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理玖からの言葉に、心臓が壊れてしまいそうになるくらい、自分の胸が高鳴っていることを感じていた。


……ああ、なんて私は現金なやつなんだろうか。この言葉一つで、普段の私通りに振る舞えると安心してしまうだなんて我ながら単純だな。


なんて考えながら内心、そんな単純な自分を笑いつつも、照れからか顔がほんのりと赤い理玖の様子を嬉しく思う。


……ああ、私と理玖がお互いに持っている気持ちは本当に同じ気持ちなんだなって。


理玖の様子から実感できるから。

この計画を終えたら父上に打ち明ける、そう覚悟が出来た。……だけど、今は私の理玖に抱く感情が、恋だって本人にも打ち明けることは出来ないから、返事は待っていてくれよ?


なんて考えていると……、


「私は本当は芸能界で俳優として情報収集するはずだったんです、……先輩に出会って声を掛けられるまでは。

私はあなたに初めて会った時から、従者としてでも良いからあなたの側にいたいとそう望んでいました。

だから俳優としての技術を学びながらも諦めきれず、鍛錬を続けていたんです。私はあなたより強くならなければ、あなたの側にはいられないから、どんなに辛くても1人で鍛錬を続けられた。……全ては従者としてでもあなたの側にいたいと言う願望を叶えるためです。

そんな時、側にいたいと強く望んでいたあなたの右腕として育てたいと先輩が言ってくれて、このチャンスを逃す訳にはいかなかった。だからですね、そんな考えを持つ私から、あなたの側から離れることなど天と地がひっくり返ってもありえないことなのです」


まだ、私は不安に思っているんだろうと思ったのか、理玖は釘をさすようにそう言ってきた。その一言に思わず、私も好きだと言いそうになりかけたが、ぐっとそれは堪えた。

我ながらよく耐えたと思う。

確かに朔斗の言った通りだ、恋とは人を盲目にさせる。……その人だけしか見えなくなるのだ、まるでこの世界に自分と想い人しかいないかのように錯覚しているみたいに。


今、私達は両想いだと告げてしまえば、この計画は駄目になってしまうような気がするから、私は自分の気持ちを告げることを今は我慢しなくてはならない。今、告げてしまえば将来、お嬢様のような冤罪を、事前に止められる機会がなくなってしまうような気がするから、私はまだ気持ちを告げてはならないのだ。

どんなに、いつか理玖に別に好きな人が出来てしまうんじゃないかと不安に感じても、私にはたくさんの部下がいて、従者との恋のせいで路頭に迷わせるくらいなら、不安を抱きながらもこの計画を進める方を選ぶ。……それで、部下を路頭に迷わせず済むなら、実際はそうではないのに誤解されやすい子達が冤罪ならず、幸せに生きていけるなら私はその不安に立ち向かってみせる。


だから、今は、


「全て、全て終わったら……、私の恋人の座を全力で奪いに来いよ? 全力で来なきゃ……、夢と朔斗と3人で全力で叩き潰してやるからな? その日が来るのが楽しみだ……」


と、言ってみれば、いつもの困り顔は嘘のように、思わずぞくりとするような闘志の満ちた目で私を見つめて、


「その言葉、その時までちゃんと覚えておいてくださいよ? あなたに恋人と認めてもらえるように、私も鍛えておきますから。あなたを傷つけず、なおかつ私も死なないで守れるような男になってみせます。

私はいつだってあなた一筋です。

私の姫は、あなただけですから、どんな相手と戦うことになろうと、強くなったと認めさせて見せます」


その力強い言葉に、私は反射的に返事してしまいそうになったけれど、何とかギリギリ抑えることが出来た。



……私が目移りしないくらい、魅力的な人になってそうだ……。



だって、今でも理玖はちゃんと私のことを精神的な面でも、物理的な攻撃からも守れているんだから。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



屋敷に着いて、私はさっさと自室へと戻ろうとすれば、運転手に引き止められた。


……滅多に引き止めることがない男だと言うのにどうしたんだろうか?


と、そう疑問に思いながらも私はその引き止めに応じ、足を止める。



「お嬢様。あなたくらいの立場の違いはありませんでしたが、水月家と椿の家も立場の違いから椿家に結婚を反対されておりました。旦那様は、あなたには自由に恋愛をして欲しいと望んでおります。旦那様は言っておりました、賢いお嬢様が選んだ人ならば安心して任せられると。ですから、そう気を張ってばかりではなく、たまには素直に想いを告げられても贅沢ではないのではないでしょうか。私のような運転手にでも、優しくしてくれるお嬢様が幸せになれるよう、心から祈っております」



そう言った後、運転手は穏やかな声で、失礼しますと深くお辞儀をした後、穏やかに、幸せそうな顔をして微笑んだ。

その頰笑み方はあの方に似ていて、背筋が思わずピンッと伸ばされた。


そして運転手がいなくなった後、


「あの運転手が、あの方の幸せな記憶を持つ方だとは思わなかった」


私は懐かしい、あの背筋を伸ばされる感覚に、あの運転手があの方の幸せな記憶を持つ方なんだと何故かそう思った。

あの運転手に言われるまでは、何処か自分だけ幸せになることを躊躇う思いがなかったわけじゃない。


だから、今初めて……、

自分は幸せになって良いんだとそう思えた。






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