09:エピローグ
それから、彼女に私の言葉を信じさせる為に3日もかかった。事の顛末を手紙にしたためるとジェラルドからは「自業自得だ。お幸せに」という簡単で訳の分からない祝福が届いた。
初めてマゼンダと会わせた時、シンディーレイラは目を見開いて驚いていた。弟か妹ができると話した時は驚きすぎて混乱していた。それでも新しくできた姉達にぎこちないながら笑みを見せていたように思う。私の娘なら、すぐ馴染んでくれるのではないかと思っている。
使用人達は祝福してくれるものばかりではなかった。社交界では大いに陰口を叩かれた。それでも、私は彼女達を守ると決めたのだから気に病んでなど居られない。
マゼンダとの結婚の手続きが終わると、毎日、クロエッツアの墓に行くことが日課になった。私は彼女に謝る事がたくさんありすぎて、通わずには居られないのだ。仕事前の数分。それが私のクロエッツアを想う時間になる。教会のそばにある墓地は小さな森のようになっていて、王都の真ん中にありながらかなり静かだ。ここでならクロエッツアも穏やかに眠れるだろう。
週に1度、マゼンダは共に墓を参り、季節の花を手向けている。森の中の墓地に向かうその横顔はどんな夜会に向かう前より凛々しい。クロエッツアがどう思っているかわからないが、私はマゼンダの気の済むようにすればいいと思っている。元来、クロエッツアはあっけらかんとした女性だったから、きっとあまり気にしていない。
「ルーカス様」
「なんだ?」
「もし、この子が女の子だったら、クロエッツアと名づけてはいけないかしら?」
「どうした急に?」
「ふとそう思ったの。ね、どう思う?」
「どうかな……」
「クロエッツア様が嫌がるかしら?」
「どうだろうか……彼女の気持ちは私には分からないが…もし女の子だったらいいかもしれないな」
「ほんとう?」
「あぁ。クロエッツアが嫌だと思ったなら腹の子を男の子にしてくれるだろう?…私はそろそろ自分の味方が欲しい。女の子ばかりでは居場所が無いよ」
「まぁ、ルーカス様ったら」
そよ風が木々を揺らす。私は木漏れ日の眩しさに目を細めた。
―完―
「めでたし、めでたし。」番外編、第一弾。
シンディーレイラの父と継母、ルーカスとマゼンダのお話でした。
お付き合いいただいてありがとうございます。
よろしければ、評価、感想などいただけると嬉しいです。
さて、シンデレラの父というと本家のお話では影の薄い、なんとなく情けない印象の人物――というのは私の個人的な意見――ですが、今回はそんな父の恋模様にスポットを当ててみました。この後シンディーレイラとルーカス&マゼンダはすれ違っていってしまうのですが、それは罪悪感が障壁になり、小さな誤解の積み重ねが起こったため…と私の中では設定しています。生まれた子どもが男の子だった所為で、マゼンダは「クロエッツアに怨まれている」と思ってしまう事も大きな原因の一つです。ただの偶然なんですけどね。
はじめから愛情が無かったとか性格の悪い人物だったとかいう訳ではないので、シンディーレイラとは和解したのでは無いかなと思っています。2人が継続して墓参りしていることを偶然シンディーレイラが知って、そこから徐々に誤解が解け、交流が始まる…といった感じでしょうか。
「いじめられ続けたシンディーレイラがそれを放っておいた両親を許せるはずが無い。」とか「そもそもこんな感じの人たちなら、子ども達の不仲にちゃんと気付くだろう。」とか思われる読者様もいらっしゃるでしょうが、私は願望も込めてこのような物語にしました。
あまりにも本編と辻褄が合わないと思われた場合は、本編とはリンクしてるけど別世界、別次元(パラレルワールド?)の話と解釈していただければ有難いです。
都合の良いお願いで申し訳無いです。
ご指摘やご意見等はありがたく頂戴しますので、お手柔らかにお願いします。
それでは、番外編増やすつもりですので、もう少し「めでたし」にお付き合いいただければと思います。