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清流橋の掟  作者: 竜田
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第一話 二人の青年

初めまして。竜田と言います。タツタです


初投稿で至らぬ箇所あると思いますが、一生懸命書きましたので、ぜひ読んでいただけると幸いです。


 ――始まりはいつも突然だった。


 深緑が生い茂る森林。その中央を分つ川が全てをさらわんとするように流れている。

 そして森林を繋ぐ橋はただ一つ。下流と上流の中央部に位置する「清流橋」

 しかしその大橋を渡るために、庶民には到底取得できないとされる手形が必要になるのだ。

 手形も無しに渡ろうとする蛮族がいれば森林から追放。森林に住む者からすれば極刑のような刑が執行されるのだ。


 この物語は、この清流橋の掟を破った青年と、共に罪を被る覚悟を持った青年の出会いから始まるのである。



〜〜〜



 その昔、大森林の間を分つ川の上には対岸を繋ぐ橋が建設された。その名は「清流橋」

 しかし、清流橋は数年もしないうちに閉鎖されたという。後に、通るのに必要なものとして提示されたのは通行手形だった。しかし森の民には金がなかった。そのため、通行手形を手にするものは出てこなかった。

 それでも渡ろうとした蛮族には、橋の番人と呼ばれる鎧武装の人間に捕まえられ、鞭打ちの刑や爪はがしの刑を執行された者もあったそう。そして終いには、森林からの追放が課されたのだとも伝えられた。


 ――「終わり。この話を聞いて、どう思った?」


「父さんは僕が16にもなってるのに、そんなに怖がらせたいの?」


「怖がらせたいわけじゃ…いや、合っているか…怖がらせでもしないとお前は橋を渡ろうとするだろ。父さんはな、お前を極力守ってやりたいだけなんだ」


 そういって父親は、さらりと青年の黒髪を撫でた。


「…知ってるさ…そんなこと…」


 椅子で向かい合った親子。その青年の方は、中々に探究心に満ち溢れているらしい。そしてそれを制すために動いているのがいつも温厚な父親だった。しかし、効果はイマイチなようで。


「次、橋に近づいたら父さんは怒るぞ」


「わかったから、父さんは仕事だろ。手伝うから許してよ」


「…素直なのがまた怖いが…時間だな」


 青年は反省の心を一部持って、父親と家を出た。


 二人の足元には青々と生い茂る草たち、付近には木々が群生している。陽の光が木々の枝で揺れる木の葉に透けて、そこらにちらちらと光を落としている。遠くから川の流れる力強い音も響いていた。


「そこ、害虫がいるから駆除してくれるか」


「はいはい」


 まだ不貞腐れている青年は面倒臭げに、奇妙な青紫色をした芋虫に手をかざすとその芋虫は動きを止めて、乗っていた葉からポトリと地面に落ちていく。


「お前も光術が上手くなったな。父さんの仕事ももう一人前が近いぞ」


「まだ二人前って言いたいの?」


「捻くれるんじゃない…」


 そんな軽口を叩きながら、二人は「光術」を用いて森の環境を保護しているのだ。


 光術というのはいわば、魔法のようなものである。


「光力不足にはなるなよ。今日は帰ったら母さんが手伝って欲しいって言ってたからな」


「わかってるって。何回聞かされたと思ってるの」


「…よし、父さんは向こうのほうをやって来るから。ここは任せたぞ。くれぐれもまた番人に目をつけられるようなことをするんじゃないぞ」


「…はいはい」


 またも不貞腐れた返事で返した。


――少し川を見るくらいなら。


 青年はそろりと木々の間をすり抜けて川の方角へと歩みを進める。少しくらいなら。そう少し。


「やっぱり、綺麗だな」


 青年は川に裸足で入った。草の生える地面に腰を下ろして空を見上げる。青年はこの時間が好きだった。


――――っ!!!


 青年が立ちあがろうとした次の瞬間、地面が揺れるような轟音が森林中に響いた。

 鳥は危険を察知して一斉に飛び立ち、地を歩く動物は皆各々の棲家へと疾る。轟音を聞きつけた人間たちは立ち止まって皆怪訝な顔で空を見上げた。

 遠くから、番人の屈強な鎧姿が見え、すぐさま青年は身を隠した。


「なんの騒ぎだ――って…あっ!?」


 草むらに屈んで様子を見ていたはずが、青年は思い切り引っ張られるように空へと投げ出された。この一瞬で落ちたら致死するような高さまで上がってきたらしい。しかし、青年にはそんなことを確認する頭の余裕を持ち合わせていなかった。


「すまん、少し乱暴した」


 青年の耳を撫でる聞き心地の良い声の持ち主、この存在が青年を攫った張本人。姿は青年から確認できなかった。しかし、腕を掴む温もりは人間の温度であった。


「少し俺に付き合ってもらう。その代わり、お前の願いも叶える。取引は成立だ」


「僕はまだ何も言ってないっ…!」


「着地するぞ」


 ふわりと服の裾が揺れ、青年の黒髪を空へと攫う勢いで降下した。常人であれば発狂するような速度だ。そして「此奴」は話が通じない、これが青年にわかったただ一つの「此奴」に関する情報だった。


「…心臓が口から出るかと思った……っ」


「そんな訳あるか。常識がなってないのか?」


「それは君だろ!」


 流石に我慢ならず青年は「此奴」を振り返った。


「失礼なやつだな、お前」


 そこにいたのは十代後半ほどの、青年と同じぐらいの見た目をした人間の男だった。銀髪が陽の光を反射して、美しく光っている。少しの吊り目と薄い唇は薄紅に染まっている。

 所謂、美形だ。


「お前、名前は」


「…レイ」


 青年――レイは「此奴」に素直に名乗った。そうすれば「此奴」もの名乗る。そういう算段だ。


「へえ」


「え?」


「なんだよ」


 レイはしばらく唖然としていた。先ほど立てた算段が思い切り音を立てて崩れたように感じていた。


「…君も名乗りなよ」


「あぁ、そういうことか。俺はノア」


 まるで名乗る必要もないといった態度の「此奴」――ノアはやっと自分の名前を口にしたらしい。


「ノア…?そんな綺麗な銀髪なのにか……あっ」


「へえ?綺麗だと言うのか…お前は」


 ノアは黒という意味を知っていて違和感を覚えただけで口が滑ってしまったのだ。そしてこの様。青年に言い訳の余地も何も無かった。ノアはその様子を見てニヤニヤと青年に詰め寄る。


「お褒めに預かり光栄だな。でもな、この名前の由来は、親が悪人って言われてっから俺も心が黒いだろって意味なんだよ。ま、その通りになったって訳だな」


「……ノアは、響きがいいな…少なくとも、僕はそう思うよ。理由だか由来がなんであれ」


「なんだお前。急に気持ち悪い」


「っクソ野郎っ…!!」


 変に暑くなった空気は一気に流れていった。恐らく、ノアの仕業なのだとレイは知っていた。


「さて、じゃあ俺と一緒に旅をしよう」


「…本当に唐突だな、君は…というか、なんで僕なの?」


「…お前が一番、橋の真相に近かったからだ」


「真相…?」


 ノアの表情が真剣そのものになる。それにつられてレイも表情を引き締めた。


「今、森林がどうなっているか、知ってるか」


「…どうなってるか…?」


「本当に隠蔽されてるんだな」


「おい、何が起こってるんだよ、この森で」


 ノアがレイを真っ直ぐに見据えた。そして木に背を預け、伏し目がちに事の魂胆を説明し始めた。


「…今、森の四分の一ほどが黒林と化してる。簡単に言えば、毒に侵されている状態だ」


「毒…?」


「お前は橋に何度も近づこうとしてただろ。周りの奴らはどうだ。怖がって何も知ろうとしない連中ばっかりだろ」


「確かにそうだったけど…僕じゃ何も…」


 そんな正義じみたことが自分にできるのか、レイは考えていた。救えれば大森林もそこに住まう人々、家族が助かる。しかし、レイは今までただの青年だった。何ができるともわからず過ごしてきたのだから、不安になるのも当然といえようか。


「ウジウジしてても、お前以外に誰がやるんだ」


「…僕じゃなくたって、君が成し遂げればいいじゃないか…」


「俺が何の為にお前を連れてきたのか、まだ分からないのか」


 ノアが呆れたようにため息を吐いた。


「助けが必要なんだよ、お前のな。癪だが俺は森林を救う為なら自分が成り下がってでも成し遂げて見せる」


「…僕のこと貶してるよね。それ」


 ツッコミどころは満載なままだが、ノアがどれだけ必死であったのかはレイに伝わったはずだ。それに、レイは心を――。


「……頑張ってみたいと、思ったよ」


「じゃあ、どうする。どうしたい」


「…着いて行くよ。僕なりに、君に協力してあげる。ただ、僕にも協力して欲しい」


「協力…?」


 レイの「協力」という言葉にノアは眉を顰めた。


「…きっとこれから、沢山の危険があるはずだ…だから、僕に生きていく術を全部教えてくれ」


「…はっ、俺に教えろってか…いいが、ガサツだからな俺は」


「自分で言うかな、そういうこと」


 二人は軽口を叩き合いながらも歩いて行った。



〜〜〜



 森の中を進む間、二人の口数は減らなかったが、ふとレイが口を開いた。


「黒林って、どんなだ」


「…見てみるか?」


「……うん」


 突飛な提案にレイは歯を噛み締めながら頷いた。


「飛ぶぞ」


 ノアはレイを横脇に抱えて空へと飛び立った。足が地につかない感覚がレイには不慣れだが、それを上回る緊張感が恐怖を塗りつぶしていた。


「……っ」


 少し前進すると見えてきたのは立ち上る黒い霧であった。

 その元にあるのは黒く変色した木々たち。生物の生きる雰囲気など毛頭ないように感じられた。


「あれが黒林だ。これ以上進むと毒に侵されて全身麻痺で死ぬぞ」


「…それだけのことを何で隠すんだよ…」


「この大森林は大陸で最大だからな。尊厳ってもんを守りたいんだろ」


 黒林を見つめるノアの瞳は無表情に見えて、奥底には寂寥感と虚しさに溢れていたように、レイには見えていた。


「…僕たちにこれを食い止められるのかな」


「やるしかないだろ」


 そうして二人はもといた場所に降り立った。ノアは乱雑にレイを手放す。


「って…!配慮ってものがないのか…っ」


「受け身を取れよ。阿呆だな」


「無茶だ!」


 尻に着いた土を手で払いながら、立ち上がる。そして歩き始めると木々の群生が途切れてくる。


「もうすぐ抜けるぞ」


「――っ」


 すると、眼前に広がったのは広大な草原。

 風で草がそよそよと揺れ、ちらほらと花々が咲いている。


「初めて森を抜けた」


「世間知らずの箱入り息子かよ。俺も初めてだけどな」


「よく人のこと言えたな」


 すかさずツッコミを入れるのにも慣れてきたレイ。これはこれで悪くないようだ。


「それにしても、広い草原だ…綺麗」


蝶が花に留まる光景、木のひとつないその景色、その全てがレイにとって初めてであり、瞳を揺らすほど夢中でその景色を目に焼き付けた。


「そんなことしなくたって、これから飽きるほど見るんだぞ」


「うるさい。今だからこんなに美しいなら、その景色を記憶に残したいのは当たり前だろ」


「あっそ」


 興味なさげに草から視線を上げたノアは、感動に浸るレイを見ていた。


「…というか、ノアはあんな黒い森で生活してたのか?」


 やっと記憶に焼き付ける作業が終わり、レイはノアを見つめ返した。


「阿呆か。流石にあんなとこで生活なんてしてたら死ぬ。俺が住んでいたのはあれより東側だ」


「…だよな。ということは西側が黒林…になってるってことか」


 「黒林」という言葉が口に馴染まないレイだが、状況は何となく整理できてきたらしい。


「そういうことになる。お前が住んでたのは北北東の地域だからまだ黒林の手は届かないだろうな」


「…そうか」


 まだ届かない。レイは知ってはいたが、まだ大森林が黒林に侵され、いつかもともと住んでいた場所をも飲み込むなどという残酷な話が信じられていないのだ。信じられないというより、想像できない、といった感覚だろう。


「――伏せろ」


「…は」


 その瞬間、けたたましい咆哮が辺りに響き渡り空気を揺らした。


「…魔物だ…こんなところに出るなんてな」


「…魔物…?あの本に出てくるような化け物の話?」


「見たことはないんだな。じゃあ今からあいつを倒せ」


 ノアの指差した先には狼のような風貌だが、雰囲気は禍々しくどんな生物にも似つかないその闇に包まれた魔物にレイは腰が引けた。


「は!?僕…?戦い方なんて知らないよ…!」


「生き方をガサツな俺から学びたいんだろ?教えてやるからいう通りにしろ!」


「本当にガサツだな!」


 文句を言いながらもレイは魔物と向き直る。震える足を何とか立たせながら歯を食いしばった。


「お前、光術は使ったことあるか」


「害虫駆除程度でなら…」


「なら元はできてる。手に力を込めて、あとはアイツに照準を構えるだけだ」


「そんな簡単に…っ」


 二人の口数が減らないうちに、魔物は二人に気付き咆哮を上げ出した。


「お前ならできるだろ」


「…っ」


 手の平に全神経を集中させ、光力を溜めて髪がふわりと揺れた時、レイはその手を魔物へと向ける。


 ――――っ!!


 咆哮を上げながら迫ってくる狼型の魔物にどうしても恐怖心が湧き、最後の一手が叶わない。


「早くっ!!みっともねえとこ親に見せれんのか!」


「……見せないよ」


 頭の中がスッと冷静に晴れて、捉えた敵を逃さないその瞳の眼前には魔物が迫る。

 再び光力を手中に溜めるイメージを組み上げて、組み上げて――


「――今」


 爆発音と共に、レイの放った光力の弾は魔物へとぶつかって灰も残らせず、その標的を肉はおろか、骨も残さず消し飛ばした。


「…ここまでやるか?普通…」


「……」


「おい」


 レイは意識を保てず、その場に倒れ込んだ。


いかがでしたか?面白いと思っていただけたら嬉しいです。次回もよろしくお願いします。

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