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7.雪遊び 【前編】

「ヤマシィ、窓あけてくれる?」

 暖房費節約のため、我が家では遮熱カーテンを引いて窓を締め切り、コタツにもぐりこむことにしている。

 だが、ずっと部屋を閉め切っていると空気が悪くなってくるものだ。その為数時間に一度は喚起のため窓を少しあけるのだが、寒いので余り窓際に立ち寄りたくない。

 だから自分はコタツに入ったまま、手近なヤマシィに頼んだのだが、

「おや?」

 カーテンを開くなり、ヤマシィは声を上げた。

「どうかした?」

「いえ、窓の外が真っ白です――――そういえば、昨夜は大分冷えていましたね」

 ヤマシィの言葉に釣られてコタツから抜け出して、分厚い半纏を羽織ると私も横から窓を覗き込んだ。

 寒さと好奇心を計りにかけて後者が勝ったのだ。

 見れば確かに窓の外――ベランダ越しに見えた地面は銀世界をつくっていた。

「あ、雪?」

 そうか、そういえば昨夜の天気予報でもアナウンサーが何か言っていた。

 余り熱心にテレビをみないので聞き流していたが、なんとなく今夜辺り雪がどうたらといっていたような気がする。

 予報はあたったらしい。最近外れることも多い天気予報だが、今回は予想的中。

 しかも目測で計った感じ、この辺りでは近年まれに見るほどの降雪量に見えた。

「雪だるま作れそうだね」

「作りたいのか?」

 ぬっと横からターナが現れた。

 キッチンで芋を焼いていたはずだが、私たちの声に引かれて出てきたらしい。

 フライパンに良く洗って熱湯消毒して乾かした石を並べて、アルミホイルで包んだサツマイモを埋め、蓋をしてこまめにひっくり返しながら一時間ほど焼く。

 ご家庭でも簡単に作れる石焼き芋の作り方である。

 この時期家で引きこもっていると、焼きたて石焼き芋の存在をアピールする独特のメロディをよく耳にすることになる。

 余りにも頻繁に耳にするため気になったらしく、ターナがあれはなんだと聞いてきたのだ。

 私が説明してやると、今度は石焼き芋の存在が気になったらしい。

 しかしあれは買うと思いのほか高くつく為、買いに行こうと誘うターナを押しとどめ、代わりにご家庭で作れる方法をターナに伝授した。

 これならさつまいもの材料費と光熱費以外はかからず安上がりである。

 ちゃんと綺麗な黄色をした、蜜であまーく香ばしい焼き芋ができる。

 ただ、石を焼く関係上フライパンは傷だらけになるので、新品のフライパンではオススメできない。

 我が家には専用に古いフライパンを用意してあったので、それを引っ張り出してきてターナに渡した。焼き芋作成用にとってある石をいれたプラスチックのケースも渡した。

 それからまもなく1時間近く経つ。

 ターナはすぐに作業に取り掛かっていたから、そろそろできてもおかしくない時間である。

「おいもできた?」

「いや、まだだ。だがいい匂いはしてきたぞ。あと少しだな」

 箸をさすとまだ少し固いらしい。もう少しの辛抱だと重ねて伝えてきた。

 確かにこの部屋にも香ばしい香りがふわりと香ってきている。

 できあがりが待ち遠しい。

「そっか。出来上がったら一緒に食べようね。楽しみ」

「ああ、わたしも楽しみだ。……で、芋はさておき、雪だるま、作りたいのか?」

「うーん、ちょっとだけ。寒いから出て行くのめんどくさいけど、こういう時くらいしかできないことだしね。雪うさぎも可愛くていいよね。・・・・・・そうだね、うん作りたいかも」

「なるほどな」

「うーん、そうですねえ。フオンが望むなら協力しますよ。寒いですけど」

「ああ、寒いな。だが、やり用はあるぞ」

「え?」

 やり用とはなんだ?

 雪を丸めて転がすとか、雪をぺたぺたくっつけて固めていくとか――――いずれにせよ、寒い冷たいには代わりがないはずだ。

「隣の部屋を借りていいか?」

「別にいいけど、何するの?」

 何かを準備していこうというのだろうか。

 しかし、暖房は持っていくことはできないし、そもそも雪が解けてしまう。

「余り散らかるようなこととか、お金かかることとか、そういうのはダメよ?」

「問題ない」

「なら、いいけど……」

 本当に、何をする気なのか。

「フオンにわたしの力を見せてやる」

 私の不安げな顔をその長身で見下ろして、フンと鼻をならす。

 そして、魔王ターナはその顔にニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「面白いものが見れるぞ」

「ほほう、何か楽しそうですね。そうだ、僕で協力できることでしたら手伝いますよ」

「そうか、お前が手伝ってくれるなら」

 ひそりと宇宙人ヤマシィの耳に魔王ターナは低く何事かを囁いた。

 その姿を巷に溢れるフのつく女子が見たら黄色い悲鳴間違いなし。カメラが今手元にあったら激写して売りつけてやるのにと思ったのはここだけの話だ。

「……とかはどうだ?」

「いいですね、面白いと思います。……とかはいかがですか?」

「……なら……だと思うが」

「そうですね、ではそういう方向で」

 男たちの密談はしばし続いていたが、漸く相談がまとまったらしいのを見て、私は横から話しに介入する。

 そんなことよりも今大事なことがあるのを忘れてはいないだろうか。

 先ほどから私はそわそわし始めていた。

 そう、

「ところで、石焼き芋は?」

 石焼き芋の存在である。鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに私のおなかも存在を主張し始めていた。

 とりあえず石焼き芋、石焼き芋のほうが大事。

 自分で確認にいかなかったのはキッチンが寒いせいである。

 私の疑問にターナが飛び上がった。

「しまった、そろそろできてもおかしくはないな。話は後でだ」

 慌ててキッチンに戻るターナに、私は石焼き芋が焦げすぎていないことを祈った。


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