二十話
抜け道の部屋にそびえたつ大型機械は、向けたライトの光を反射させ薄暗がりに淡く映し出されていた。他にも宗太郎には使い方の分からないインターフェイスの端末が所狭しと詰め込まれ、それぞれを繋ぐワイヤーが血管のように張り巡らされていた。
「人格を消さずに終末崩壊を回避できるって?」
宗太郎が問いかけると、後ろを向いたままレーナが頷いた。
「これはどうやらソシアルの生成装置みたいなの」
「… …えっ、それってつまり」
その言葉に特にアミが反応した。
「私のお母さんですか?」
アミはクスッと笑いつつも「そのニュアンスは私も好きね」とアミに同意した。
レーナが言うことが正しいなら、この大型機械はソシアルの子宮、言うなればアミの製造元なのだ。ならば、レーナの言うことには一理ある。
「ここにある機械には、どうやらソシアルの製造以外にもソシアルのオーバーホールも可能なみたいなの。つまり命令回路の修正も、私たちの間違ったプロセスを使わなくてもできるの」
「間違ったプロセス?」
「そう、再インストールというのも旧技術が失われて私たち加工屋が無理やり発見した強制的な技術、本来の正式な手順でないから記憶が消えたり人格が消えたりする。でも、これは違う」
レーナはキーボードのようなものに入力を行う。すると、大型機械全体が光だし機能し始めた。起動に成功したようだ。
「―――なるほど。なるほどね」
レーナはディスプレイに刻まれる文字を見てひとりごちしている。後ろにいる宗太郎とアミには、その理由がさっぱりだ。
「じゃあ、さっさとアミの終末崩壊と終末崩壊停止命令を出させて、帰ろうぜ」
宗太郎がレーナを急かすが、どうにもそう簡単にはいかないようだ。
レーナは難しい顔をして、宗太郎の方を振り向いた。
「それには、問題がある。命令回路の修復は本来、私たちが思ったよりもかなり時間がかかるみたいなの。この機械が正しいなら、命令回路の修復には」
レーナは一時声を切る。
「一年かかる」
「一年!?」
そんなに待っていては後二日で終末崩壊するアミやソシアル達には間に合わない。これは、時間的に不可能な処置だ。
宗太郎がそう思った時、レーナが提案した。
「終末崩壊までのタイムリミットは大丈夫、この処置を始めた段階でアミは一時的に仮死のような状態になる。指揮官ソシアルが死んだと判定されれば、他の下位のソシアルはその機能を停止する。そうすれば終末崩壊は一時的に止まるの」
「そして、アミが起きる頃には終末崩壊は止まり、命令で停止される」
レーナと宗太郎は頷くと、アミの方を向いた。
「後はアミの気持ち次第。一年かかってしまうのと、再インストールする方法二つあるけど、どうする」
アミの顔を見やると、その顔は覚悟を決めた顔になっていた。
大型機械がうねりを上げる中、アミは試験管のようなカプセルの中に入り、その時を待っていた。
「アミダ培養液セット、麻酔装置セット。修復プログラム演算終了。いつでもいけるわ」
レーナが必要な操作を終えて、そう言う。
これから、アミは一年間の眠りにつく。それは一時的な別れ、完全なものではなくとも三人は郷愁の念に駆られる。
正直に言えば、何事もなくこのソシアル株から出て他愛のない友人関係を続けていきたい。
だが、時間がそうさせてくれない。
「結局着せ替えはしてあげられなかったわね。色々な衣装を用意していたけど、一年後ね」
「はい。私も楽しみでしたが、ごめんなさい。ここを起きたら必ず着させてくださいね」
宗太郎は自分の無くなった右腕を庇いながらも、アミに言づける。
「あのドレス、まだ荷物として届いたままだからな。レーナの方が扱いもうまそうだから預けておく。必ず、取りに戻れよ」
「宗太郎さんもお身体気を付けて、帰ったらちゃんと治療を受けてくださいよ」
「俺も死にたくないからな。分かってるよ」
アミが徐々に最終プロセスまでセッティングを進めていく。そして、ついにその時が来た。
「最終確認OK、カプセルを閉めるわよ」
「あ、待ってください」
アミはそう言うと、自分の髪飾りを外す。それは露店で買ったあのシンプルな赤い髪飾りだ。
宗太郎が、右も左も分からないアミに初めて購入した記念の品だ。
「これ、受け取ってください」
アミは正確な軌道を描いて赤い髪飾りを放る。宗太郎は残っている左腕と胸板でなんとかそれを受け取った。
「危ないだろ! まったく」
「あははは、ナイスキャッチです」
アミはおてんばに笑う。まるで一面花畑の中で笑うような軽やかに、愛おしそうにだ。
「預かっていてください。必ず、取りに戻りますから」
アミはジェスチャーでレーナに合図をする。レーナはそれを受けて、最後の操作を終えた。
カプセルの扉が閉まり、内部にはアミダ培養液が充填されていく。アミの頭部ではアームとニードルを組み合わせたような機械がアミの身体に注射を行う。
すると、アミは眠たそうにその瞼を閉じる。
「さようなら」
宗太郎ともレーナともつかない別れの言葉が暗い部屋に響く。
アミの耳に最後の言葉が届いたかどうか、それもさだかではない。
しばらくしてアミの意識は完全に暗闇の中に落ちていった。
さようなら、私。
はじめまして、私。
でも今度の目覚めはきっと今までの私と同じだ。心配などない。
だから私は言う。
おはよう、私。
二作目、完結しました。
本来なら去年中に完成させたかったのですが、予定は未定。中々うまくいかないですね。
この「今日の狩猟はアミダくじ」。最初はヒロインに何かセクシャルなことを言わせたい。というひどい考えから始まりました。そこからトントンと妄想は進み、プロット作成は一か月もかかりませんでした。
妄想力ってすごいね。
さて、この作品はここまで。
次はもっともっといい作品を書くぞー。と精進していきます。
どうぞ、期待半分でお楽しみにしてください。




