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「僕が、あなたのことをどれだけ心配していると思っているのですか! あなたは理解してない、僕がどれだけあなたを慕っていて、尊敬していることを。
それなのに、いつもあなたは無茶をする。あなたは理解してない! あなたが死んで悲しむ人間はたくさんいるんですよ? あなたが無茶してあなたの存在自体が消えれば意味がないんです! 」
理玖は顔をさせて怒っていた、……そして同時に何処か悲しそうでもあった。
そんな表情を見て、私はどう声を掛けたら良いのかわからなくて、どう言ったら納得してくれるだろうかと考え込んでいる私などお構いなしに、
「どうして、騙すなら身内まで騙すようなことをするんですか! 僕は元々は俳優になるはずだったんですよ、知らない演技をするなんて、朝飯前なのに!
どうして、僕の演技力を信じてくれないんですか? 先輩からは、心を読まれないように演技出来るように指導されているんですよ? 芸能界に入って、情報を収集するのが役目でしたから、そのくらいは出来て当然です。
なのに、隠し部屋があることを知ったのが友人と一緒? しかも、もしかしたら友人があなたの命を狙っているかもしれないのに得体の知れない部屋に二人っきりになるなんて……! もっての外です、ありえません! あなたがどんなに強かろうと、鍛えていようと男性の力には勝てなくなる時が来ます。
もしかしたら、あなたが傷つくようなことが起きる可能性が少しでもあるなら、僕は自分の友人であろうと疑います。それはあなたが何よりも大切だからで、傷ついて欲しくないからです」
男性の力に勝てなくなる、そう言った後に実際に理解させるためか私の肩をグッと掴んだ。強く強く、掴まれているけれど、目は私に対する想いに満ち溢れていていたから、私は掴む手を振り払わないと思うくらいの恐怖を感じなかった。
むしろ、この距離を愛おしく感じるのは私が歪んでいるからだろうか。
いや、それもあるかもしれないが、理玖が私を傷つけることはないと信用しているからだろうか、心配してくれることに嬉しく思ってしまう自分がいて、嗚呼なんて天邪鬼な奴なんだろうと自らのことなのに他人事のように自分自身のこと呆れた。
心配されたいだなんて思う自分は、どんだけ面倒くさい奴なんだろうと思う。
こんな私を、理玖は何処を惹かれて好きになってくれたんだろうとも思う。
だけどね、そんな疑問を持ちながらも、理玖への想いが大きくなるごとにそんなことどうでも良くなって、好きでいてくれることが嬉しい気持ちが強くなったし、いつまで好きでいてくれるんだろうとか、呆れて側から離れて行ってしまうんじゃないかと思うと不安にもなる。
そんな不安定で、矛盾している私を呆れずに側にいて、好きでいてくれて、答えを待っていてくれる理玖の願いなら叶えてあげたいとも思うけど、私は誰かの上に立つ人間でもある。
私情を挟んで、重要なことを見逃してはならないのだ。私の判断次第では、たくさんの人間が路頭に迷い、明日の生活がやっとな生活になることを強いてしまうかもしれないからだ。
だから、どんな手段を使っても、私はこの現状を維持し、会社を広げていかなければならない。流石に犯罪じみた手は使わないが、部下よりもより広い視野で社会の現実を見て、時には残酷な選択を取らなければならないのだ。
だから、ごめんな。
今回は私情を挟める状況じゃない。
何回も、何回も傷つけてごめんな。
ズキリと胸の奥が痛んだような気がしたが、それは気のせいだと言い聞かせ、私は内心そう考えた後、
「確かに理玖の言い分も一理ある。
会社のトップが暗殺されれば、会社にも少しは混乱を招くし、私はこれでも水月家の令嬢であり、そして椿の血を引くものでもある。暗殺された時の影響力は小さくはない」
そう、理玖に告げる。
まだ、言いたいことの途中ではあったが、説き伏せるためにここで話の区切りをつけ、さて次はどう話を切り出すかと考えていると……。
案外、理玖はせっかちなようで、「そうではなくてですね!!」と言い出したため、言いだす前にまた話を切り出す。
「話を最後まで聞け、理玖」
きっと、私が水月家の人間として生まれなかったら理玖とは出会えなかった。だから、私は嫌われようとも、こうしなければならないと思ったことを貫き通すんだ。




