万物を研ぐ
「何か切れ味ヤバイのが飛んでくんの何とかできねーのか」
村重は手を使った動作から生み出していた物質を足からも放っているのか、その攻撃のバリエーションも数もその攻撃を凌ぐ度に増やしていた。
四子の鎖による位置把握と海斗の先読みで掻い潜ったところで攻勢に出れるほどの間合いを詰めるにはもう一歩足りない状況だった。
「私でも見えない物は捉えられないよ!!」
「そうだよな、言ってみただけだ!」
「でもなんとなくアレの正体は分かってきましたよ。多分空中の何かを研いでるんじゃないでしょうか?」
村重自身の砥石を破壊した時から何となくそのカラクリを考えていた海斗の読みは当たっていた。
生前から刀を作り続け身体から精神にまで染み付いた動作と真実を捉える眼とその天性は肌で触れたものを鋭く研ぐという性質を持っていた。
そしてこの戦闘の中で更に洗練され両の手を使っていた所作はそれぞれの掌と足の裏を使った攻撃を可能にしていた。
「だとして、どうすんだ!」
「部長に斬撃を止めてもらいます!!四子は追い込んで!!!」
海斗の目配せで不如はタイミングを計る。
どんなものであれ存在し、認識が出来れば部長の物理干渉は可能だ。
それについては散々色々試したから自分も分かっている。
「追い込むったって!!」
それを足場としている訳ではないが、村重の作り出す足裏の見えない斬撃はどういう原理か移動速度の飛躍と不規則さという厄介な副産物を生みだしていた。
「だから追い込んで欲しいんですよ!!」
「無茶ぁぁアアアア!!!」
四子は鎖を纏いながら村重の死角から回り込むように分銅を投げつけた。
反応は少し遅れたが危なげなく村重は防御の姿勢を取った瞬間、
掌に収まる程のサイズの分銅はその質量を何十倍のも増して軽自動車ほどの大きさになると、村重が防御した量の腕の上から圧倒的な質量で弾き飛ばした。
海斗はその隙に弾き飛んだ村重との距離を詰める。
それを目で追っていた村重は無理な体勢のまま自身と海斗の間に見えない斬撃を置いた。
(先程から彼にだけは何故か空研が当たりませんね。まさか見えているという訳はないと思うのですが・・・)
攻勢を続けていた村重の思考は積み重なる海斗への違和感から体勢を立て直すまでのほんの短い間に守りに入った。
海斗は視界いっぱいに弾け続けた死のイメージが止んだその一瞬でその隙に付け入る。
間合いの外で海斗が腕を振った。村重の視界は薄い埃のような粉が包み込んだ。
「特別配合のパワーパウダーだ!!!」
広がり空気中に待ったそれは、見えない斬撃の輪郭を露わにした。
「それならいけるね」
薄靄の中で村重は大きく手を振って更に斬撃を作ったがそれも合わせて不如の物理干渉が捉えた。
小回りが利く様に三節棍から一節削りヌンチャクにしていた海斗の間合いに村重が入る。
「アチョアァァ!!」
横一線。
硬い棍棒は遠心力を得て更に加速する。
海斗は村重の顔があった場所を勢いそのままに薙ぎ払った。
「!?」
がしかし、まともに攻撃を受けたのは海斗の方だった。
確かに手応えはあった。手応え?
吹き飛ばされつつ握りしめたヌンチャクを確認すると村重に打ち付けた方が半分のほど短さになっていた。
(こんな使い方も出来るのか!?)
村重はインパクトの瞬間首を捻り摩擦を発生させ四肢と同じようにこちらのヌンチャクに研磨割れを起こさせたのだ。
「意外と身体は覚えているものですね」
左の顳顬から血を流しつつ村重はこちらにカウンターで右拳を突き出していた。
距離を取ると思っていた海斗の予想に反して村重は徒手空拳を選択した。
間合いが一気に詰まる。両の手が届く範囲で互いの武は交錯した。
村重の体捌きをすぐに古武術に由来するものだと気が付いた海斗であったが、それはより本質的な実践的なものであった。
反復した動作と不死の呪いによる先読みの反射で最善手を取る海斗に対して、眼の良さからくる圧倒的な読みと四肢を使った空研を混ぜた手数と足裁きの村重。
互角のように見えるが攻撃を防ぐ度、攻撃を防がれる度に海斗の拳は村重によって削れていた。
海斗は目の前の相手に完全に集中していた。
「ナントカ君!!四子ちゃんが!!!」
その声に咄嗟に振り返ると血に濡れた四子が倒れていた。




