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fragment (とある未作の後日譚)

 とある世界。かつてその世界には魔王という存在がいて、それが人間たちにとって脅威となっていた。しかしその世界のその魔王は召喚された勇者によって倒され、世界は平和になった…………平和になったはずであった。

 しかし、そんな魔王がいなくなった後の世界、とある王国は魔王とは別の脅威が存在した。それは明確には脅威というものではなかったかもしれない。だがそれはその国を、そこに住む人々を、周囲のあらゆるすべてを死に追いやり、結果としてその王国は滅びることとなった。その王国は魔王を倒すために勇者を召喚していた国である。人々は様々な噂を語っている。魔王が最後に一矢報いた、勇者を邪魔ものとして王国が殺して恨みを買った、あるいは勇者が召喚されて魔王を倒すために使われた事実に復讐した、いろいろな噂はある。しかし真実は分からない。

 それも今は昔の話。その王国に人が住めなくなりもう何年、何十年、何百年と経っていた。その王国はもはや死者の国。死した存在が闊歩する生死の境のわからなくなった場所。生者は入れない。入れば死ぬ、そんな場所だ。死した存在はただ歩き回るだけ、王国から外に出ることはなく、外から攻撃してもまるで気にしない。ただ死んでいない、動いているだけに等しいものであった。王国を滅ぼした存在が意図的に作り上げたのか、あるいは王国が滅んだ何かがその動く死体を作り上げたのか。ともかく入れもしないその場所に何があるか、何が起きているのか、それがわからない以上は手を出せない。誰も入れないが、誰も入る必要もない。放置する、それが最も安全で穏便な解決手段だった。




「ふう。なんとも空気が悪い場所ですね。まあ当たり前ですか。ここまで呪いが広まっているとなると、普通の人間ではまず死ぬでしょう。呪い対策をすればまだ……いえ、かなり厳しいですね。ふふふ、さすがは魔王を殺しただけはあるというところです。魔王を殺し得た力、成長した呪いの力はここまで強いものですか」


 滅んだ王国、彼女の言葉を借りるなら呪いが広まった結果滅ぶに至った王国。その内部に女性が一人入り込んでいる。彼女も言っているが普通の人間では死んでしまうそんな場所に侵入している……一時的ですら侵入は難しく、中に入れば入るほど死ぬ危険の高い滅んだ王国に彼女は入り込んでいた。いったい何者か? 本人も言っているが普通の人間なら死ぬ……ということは彼女は普通の人間ではないということだ。


「動く死体、まるで冥府のようですね。死者の国ですか? まあこれらは別に何かの目的に使っているものではないみたいですが。単純に必要として使っている呪いの力がこの形になるように影響を与えてしまった……いえ、本質的には目的の物以外に感染してしまった? ふむふむ、面白い話です。まあ、私がやるのは勧誘なのですけどね。ああ、なんて可哀そうな子なのでしょう。折角魔王を倒し世界を救うに至ったのに、これほどの呪いを抱え国を滅ぼしてしまった。もっともそれは別にどうでもいいことなのでしょう。結局のところすべては個に収束するのです。邪神たる私が、同系、こちら側の存在とはいえ救いを与えるのは何か違う気もしますが、いえ、まあ基本的に私は邪神といっても厳密には悪ではないんですが。いえ、悪ではありますか? 神の反対、神が正義なら私は悪でしょう。まあ今はこんな話はおいておきましょう。この王国もそこそこ大きいですし、とっとと目的地に行きましょうか」


 彼女は邪神……この世界の外、世界の底に存在する闇の世界からやってきた変わり者。もっともその神としての力は絶大で、しかしその味方はそれほど多くない。紙であろうとも基本は悪より正義の方が数が多く質もいい。まあその分少数ながらもちまちま精鋭を集め規模を高めている邪神側……いや、別に争いをしているわけではないのでそうする必要もないのだが、いざというときに動かせる戦力は多い方がいい。なので邪神は今回も自軍の存在に加えられる存在を求めここまで来た。




「王城に住んでいる……まあ、ちょうどいいんでしょうね。別にいい場所に住みたいというわけでもないでしょうけど」


 その存在は王城にいる。滅んだ国、王城も人一人いない。徘徊する死体はある。


「さてさて……」


 呪いが蔓延する中、進み続ける邪神。王城、玉座の間。そこに彼女は訪れる。


「見つけましたよ」

「………………」


 そこにいたのは女性の姿をしている人形と、それを抱きかかえるようにしている死体。一応まだ肉は残っている。他には周囲に控えるように配置されている死体たち。側仕えか何かか、服装を見れば王や王女みたいな存在も見えるが、別に元の身分などどうでもいいということなのだろう。


「こんにちは。マリー」

「…………名前を呼ばれたのは久しぶりね。いったい何の用ですか? いえ、そもそもなぜあなたはこの中を進みここまで来れているのですか?」

「ふふ、なぜ私があなたの名前を知っているか? まあ、それに関しては……そうですね、私が神様だからですかね?」

「…………神様ですか」

「ええ。それも邪神と呼ばれるわるーい神様ですよ。呪いは悪、呪いは闇、悪い神様である私は呪いとかそういうのは全然平気なんです」

「そうですか。それでいったい何の用ですか?」

「そうですねえ、勧誘といったところですか」

「勧誘?」

「はい。あなたを邪神の御許に」

「悪いのですが、私にそんなものはいりません……私はここにいられればそれで。この人の側に」


 マリーは人形である。人形の役割とは何か。それは愛でられること、愛されること、呪いの人形である彼女はそこから外れ呪う物、殺す物となり、今の状況を招くこととなった。しかしそれでも、彼女は自身が求め愛した存在がいる。その相手の側にいられるならばそれが一番いい。


「そうですか。そんなお人形さん遊びで満足しているんですね」

「…………今なんと?」

「お人形さん遊びですよ。あなたの言う、その人。ただの死体じゃないですか。ああ、なんと報われない、なんと救われない。己の愛した存在は死に、その死体を側に侍らせ自分を抱かせ、ここにいられればそれでいい、と。なんとも悲しい悲劇的な話で面白いですね」


 邪神がにたりと笑う。口は三日月のような形をして、マリーを嘲笑っている。


「私だって! 私だってこの人に()されたかった! ■■(幸せ)が欲しかった! でも、私にはできなかった!」

「ああ、そうみたいですね。聞こえません、言葉にできていません、なんとも救いのない。あなたの中にあるそれらは黒く塗りつぶされているのですね」

「私はこの人を■■(好き)になった! 一緒に、ずっと、一緒に、■■(幸せ)に……でも、私は呪いの人形。私の中に私が望むそれらはなかった。私は彼を殺すことしかできなかった。私の役目、私は呪いの人形、持ち主を呪い殺す、そんな存在……一緒にいて、ずっと、魔物を、敵を、魔王を、呪い殺して……それらは、本当は彼を呪い殺すためのものだったのに。魔王が彼を呪ったせいで私が呪えなくなって、だから私は魔王を超える必要があって……でも、そんな中私は、私は……彼を■■(好き)になった。一緒にいたい、一緒に■■(幸せ)になりたい、ずっと一緒にいてそう思うようになったのに……彼を()していたのに」

「でもあなたには……殺すことしかできなかったと」


 呪いの人形の役割は持ち主を呪い殺すこと。マリーは最初、本当に最初、彼女を買った人形好きの男性を呪い殺そうとしていたのである。しかし勇者召喚という形で彼はマリーと一緒にこの世界に来て、召喚された勇者に対抗するために魔王が彼に呪いをかけ、その結果マリーは呪い殺すことができなくなった。元の世界に戻るとかは割とどうでもいいことだが、自身の役割を果たせないのは自己否定になり自身が崩壊しかねない。ゆえに彼女は魔王を殺すことにした。幸いにもマリーは勇者召喚で持ち主と一緒に来たためか、彼女もある種の勇者みたいな扱いになった。呪い殺していき、その結果呪いが強まりその効果が高まる。そうして魔王の部下、魔物たちを殺していき、最終的には魔王を殺した。

 しかしその過程で彼女は持ち主である男性に好意を持ってしまった。いや、彼女の中ではそれは黒塗りになり隠され彼女自身なんであるか、明確に理解はできないものだろう。考えても考えても、その言葉は出てこない。その言葉は彼女の中に生まれない。たとえだれかが言っていることを聞いても、それは彼女の中には存在しえない。愛、幸せ、好き、そういった正、救いに連なる方面の代物。なぜなら彼女は呪いの人形であるから。彼女は呪いという存在によって成立し、呪いを行使すること、呪いを成就すること、呪いを傍うことこそが己の役割であるから。それができないのならばそれは呪いの人形ではない。彼女の中にそういった良い言葉が生まれないのは結局のところ彼女が正しく呪いの人形であるようにするため。

 そうして結果彼女は主を殺した。だが彼女が主に抱いた好意は大きなものとなっており、彼女自身が歪み……主を殺すだけの人形だったはずが、国を呪いで滅ぼすほどのものとなってしまった。これは魔王を呪い殺せるだけの力を得たこと、呪いの力が強くなったことが影響しているものでもある。彼女自身だけではなく、この世界に来ることによって拡大、拡張、成長してしまった呪いの力が結果として今の事態を招いた。彼女を呪いの人形として作りだした存在もここまでのものは考慮に入れてなかっただろう。


「そして死体を操る……呪いを施し動けるようにした。周りにいるのも、あなたの主も」

「…………そうです。何か問題がありますか?」

「いえいえ。別に問題はないですよ? ただ、あなたにとってはただ空しいだけでしょう。主は死んで、その肉体が動いているだけではないですか。悲しくありませんか」

「…………私は悲嘆にくれることなどできないのです。これはほとんどただの慰め、いえ慰めにならない程度の■■(救い)です」

「ああ、なんとも悲しい話です。そんなことしか救いになるものがないなんて」

「………………あなたはいったい何をしに来たのですか? 私のすることに文句があるのであればお帰りくださいませんか?」


 流石にマリーも邪神の言い様にイラっとしてくる。というか邪神も煽るような言い方でマリーを馬鹿にしている感じで言っているのでむしろ当然といえば当然の反応になるだろうか。別に邪神もマリーを怒らせたいわけではない。ただ、現状で十分だと言い張るマリーに現状を改めて説明しその考えを改めさせるつもりである、というものである。


「ああ、それに関しては言いました。あなたの勧誘です」

「それは先ほど」

「ええ、断りましたね? ですが、まあ、条件とか、恩恵に関する話とか、それを聞いてからでも遅くはないでしょう? 何もすべてを知る前に断る必要はないと思うのですが」

「条件……それに恩恵ですか」

「はい。私は神です。私の下に来れば……そうですね、あなたの想い人を蘇生しましょうか」

「っ!」

「まあ、蘇生とは行っても人間として蘇らせるわけではなく、あなたの側に付ける程度にしかできません。しかし、今そこにいる紛い物と違い本物です」

「…………」


 死者の蘇生……神でも厳密な意味での死者の蘇生は難しいのだが、死者を使い、それを作り変える、生まれ直させるのであればむしろ神は得意といってもいい。邪神も生まれ直させる、というのはできる。まあ彼女の場合どちらかというと眷属にするとか使徒にするとかそういう方向性の方が得意である。


「……それは恩恵ですね? 条件は?」

「ああ、別にこれくらいはなんでもないくらいのものですが……根本的に私があなた、そしてあなたの想い人に望むのは私の下についていてもらうことだけです。あれをしろ、これをしろと命じる気はありません。まあ神として、神の配下としてやるべき仕事というか、果たすべき事柄というのはあるのですが。それくらいですよ」

「流石に内容が軽すぎます。怪しいと思わざるを得ませんね」

「うーん、一応これ本当のことなんですけどね……まあ私、邪心を名乗っていますし、内容的に怪しいと思われても仕方のないことかもしれません……ですがいいのですか? あなたの想い人、今のただの死体、肉人形を操っているだけのままで。あなたの髪を梳き、毎日服を着替えさせてオシャレさせてくれた、いろんなところに運んでもらいいろいろなものを見せてもらった、一緒に頑張って過ごしてきた相手を……あなたが殺してしまった相手を助けたくはないのですか」

「…………っ」

「あなたもその人と一緒にいたい。私の下につけば今までのような呪いの人形ではなくなります。呪いの力はそのままですが制御は自由。あなたの想い人も呪いの力の影響を受けることもないでしょう。何せ私の配下です。自分の身内の力でどうにかなるようにはしませんよ」

「……………………」


 悪魔の誘惑に等しい誘い……いや、この場合あくまでなく邪神の誘惑になるのだろう。自身の罪である想い人を蘇生し、自分が幸せになれるかもしれない、幸福を得られるかもしれない環境においてくれる。正直マリーは邪神の言葉を受けてすぐにでも想い人に会いたい。会って謝りたい、そして今度はずっと一緒にいたい。しかし、相手は邪心である。果たしてどうするべきかという迷いが強い。


「どうします?」

「………………約束を守ってくれますか?」

「私たち神は基本的に嘘は言えません。少なくとも契約においては絶対に。まあ、言い回しや表現で騙すことはできますが、そもそも私にはどうでもいいので。それで……どうします?」

「…………このままここにいても私は■■■(救われ)ません。この人も■■■(救われ)ません。ですから……その話を受けます。しかし、もし約束をたがえるなら、どのような手を使ってでもあなたを殺します」

「ふふ、それくらいの気概がある方が私としてはうれしいくらいですね。ええ、では行きましょう。この世界から去り、世界の底へ、私の世界へ。そこであなたを、あなたの主の魂を相応しい形に収めましょう。ああ、安心して下さい。もともとのあなた方を損ねるようなことはしません。そうするくらいなら自分で作る方が手っ取り早いですしね」


 流石は神というべきなのだろうか。彼女にとって一から作る方が本来は手っ取り早いこともある。まあ、今回は別だ。意思を持つ存在を取り込み自身の配下にする、自身の眷属や使途を作り出すのとは違ういろいろと説くのあること。なんにしても、今ここですべてができるわけではない。自身の力を行使するのに最もふさわしいのは自分の世界。世界の底、闇の世界、底の層。そこに邪神はマリーたちを誘い込む。闇が生まれ、滅んだ国を飲み込む。




 そうしてこの世界から一つの国が、滅んだ国が一瞬で消え去った。それがなぜそうなったのか、どこに行ってしまったのか。それを知る者はこの世界にいない。


 そして邪神の下に、呪いの力を秘めた人形とその主で人形の眷属となった男性が入ることになった。

なんでまだ書いていない作品の後日の話ができるのか。展開自体は想定されているから、である。

ルビ振りお試し。一応作品世界的には呪いの人形が幸福の言葉を言えない、みたいな設定だから。言おうとしたら黒く世界に塗りつぶされて聞こえない、消えてしまう。まあ邪神は聞こえているだろうけど。

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