コレクターは語る
今夜からパトロールをしないといけなくなったので、僕達は一旦解散(四子だけ離脱)。また21時に駅前の交番に集合という流れになった。
どうやら死神という職業に労働基準法は適用されてはいないみたいだし、僕に至ってはボランティアなので有難いことに後ろめたいことなど何もない。まっさらでブラックな労働に励むこと出来るのでした。
さて、夜までに色々と準備をしないとなと考えていると部長が声をかけてきた。
「あのさ、ナントカ君。朝に行ったお店に帰り掛け寄ってもらってもいいかな」
「いいですけど。どうしたんですか?」
「もうちょっと、あと今ひとつあのお店が気になるというか・・・。こういう勘は大切にしていかないとね」
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もう開店してから暫く経ったのだろう。今度は表から店舗の中へと僕達は入った。
「あぁ、先ほどの・・・。何か忘れ物でもしましたか?」
「いえ、単純にもっとナイフなんかを見ておけばよかったなと思いまして」
僕の返答に店主が顔を綻ばせていくつか店のビンテージのナイフについての説明をしてくれた。
さて、本題はここからだ。
「朝に伺った時と同じような話で申し訳ないんですが・・・。あそこに飾ってあった刀というのは、どんな風に飾られていたんですか?」
ここからはもう部長にやり取りを任せて僕はあくまで通訳という感じだった。
「ショーケースの中に鞘と抜き身を並べていました。刀というのは兎に角錆を嫌いますので、定期的に手入れもしておりました。私自身、研師としての活動もしておりますしずっと我が家で大切に保管していたものでありますから・・・」
高さ的には手を伸ばしてもギリギリで届かないほどで、きっと店主も何かに登って下ろしたりしていたのだろうと想像出来た。
「それなら本当に800万円の価値もありそうですけどね」という部長の言葉に店主は笑った。
「刀剣も難しいですからね。それこそ5億の値が付くものもあるくらいですから」
そう言って取り出してきた古い雑誌をペラペラと店主は捲る。
「これですこれ、山鳥毛。全く本当に美しい・・・。はて、こんな会話を前にもしたような・・・?」
パラパラと捲れた雑誌のページから一枚の紙切れが足元へ落ちた。
僕はそれを拾い上げて確認した少し疲れたような紙質、それは名刺だった。
「そうそう、この人ともこんな話をしたんですよ。珍しい名前でしょう?これで鹿骨って読むらしいですよ」
鹿骨、鹿骨螺烈つい先日、駅前で絡んできた不審者だ。
僕は咄嗟に声が出そうになったが、分かりきっていたかのように部長がそれを制してきた。
「確かに珍しいですね。鹿骨、何処かの地名でしたっけ。この方も同業だったりするんですか?」
「おや、学生さんなのにお詳しい。名刺にもある通りどうやら美術品なんかを取り扱っているとの事でしたが、本当に刀やらナイフについての話で盛り上がったという事しか覚えていないですね・・・。あ、そういえばこの人も最初は、そこの刀に一目惚れをしたと言って入って来たんだったな」
そして再度、空になったショーケースに目を向けた。
「その人とは他にどんな話をしたんですか?」
「あー、良い商品が入ったら見せに来ますと言って帰った後、今から半年くらい前にもう一度来たんだ。実際、彼はなかなかの目利きでね、幾つかハンドメイドのナイフを買ったら手入れに使ってくれと砥石をおまけしてくれたんだよ」
「ハンドメイドのナイフですか・・・。それを見せてもらっても?」
「なんだい、君もイケるくちだね」
店主は嬉しそうに店の奥に引っ込んでしまった。
その間に僕は名刺の表と裏を写真に収めておいた。昨日の名刺は四子が破いてしまっていたからである。
しばらくして、何やら厳重なケースを持って現れた店主は、どかっと僕の目の前にそれを置いた。
「外国の作家のシースナイフのシリーズだ。9本セットで揃っているのは私も見たことが無くてね。即決だったよ」
そうして広げられたのは、使い込まれたハンドルとは裏腹に一点の曇りもない刃を持つナイフの群れだった。
後ろで待機していた、真理さんも同じく覗き込んで来た。
しかし、首を振る。どうやら、ただのナイフということみたいだ。それを見て部長が考え込む素振りを見せた。
「貴重なものまで見せてもらってありがとうございました」
「いやいや、こちらこそ私の道楽に付き合ってもらってありがとう。あ、そういえば・・・。」
店主はおもむろに竹刀をこちらに差し出してきた。
「物騒だから護身用に一本持っていくと良い。私も使っている所のものなんだが、丈夫で軽いから」
僕は再度礼を言って店を後にしたが、素人に竹刀を持たせてもそれこそ付け焼刃だろうなと思った。
なんだか楽しくなってきた




