ブレイクファーストブレイクタイム
「さっき入ってきた、あそこのお客さんって2人組だったわよね?なんであなた4つもお冷出して来たの?」
「え?それはお人形さんの分と・・・。あら?1つ多かったかしら」
「いや、そういうことじゃなくてね・・・」
店員さんの気遣いなのか、なんなのか4人分のお冷が出てきた。
そんな事に部長と真理さんは既にだいぶご満悦な様子で、通されたボックス席には霊体組と実体組でオセロの最初のように僕達は座っていた。
食い入るようにメニューを見ている真理さんに対して、隣の四子はどんなメニューなのかをざっくりと説明していた。
ナポリタン=赤い麺。美味い。
卵サンド =ぐちゃぐちゃの茹で卵が挟まったパン。美味い。
オムライス=卵に包まった赤い飯。美味い。
トースト =焼いたパン。塗るものによる。etc
ざっくりというか雑だな。でも、うんうんと頷いて聞いている真理さんは学校に来てから。厳密に言うとケーキを知ってから食というものに対しての好奇心がすごいのだが、そんな様子を見ているとなんだか微笑ましい気持ちになるのだ。
隣を見てみると多分、部長も同じ気持ちなんだろうなといった具合であった。
というかまさか、朝ご飯を食べに来るなんてイベントが発生するとは思っていなかった。確か随分前に部長から聞いたのだが、幽霊は腹が減らないらしい。しかし、好物などが消滅する訳ではないので時たま食べたくなる。そんな時にお供えを要求してくるのだ。その人のことを想い、供えられたものは霊も触れる事が出来るみたいで無論、味なんかも分かるそうだ。尚相手が相手なので食べたものが何処に行くのかは知らない。
物思いに耽っていると、先ほどお冷を出してくれた店員さんがやってきた。
「ナポリタンとサンドイッチ。それとケーキセットをホットコーヒーで。あと小倉トーストとクリームソーダ。以上で。」
ずっと四子のターン、僕のターンはなかった。
これはあれだな。部長と真理さんに供えられた奴が僕の朝ご飯ってことだな。
「んだよ」
「んだよってなんだよ・・・。別に何も言ってないでしょう」
「不服そうな顔したろ」
「僕の人権が少なめでちょっと悲しくなっただけの顔ね」
「海斗。食べ物は大切にしないといけないのよ」
「私達ばっかり食べたいもの選んじゃって悪いねぇ」
「そういうこったな。レディファーストって事で」
仕方がない。人の金で食べるというスパイスで美味しくいただく事にするとしよう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「それにしても、死神の仕事ってどんな感じなんですか?」
ズパズパとナポリタンを貪る四子にずっと気になっていた事を聞いた。
よく考えなくても今回の件は国家権力からの下請けという構図だ。しかも僕等はある程度の力というか、慣れはあれども高校生。
大手を振って捜査なんかしていて良いのだろうか?まして、辻切り侍まで出張ってきている。括らねばならぬなら早めに腹を括れた方が僕にとっても都合が良い。
「お前、俺達が下請けだとでも思ってんだろ?まぁ厄介事をこっちに回してくる事には変わんねぇから、間違っちゃねーかもしれねーな
とりあえず、今回の件で言うと”呪具”が出たからこっちの引き取りになったんだよ。警察ってのはあくまで”人”関連の組織。俺達は”霊”関連の組織って言えばいいのか?例えば行方不明者が出るとするだろ?基本的にそれは警察に届けられる訳だが、蓋を開けてみたら呪いやら、霊やらが絡んでました。そうなるともうどうしようもないわな。そんで俺みたいなのが駆り出されるって訳だ。」
口の周りをケチャップで真っ赤にして笑う顔がなんとなく不気味な四子である。
「それでなんで死神なんですか?」
「さぁ?そうやって呼ばれて来たし、疑問に思ったこともねーな」
「そういえば私も聞きたかったんだけどさ」
小倉トーストと食べ終えて(実体は残っている)、クリームソーダを啄ばみながら部長が会話に入ってくる。
「前に管轄がどうとか言ってたじゃない?四子ちゃんみたいな人って何人もいるものなの?」
「そーだな。ざっくりと、一つの都道府県に2人くらいだ。後、おもしれーのが田舎の方だと基本平和で何か起こるとヤバイ。街だと色々あるけど大概しょぼい」
「だと今回は?」
「結構ヤバイ。猫の手も借りてぇくらいヤバイ」
「真理ちゃんからは何かないの?」
「待ちなさい不如。今、レモンクリームパイとの出会いの余韻に浸っているところよ」
ずっーと静かにしていると思ったらこの人、一人でケーキと対話していたんですね・・・。
と僕の方へやってきたお皿の上の小倉トーストを一口齧ったのと同時に四子に着信が入った。
携帯を取り出してげぇという表情、口元に人差し指を当ててこちらを見る。そして静かに電話に出た。
「お疲れス。はい、はい、ツレと朝飯喰ってて。はい?店の方はもう行ってきましたけど、はい。」
四子がこんなに畏まる相手とは誰なんだと、僕と部長は多分同じことを思い浮かべながらやり取りを見ていた。無論、真理さんは未だケーキに思いを馳せている。
「りょーかいス、はい。・・・んだよ」
「いや、新鮮だなと思って。ねぇ」
「四子さんが敬語っぽいの使ってて楽しくなっちゃったんですよ」
「俺にも頭の上がらねぇ相手の一人や一人くらいいんだよ」
「あ。具体的に一人なんですね」
「それで、そんな人から何の連絡だったの?」
「今夜から警察の巡回に入れってさ、お前らも」
僕はまたも自分の人権の少なさに悲しい顔をしていたと思う。
人権少なめ、仕事多め、人間関係辛め




