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私は新たな出会いに遭遇した。

白木朔斗しらきさくとと言う男と、浅葱夢あさきゆめと言う女に。2人は私の秘書となるらしい人らしいが、それどころではなかった。眠くて眠くてしょうがなかった。

何故、こんなにも眠いんだろう?

次第に私の視界は白く染まり……、私は体力が尽きたようにバタンと床に倒れてしまった。

身体が重く、起き上がろうとしても起き上がれない。まるで身体が石化したかのようだ。

眠気が私の意識を蝕んでいき……、眠るように私は気絶したのだった。


気が狂いそうなくらい真っ白な空間。

そんな空間にポツリと置かれた女王の椅子。そんな椅子には見惚れるくらい美しい少女の人形が、人形とは思えないくらい綺麗な姿勢で座っていた。

海のように綺麗な目を人形は持っていた。

その目を見つめれば、見つめるほどお嬢様とその人形と重ねてしまう。


「お嬢様……?」


思わず人形をお嬢様と呼んでしまった。

見た目が似ている訳ではない。

だけど、その目はお嬢様によく似ていて。


「答えてください! お嬢様!」


狂っていることはわかっている。

だけど、私にはその人形がお嬢様と重なってしまい、そう叫んでしまう。



「昔話をしましょうか」



人形は、そう話した。

だけど、私の答えは答えてくれない。


「はい……」


そう答えるしかなかった。




昔々、あるところに地位も、名誉も、容姿も、才能にも恵まれた少女がおったそうです。

その少女には、優秀な従者とお兄様がいて、寂しい思いなどしたことがありませんでした。

ある時、少女は一目惚れしました。

それは親に決められた相手でしたが、一目見た時、私にはこの人しかいないとそう思ったそうです。

ですが、それが間違いだったのです。

それがバッドエンドの結末の始まりでした。

少女は盲目に恋をしました。

ですが、少女の恋は空回りしてばかり。

想い人には何時になっても、少女の想いは伝わりもしなかったのです。

そんな想い人の閉ざされた心の扉を開いたのは……、少女ではありませんでした。

少女ではダメだったのです。

それを察した少女は泣きました。

たくさん、たくさん泣きました。

そして、決めたのです。

初恋の人が、好きな人と幸せに暮らせるように祈ろうと、自分の心を殺そうと決意しました。

だから、初恋の相手の好きな彼女に厳しく接しました。だけど、その彼女は賢く聡明な方。

その厳しさを甘んじて受け入れる、そう言ってくれたことに少女は安堵しました。

ですが、少女の望んだ結末にはなりませんでした。確かに、その彼女は少女の意図を察してくれましたが、肝心の初恋の彼はその意図に気付きもせず、少女を冤罪の罪で裁いたのです。

少女は思いました、ああなんて愚かな男を好きになってしまったんだろうと。

少女は思いました、ああ先に逝く私を許して私の愛しの従者、愛しのお兄様と。

そう考えながら少女は意識を手離しました。

「ごめんなさい、ごめんなさい」と悲鳴ようなその彼女の叫びを聞きながら。

最期、ああどうか謝らないで。私はあなたを友人として愛しいと思っているのと思った後、少女は完全にプツリと切れたのでした。



「少女は全てを愛していたわ、愛しいと思っていたの。だから、従者が復讐を成し遂げた時、そんな狂気に満ちた従者も愛しいと思っていたわ。

従者に鉄槌を下された初恋の彼のことも哀れで愛しいと思ったの。従者は彼女のことは裁かなかったわ、少女はさすがだと感心していたわ。

従者は少女の側に常にいたの。だから、その彼女が少女の厳しさを受け入れていたことを知っていたから、裁かなかったのねと察したの。その忠誠心も、少女は愛しいと思っていた。

1番狂っているのは少女だったのかもしれないわ、憎しみも悲しみも愛も友情も敬愛も向けられた感情全てを愛しいと感じていたのだから。

私のことをお嬢様って呼んだわね。あながち間違いではないわ。だって私は彼女の記憶だもの。大切にされすぎて、意識を持ってしまった存在だから彼女の一部だと考えて欲しいわ。だけど、私は彼女の心の一欠片であるだけの存在だと言うことを忘れないで。

安心して、あなたの愛しのお嬢様は今を幸せに生きているわ、私と言う一欠片を失ったことで前世の記憶自体は奪われてしまったけれど。

それを伝えに来たの。

あなたは、あの時死ぬはずじゃなかった。だから、せめてこのことを伝えようと決めた。

あなたのお嬢様は前を向いて生きている、だからあなたもどうか今世をあなたの幸せのために生きて。今度こそ悔いが残らないように」


無表情だった人形から涙から流れた。その瞬間、私は飛び上がるように夢から覚めた。

お嬢様は幸せに生きている、そのことが知れたことが嬉しかった。例え、私と言う存在をお嬢様が忘れていようともお嬢様が幸せなら構わなかった。


「大丈夫か⁈ 穂月‼︎」

と、飛び起きた私の元へと駆け寄ってきた父上の抱擁を甘んじて受けた。

その時、自然と涙が出たんだ。同時に、ああ幸せだなとそう思えた。だから、素直にこう言えた。


「大丈夫です、父上。最初は悲しい夢でしたが、最後には幸せな夢に変わりましたから、私は平気です。心配させてすみません、側にいてくれて有難うございます」


ああ、酷い隈……。何日も眠らないで側に居てくれたのですね……。


「何日、眠っていましたか」


「3日だ」


なら、父上は3日眠ってないのか。


「父上。私はあなたより先には死なないと約束します。だから、今日は眠ってください。

明日、私は孤児院に行きます。私が倒れたのは何らかの因果。体調が悪くて倒れたのではありませんと断言致しましょう。ですが、今日は念のためゆっくりと休みます。ですから、不眠を3日続けたのですから父上も今日はゆっくりとお休みになってくださいませ」


穏やかな声でそう言えば、


「わかった。明日、外出を許可する。ただし、無理はするなよ。それと、お前の言う通り今日はゆっくり休むことにするよ。それから、お前が倒れたことは雪夜様には伝えてないからな。安心して、ゆっくりと休んで欲しい。おやすみ、我が愛しの娘よ」


父上もとても穏やかな声でそう言ってくれた。

さすが父上、私のことをよくわかっている。

雪くんに伝えてくれなくてよかった。

彼が私が倒れたことを知れば、何を仕出かすか怖くて怖くてしょうがない。


「はい、おやすみなさい」


ああこの世界がとても愛おしい。



※※※※※※※※※※※※※※※※※※※



「お姉さん、何処からきたの〜?」


拙い言葉で彼らはそう尋ねてきた。

……ああ羨ましいと思うくらい純粋だ。

そう私は予定通り孤児院を訪ねていた。


「お姉さんはね、少し遠くからやって来ました。今日はね、ここに用があってきました、そのようが終わったら皆と遊びたいと考えているの。お姉さんと一緒に遊んでくれますか?」


そう尋ねれば、子供達は目をキラキラとまるで宝石のような輝きを放ち、うん! と頷いてくれた。


「夢、私があの方と話をする間、彼らの遊び相手になってあげて。朔斗、あなたは私の付き添いです。あの方が待っています、行きますよ」


畏まりました、そう彼らは同時に応じた。

私はその返事を合図に、あの方が待つ部屋へと歩き始めれば、朔斗は私の3歩後ろの距離感をそつなく保つ。しかも、常に警戒を怠らないときた。

やはり、朔斗は秘書としての教育だけではなく、従者として尚且つ護衛としての教育も受けているのだろう。教育されたこと全て自分の能力として活かされている分、彼はかなり優秀だ。自分の秘書と言う立場じゃなくともそう評価出来るくらいにな。


「朔斗、私の背後はあなたに任せます」


なら、主人である私はそんな朔斗の能力を優秀だと肯定し、信頼するだけである。


「……はっ、お任せを。姫」


姫なんて柄じゃないんだが。

人前だからこそ、お嬢様を演じているものの、家では彼らに素で接したと言うのにも関わらず、朔斗は私を姫と呼ぶ。頑なに姫と呼ぶことをやめないのだ。

まあ、したくもない命令をするほど不愉快な訳ではないから好きにさせるかと諦めた。


「まるで騎士のようですね、朔斗は」


皮肉を込めてそう言う。

すると彼は口元だけ微笑んで……。


「光栄です、姫」


穏やかにそう言うのだ。

このやり取りは好きだ。だから、時々騎士のようだと朔斗に言うことがやめられない。


「さあ行きましょう、我が騎士よ。私の背中はあなたに預けましたよ。しっかりと守りなさい」


これが私なりの朔斗への愛情表現だ。

恋愛感情ではないが、朔斗のことも愛しいと思ってる。会ってから、少ししか経ってはいないが、家族のように朔斗も夢も大切だ。


「全てはあなたの望むがままに」


その言葉を聞いてから、私はあの方が待つその部屋へと入る。そして、愛想笑いを浮かべながら、私は淡々とした口調でこう言った。


篠原佳代子しおはらかよこさんですね、……東雲哉太くんの産みの親ですよね?」


優秀なもう1人の秘書、夢が調べてくれていたんだ。正直、子供な私には情報収集には限度があるからね。まあ、まさか自発的に調べてくれてたなんて嬉しすぎる誤算。で、哉太くんと塩原希一くんの産みの親の正体、そして彼女らが企んでいたことの正体がつかめたのも嬉しすぎる誤算だ。


「塩原希一、この名前を親代りしていたあなたならわかるでしょう?」


「え、ええ……。この孤児院出身の子です。確かに親代りをしていました」


と、動揺しながらも私の問いにしっかりと応えてくれる彼女。見た目は6歳児だからってなめないで欲しいな、動揺してる状態で私を言葉で負かせられるなんて思わないことだな。


「それだけじゃないでしょう? 塩原希一くんは、あなたの甥っ子じゃないですか」


佳代子さんは明らかに動揺してくれた。

ああ、なんて純粋な人。そう考えながらも私は外堀を埋めていく行為をやめようとは考えない。


「塩原希一くんはあなたのお姉さんの子供でしょう? 何の因果かあなた達姉妹は同じ年に妊娠をした。あなたは日常的に暴力を振るう、やっとの思いで別れられた彼氏の子供。あなたのお姉さんは愛のない政略結婚をし、その相手が浮気したこと、そして束縛を理由に離婚。その後、その旦那の子供を授かっていることに気がついた……、その様子だと間違えない様子ですね」


顔が真っ青を越えて蒼白だ。

さすがに良心が痛むが、ここでやめてしまえば良くない定めの力が働いてしまう。

ここは心を鬼にしなければ。


「ですが、あなた達は子供を憎しむことが出来なかったのでしょう? ……見捨てられるほど残酷になれなかったのでしょう?

ですからあなた達は、孤児院を互いに始めた。そして、塩原希一をあなたが、東雲哉太をあなたの姉が育てることにした、彼らが幸せになれる家庭に迎えられるまで。良かったですね、あなた達の思惑通りに行きましたね?

ですが、息子さん達は本当に幸せに思っているのでしょうか? 息子さん達はきっと、本当の産みの親に自分達は愛されてないと思われのようですが?

あなた達は自分の子供を見ることを苦しいと思っていますが、愛されてない訳ではないのでしょう?」


そう私は言葉を区切れば、佳代子さんは即座に……いえ、反射的にと言った方が正しいのだろうか、食いつくようにこう言ってきた。


「私は哉太を愛しています。だけど、あの子の姿を見るたびにあの人の恐怖が蘇ってきて……、側にいたいのに側にいれないんです」


ポロポロと涙を流しながらそう話す。

その言葉に私はあえて厳しくこう言う。


「そんなのあなたのエゴですよ、偽善でしかない。……その愛を言葉にしなければ、の話ですがね。本当に哉太くんを愛しているなら、協力していただけますよね? 彼と会えとは言いませんが、2つほどお願いされてはくれませんか? 1つは孤児院の子達のためでもあり、この国を保つためでもあるお願いです。もう1つは哉太くんが心から幸せだと思えるためのお願いです。……彼を愛しているならば頼まれてくれますよね? 佳代子さん」


にっこりと私は笑ってみせる。


「それが哉太のためになり、あの子達のためになるのであれば……、私は何でもします」


顔は蒼白なままだ。だが、そう言った声から感じる決意は固いようだ。


「あなたならそう言ってくれると、信じていましたよ」


私はそう言って、もう1度微笑んで見せた。




1つ目のお願いは、水月が始める孤児院と合併し、今までの経験を生かし、働いて欲しいこと。

勿論、この孤児院にいる子達はその孤児院に引き取ることを約束する前提で。

2つ目のお願いは、哉太くんに手紙を書いて欲しいこと。彼も超能力者としての才があるらしいから、その手紙を萌芽学園の入学資格を得る年になったら渡すと話した。

結果的に、佳代子さんはその2つの話を引き受けてくれた。まあ、顔は蒼白なままだったけどあそこまで外堀を埋めれば致し方ないことだろう。


「それでは、しばらく子供達に遊び相手になってもらうことにしましょうか」


私はそう言ってから、佳代子さんがいる部屋からそそくさと立ち去った後、朔斗にこう言う。


「朔斗、あなたにも満さんと同じ日数の頻度で水月が始める孤児院へ講師として行ってもらいます。満さんとは日にちはずらしてですが……、頼みましたよ朔斗」


「はっ、全てはあなたの望むがままに」


その返事がもらえたため、私は朔斗に向けて満足気に微笑みを浮かべたのだった。



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