(3/4)弾丸娘と特訓
意外な事に中森トオルはサッカーが上手かった。器用にボールを操るしドリブルも素人ではない。「小学校のころやってたからね」と言っているが何でも器用にこなす人間はいるものだ。頭もよく運動もでき、おまけに顔もいいってズルくないか。
由香は中森トオルをディフェンダーに見立てて当たりの練習をした。が、少し気まずい感じがしてつい当たりが弱くなってしまう。
「おい」と中森が言う。少し怒っているようだ。
「何、手を抜いてるんだ。もっとちゃんと当たれ」
由香はムカッとして先程感じた謎の気まずさを忘れ、中森と激しい当たりを繰り返した。
「回転と重心を意識しろ!!慣性モーメントだ」と中森が叫ぶ。なかなか思うように行かず由香の方が逆に転び泥まみれになった。それを何度も何度も繰り返す。
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優子と沙保里には特訓のことを話した。部活の時も多くの時間を中森とのメニューに割いた。最近では由香と中森の特訓を多くの部員が眺めている。由香が転んだ時は、あーーと残念な声が上がるし、逆にもう少しで中森トオルを倒しそうなときは、行けーーと応援の声が飛ぶ。
そんな練習を1月程続けたある日、由香は中森の動きの軸が見えた。ディフェンダー役で体を寄せてくる中森の軸に沿うように体を当て回転を加速させる。すると中森がバランスを崩し2、3歩もたつき、転ぶ。
見ていた女子サッカー部員から、わーっという歓声が上がる。
中森が笑いながら由香に近づき「やるじゃん」と肩をポンポンと叩く。その触られた肩がとても熱く感じ動揺する由香。ずっと激しいぶつかり合いをしていたのにどうした事だ。
放課後の校庭に夕日が長い影を作る。
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次の日からも由香は中森との練習を続け、相手の動きを利用した当たりをマスターしていった。とにかく汗をかいた。気持ちがいい。でも、こいつは何を思って私の練習に付き合っているんだ?
そういう疑問も由香の頭の中に浮かんだが、今はただサッカーに集中する。
そんなある日部室に入ってきた優子が言った。
「横須賀中央との練習試合が決まったよ。さ来週の土曜日ね」
部員たちから歓声が上がる。
由香は中森トオルの教室に向かっていた。一応、試合の日程を教えてやろう。ただ教えるだけだ。隣の教室に入り中森トオルを探す。いた。後の方で席に座って本を読んでいる。由香が中森に近づこうとしたとき、一人の女子生徒が先に中森に声をかけた。
「中森君、数学を教えてくれない」
とても可愛い女子生徒だった。髪が長くて色が白く、美少女というのを絵に描いたようだ。
「あぁ、いいよ」と中森トオルは言っていた。よく考えると中森はイケている男だ。変人扱いして悪かったな。あぁ、二人はお似合いだな、と由香は静かに教室を出た。




