(4/4)弾丸娘の恋
試合当日、小塩由香はいつになく燃えていた。中森トオルは関係ない。今自分ができるベストを尽くす。沙保里と優子とグータッチを交わす。試合前の円陣で大きな声を出す。
試合開始早々由香は感じた。今日は絶好調だ。それでいて冷静だ。周りがよく見える。おや、グラウンドサイドの応援の中に中森トオルがいるではないか。あ、こちらに手を振っている。困った奴だ。あいつのために頑張ってやるか。
チャンスはいきなり訪れた。沙保里が敵のパスをカットして由香にロングパスを出す。一気に駆け上がる由香。左から大型ディフェンダーの一人大迫姉が体を寄せてくる。ここでも由香は周りが良く見えていた。肩を当ててくる大迫姉の動きをそのままなぞり回転を加速させる。バランスを崩すディフェンダーを置き去り一気に加速する。
大迫妹も来たが同じだった。倒されず、むしろ相手のバランスを崩しゴール前フリーとなって、そのまま決める。
歓声があがる。チームメイトが由香に集まってくる。由香がサイドにいる中森トオルを見るとグッドジョブサインを送ってきた。思わずガッツポーズで返す。
今日は一方的だった。縦横無尽に駆け回る由香に敵チームは翻弄され4対0での勝利となった。試合終了のホイッスルと同時に由香は中森の方に走った。と、何を思ったのか中森トオルもグラウンドに向かって駆け出した。
そのままの勢いでグラウンド上で抱き合う二人。由香のチームメイトも敵チームも全員が、いや、応援者の全員がグラウンド上で抱き合う二人にあっけにとられ、注目した。
レフェリーが二人に駆け寄り、警告を出すようにホイッスルをならした。
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「そういう事もあったね」と中森トオルは静かに言った。
「なぜ、あなたは私なんかを選んだの?背も低いし、色も黒いし、髪も短いし、なにも良い所なかったのに」と病室のベットの上で由香は言った。
「健康的で可愛いなと思った」
「でも、今は健康的じゃないけどね」
「プロのスポーツ選手がなに言ってるんだ」
由香は病室の外を見て言った。
「ありがとう。私がいなくなっても元気でね」
「やめてくれよ、君がいなくなったら僕は山の中でひとり静かに暮すくらいしか出来ない」
「冗談よ。私が根性あるの良く知っているでしょう」
「それでこそ、ぼくの奥さんだ」
「それじゃぁ、また明日」
「うん、また明日来るよ。おやすみ」
中森トオルは病室を出て静かに涙を拭った。まだ、明日はある。何があっても未来は続く。




