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まるで見透かされているかのように真っ直ぐ、見つめながら何を言い出すのかと思えば、理玖は困り顔で、
「姫は……、誰かに恋をしたことがありますか? 異性に、ドキドキと胸が高鳴ったことはあるんですか?
……雪夜様に1度でもときめいたことはあったりするんですか?」
尚且つ、照れたような表情を浮かべながらそう聞いてきて……。
ああ、理玖が顔を赤らめた理由はそこにあったのかと、勝手に納得をして、彼が投げかけてきた質問に真剣に考えてみるが、今思えば異性と意識してときめいたと言えるのかわからないものばかりだった。
……まあ、嘘つく必要もないしな?
「雪くんは好きだったよ?
でも、その好きはさ、雪くんの望んでいた想いとは違うから、私は終わらせることにしただけなんだ。……私は、とある人に似ていた雪くんをあの人に重ねて、依存していただけだって気づいてしまったから」
……何も知らず、雪くんに依存していた頃の私に戻れないだけなんだよ。
そう内心考えながらも、さっきの言葉の続きにそう言うことが出来なかった。
……なかなか、長年積もりに積もった依存心を無くすのは難しいものだな。結局のところ、私は完全に雪くんへの依存心とさよなら出来なかった訳だからな。
……だけど、今は1番、理玖が好きだと思っているよ。
なんて、理玖に言える訳ないだろう?
今の正式な秘書2人は、今のところの雇い主は父上だから、全てが終わった後も私の元に来てくれるとは限らない。
私の働いたお金で雇っているのは、理玖だけだから。
だから、
……理玖に失望されたくない。
側にいて欲しいから、だから弱さを全てさらけ出すことができなくて。
……弱さを全て見せてしまったら、私は理玖にずっと側にいて欲しいと願ってしまうと思うから言えない、……言いたくない。
この距離感が良いんだ……、それなのになんでなんだろう?
……どうして、
どうして、心地良い距離感なはずなのにこんなにも虚しいんだろう?
「姫……?」
どうして、私は姫と呼ばれることに傷ついているんだろう?
……主人は私ただ1人、そう一言に表されたような呼び名なのに……。
……名前で呼んで……。
言えるはずもない、そんな願いを抱き始めている。……そう願ってしまう原因である、この感情の名前は何だろう?
あの方に抱いた感情に似ているようで、熱くなる胸の温度の高さが違って。
雪くんに抱いた感情にも似ていて、違う感情も同時に抱いていて……。
理玖に抱く、この感情は確かに恋情なはずなのに……、今までと何か違う。
これじゃ、雪くんと同じじゃないか。
……私だけのこと思ってて、なんてそう考えてしまうだなんて……。
「理玖……、私自身も自分がどうしたいのか、わからないでいる。
理玖は給料を払っているから、私の側にいる訳だろう? ……だから、もし、私が払えなくなったら……」
……払えなくなったら……、その先の言葉が言えずにいる。
……もし、あなたのそばから離れますなんて言われたら、私は今の計画をこのまま実行したくないと望んでしまうだろうな。
それほど、理玖は私にとって大きすぎる存在になってしまったのだ。
……今更、理玖への気持ちに気付かなければ良かったと後悔してる。




