどね。君があまりに引き止めるから、引き止めてくれるのは嬉しいんだけどね、私情を挟むわけにはいかないから一番嫌いな手段を使っているんだよ。

だから、お願い。これ以上、後々後悔するようなことを言わせないで……」


最後のお願いは、卑怯な手を使ったと自分でもそう思う。想われている立場である自分でも、理玖の想いは一途だと思うくらいだから、お願いと頼まれては彼が断れないことくらい察することが出来る。こうして、現に困惑し、その提案を受けようとしているのか諦め顔をしているのだから。

直ぐに彼は白旗をあげて、


「……わかりました、その提案を喜んで飛びつかせて頂きます。その代わり、全て説明頂けるんですよね?」


”僕”が望む言葉を言ってくれたから、


「勿論だ」


その取引を快諾する。

……でも、もう少し止めて欲しかったななんてわがままな気持ちを隠しながら。

そんな”僕”に、理玖はこう言った。


「……提案を飲んだんですから、その縛りを付ける方法は勿論、僕が決めて良いんですよね? 隠し事はされ、提案を押し付けられたのですから、それくらいは望んではいけませんか? お願い、します……」


理玖が言う「お願い」と言う言葉は、僕にとって思ったより強制力がある言葉だった。そのお願いを僕が断れない訳がなく、


「良いだろう」


と、了承してしまった。

思わず言ってしまった言葉だったから、言った後にこの決断は大丈夫だったんだろうか? と不安になってきたが、了承した以上撤回するのは良くない。

僕が巻いた種だ、僕が回収するのが妥当だろう……なんて考えた時、理玖が僕の前に跪き、そのことに動揺する僕なんかお構いなしに手を取り、指先に口付けをした。

ピリッと甘噛みされたような痛みが走るのを感じながら、それでも了承した以上、理玖がすることを見守り続けることに徹した。

数分の時間が何時間も経っているような感覚に陥り始めた時、指先からゆっくりとした動作で唇を離す。その動きはまるで、名残惜しいと言っているかのようで、鼓動を早くさせた。


「今の僕は、あなたに忠誠のキスしか許されません。それでも、僕はあなただけを想い続けます。これから先、あなたが誰を好きになろうとも、僕はあなただけを想い、あなたの側に居続けましょう。あなたが傷つかないためなら、僕は誰にでも嘘をつける。……大切な誰かを結果的に裏切る行動も出来る。

僕は綺麗な人間ではありません。こんなにも歪んでいるし、狂気を持っている。雪夜様と違うところと言えば、いつもおどおどとしてはいますが、メンタルは強く、理性を失うと言うことは滅多にないので、その狂気を胸の奥底に秘めることが出来ているだけです。

次は、どんなことでも話してください。僕はあの先輩と満さんに育てられた俳優であり、あなたの従者。感情を隠すなど朝飯前ですので。……そうして頂かなければ、あなたを攫い、誰にも見つからないどこかへ連れて行ってしまいたくなる……」


そう言った陸の顔は、いつもの困ったような頼りない顔をしていなく、ドキリとさせるような大人びた男の人の顔をしていた。


……十三でも、こんなにも大人びた顔を出来るんだな……。年上をこんなにも振り回すなんて、生意気な奴だ。


理玖に鼓動を早くさせられてばかりで、僕ばかりが彼を好きでいるようで何か悔しくもあり、もやもやっとするような気持ちにもなった。

だが、こんな気持ちを優先してられる場合ではなくて。胸の奥底から感じるもやもや感を押し殺して理玖に背を向ければ、抱きしめられることによって動きを封じられた。

年下とは男性は男性。

僕より背も高く、力も強いから簡単に動きを封じられてしまった。理玖が言いたいこともわかる、物理戦になれば女である僕は確実に負けるし、暗殺目的なら暗殺されてしまうだろう。

僕も鍛錬を重ねてきた身だが、同じく幼い時から鍛錬を重ねてきた理玖に物理戦では敵わない。もし、能力を封じる力があったとして、物理戦に持ち込まれてしまったら、僕は確実に暗殺されてしまう。そうなってしまった、首謀者死亡で、場の流れにより選択を選ぶ立場の人間がいなくなり、今回の計画は台無しになる。

それだけは避けたいから、あの提案を出した。理玖が言っていた通り、彼はあの朔斗と満さんが育てた従者だ。そこらへんの暗殺者が勝てるほど弱くはない。

僕が何か危険な目にあれば、相手が友人であろうと躊躇いもなく僕を護るための選択肢を選ぶと信じているから、命の危険があろうとも、守り抜いてくれると信じているからこそ、僕はこうして無茶が出来るし、それを言葉で伝えないから怒らせてしまうのもわかっているんだ。

それでも、僕はそれを伝えない。伝えてしまえば、僕の方が理玖のことを従者であるようにと縛ってしまいそうになるから。


普通なら、主人と従者が抱きしめ合うなどご法度だ。だが、僕はもう、あきらめずに僕らしく生きようと決めた。好きな人と生きていきたいと決意したから、そんな人生を自分の力で掴み取ろうと思った。

父上に頼めば、こんな回りくどく、危険な目にも遭わずに雪くんと婚約破棄をすることが出来るだろう。だが、それではダメなような気がするんだ。

雪くんは手の届かない人間ほど、執着が強くなり、次第に殺意へと変わっていくのではないかと思う。だから、何も予兆のないまま、ことを進めてしまえば前世と同じ結末に辿り着くと何となくそう思ったのだ。

だから、こうして回りくどいことをしている訳で、自分を犠牲にするためだけにしていることではない。自分のことを犠牲にする可能性がある選択肢を選んだ時、それは僕が生きるため選択肢であり、この計画を生かし続けるためでもある。

何でもかんでも、自分を犠牲にする可能性があるような選択肢を選んでいる訳ではないし、どのみちその選択肢を選ばなくとも、待っているのは暗殺される運命だ。残酷なことを躊躇いなくする雪くんのことだ、あえて理玖の前で僕のことを暗殺し、彼のことを殺めずに生かし続けるのだろう。……例え、死だけを求める生きた屍になろうとも。


「初めて会ったときと比べようがないくらいに、いい顔をするようになったじゃないか。それに随分と恥ずかしげな台詞を躊躇いなく言えるようになったようだな、僕は自分の従者が女性関係で刺されるような事態にならないか今から冷や冷やしているよ。

僕を誘拐? 随分と思いきったことを言っているな。でも、それだけはダメ。

その理由は言わなくてもわかるよな? 僕達が生きるためには、僕が素直に雪くんの元へと嫁入りをするか、この計画を成功させるかの二つだけ。前者は常に死と隣り合わせな人生を送ることになる。だから、思い詰めても僕を誘拐してはダメだよ、生きた屍になりたくないならね」


僕は遠回しに、「これは僕達が生き延びるために選んだ選択」だと言うことを伝えれば、抱きしめている理玖の手を、指の一本一本丁寧に外していくこと抵抗しなかった。

少しでも長くこの温もりを感じていたかったが、どんなにゆっくりと丁寧に外していっても、抵抗がない今、たかが、数分で僕が理玖の腕の中にいる理由がなくなってしまった。

もう少し、彼の温もりを感じていたかっただなんて言えるような関係ではないから、僕はそれを悟られないように躊躇いなくその腕の中から抜け出し、あの部屋で待つ客人の元へと早足で向かったが、もう制止されることはなかった。



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