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呪術は小説より奇なり  作者: 麻人 弥生
妖刀村正擬き

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38/40

呪いを叶えた者

「呪いになるってどういう・・・」

不如は村重の言った事を反芻して考えていた。

村正は村重が先程までの弟とは違うものに変わっていくのを直感的に理解し、

四子はその言葉に目を見開いた。

その空間はより緊張で張り詰め今にも弾け飛びそうだった。

「これ何かまずい事をした感じ?」

その様子に耐えきれなくなった海斗は取り返しのつかなさそうな状況を改めて言葉に出していた。

その中で一番正しく状況を理解していたであろう四子が返答した。

「あいつは神に成った」

「神?神様?」

その言葉に反応した不如に四子は簡潔に説明をした。

「日本には八百万の神が居るとされている。

それだけの神を許容出来るのには理由があるんだが、それよりもそれだけ多くの神が居るってことは作り出す方法があるってことだ。

あいつの言っていることが、自身を呪いそのものにするってのが正しければ、500年を掛けて自分自身が神になる為の呪術を行っていたって訳だ。

それが”妖刀 村正”の真の狙い。


自身で研ぎ呪いを分けた刃物で人を襲わせることで呪いとしての力を増幅させ、

今や霊体からの受肉を果たした。そこで他者に元の体を殺させる事で人としての繋がりを断つ。

複雑な呪術と他者から齎された死。

その怨念で人は神に成る。


だがここは隔絶された迷い家の、所謂結界の中だ。条件が揃っただけじゃあ神にはなれない。

何故なら他者から願われ、畏怖され、秘され、祀られるのが神だからだ」

その説明に割って入った村重は笑っていた。

「詳しいですね。流石死神、しかし貴方にはその肩書きを名乗る程の力はないと今までの殺陣(あそび)で十分に理解しました。

そして、ここが人為的に作られた空間で、貴方達がここで私の相手をしている以上外へ出る為の手段は何かしら存在しているという事も明白。

今回は肉体を手に入れるまでと考えていましたが・・・、ここまで駒を進められた。

間違いなく皆さんのおかげです。

実に気分が良い。もしこのままここから出してもらえるのでしたら、貴方達の命は見逃してもあげてもいい」



「不如、真理は外にいるよな?」

「四子ちゃんに言われた通りだよ」

「上等。んじゃ、合図をしたらお前らは全力で外に出ろ。時間は俺が稼ぐ。その後はウチの上の奴等が何とかすんだろ」

平然と言ってのけられた言葉に僕は納得が出来なかった。

「待てよ。僕らが足手まといだって言ってるのか」

「そうだよ。これはもう神殺しだ。お前には荷が重てぇだろ」

ただでさえ眼付きの悪い四子の瞳は僕の眼を真っ直ぐと見ていた。

分かるよ。言いたい事は分かる。いつもは自信がたっぷりとある四子の瞳が微かに揺れている。

それでも、ここで、友達を置いて逃げるという選択肢はずっと前に捨てたんだ。

「僕がどうして功夫(カンフー)が好きか分かるかい?」

「それ今関係あんのか?」

「大いにあるね!功夫(カンフー)ってのは強くなる為にあるんだ。

つまり、相手が何者でも立ち向かうんだよ。

あんな成り立てほやほやの性格も悪そうな奴が神だっていうなら世も末だね。

本当の神様ってのはブルース・リーの事を言うんだ」

僕の返答に部長が笑った。

「これで2対1だね。私だって友達を置いて逃げる気はさらさらなかったし。

真理ちゃんのことだって聞かれたから答えただけだよ」

僕達の答えを聞いた四子は村重へと渋々向き直るといつもの強く鋭い眼光で睨みつけた。


「交渉は決裂だ!俺らでテメェの事をぶっ殺すことに決まったぜ!!」

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