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fragment (神々の信仰圏争い)

「ああ! ようやく来てくれましたね! もう、召喚するのにどれだけ時間がかかったか……!!」

「え? えっと……あの、ここは?」


 歴史のある建築物と思われる木造建築の社。和風建築、日本風と言っていいような建築様式をしており、もし日本で生活をしていれば神社のようなと形容する可能性の高い内装のイメージになるだろう建物である。そこにこれまた和風の古風の服装をした黒髪黒目の女性、日本人かもしれないと入れる容姿をしたそこそこの美人の女性がいる。女性と言っても正確な年齢は不明だが見た目だけでいえばどことなく幼さを残している、中学生くらいの女性と言った方がいいかもしれない女性だ。

 見た目の話はさておき、男性が突如現れることとなったこの場所、女性は召喚したと言っているがその場所には漢字も含む円形の陣が描かれその中の更に円形の陣の内に五芒星が描かれた場所に現れていた。どう考えても怪しい儀式の一環だが、それもまたそのまま怪しい儀式そのものと言える。いや、怪しくはないかもしれない。召喚の術、異世界から己の望む特定の要素を兼ね備える存在を召喚するための異世界召喚の術式である。その複雑さ、世界を超えて人を呼び込むだけの術式であるためか失敗も多くかなり苦労しようやく男性を呼び出すことができたというのが現状である。


「ここは私の社。私は神です」

「……神?」

「しがない土地神、民衆の中から特殊な生贄に差し出されることによって祟ることのないようにと祀られた結果神となってしまった身ですが。祀られたのでその進行に対し恩恵を与えようと恵みを与えその結果信仰を得続けるだけの力は持った、それほど大したことのない地域信仰の土地神なのです。あまりあなたは神という存在に馴染みはないかもしれないし信じられないかもしれませんが」

「……はあ」


 実感はないが彼は目の前の女性が神である、ということには一応の認識を見せる。彼は神を信じるタイプの人間だ。そもそも女性が召喚する際に神を信じ神のために働く要素が強い人間を選択した結果召喚できたのが彼だ。彼は神を信じる存在なのである。


「それで、あなたを呼び出した理由なのですが。実はこの土地で私に対する信仰が減っているのです」

「……それはなぜ?」

「今この世界では神同士の戦いが起きているのです。信仰の獲得合戦、また神が他の神を自分の部下にする、支配下に置くということもやっています。それである程度の神の種類、派閥の勢力ができてですね。それで信仰が失われて言っているのです。私もあまり極端に力が強いわけではなく。元々単なる土地神で地元に少しの恵みをもたらすのみ。おかげで信仰が奪われているんです! このままだと私消えちゃうのですよ! せっかく神様になって生き残って、ちょっと称賛とか敬愛とかいろいろあって、元々ただの娘だった私がこう、人々のためになって……だけど、このまま誰からも忘れられこの世界に存在しないものとして消えるのは嫌なのです! ですからあなたを呼び出したのです! 神を信じ、神のために働く心を持つあなたを!」

「……なるほど」

「信仰を取り戻し、この社に捧げる……あなたにその仕事をお願いしたいのです」


 かなりの無茶ぶりである。とはいえ、神様ゆえに人間の気持ちはわからないと言ったところなのだろう。元が人間であっても今は神、人であった頃よりも神であった頃の方がよほど長かった。そのせいである。しかし、まあ別に彼はそれに関してかまわないと言った感じだ。


「わかりました。神への信仰を集めればいいんですね?」

「はい! お願いします! お礼は何でもしますから!」


 なんでも、とは少々内容が大きなものになるが……仮にも神様、多少の願いならば小規模の狭い範囲であれば叶えることはできる。まあ、難しい物も多いがこういう時は大言壮語しておかなければあまり相手もいい気はしないだろうという感じだ。後で裏切ることになるかもしれないが、信仰さえ取り戻せば多少は……と言ったところなのかもしれない。

 そういうことで召喚された男性は神への信仰を集めることになった。






「集めてきましたよ」

「おお! 流石ですね! しかも早いです!」


 男性は信仰を集めて戻ってきた。それを女性……神である女性は嬉しく思うが、しかし少し訝しそうにする。


「……でも、この社に信仰は届いていません。どういうことなのですか?」

「……神への信仰は集めてきました。でも、あなたはどの神への信仰を集めるか、というのは指定していませんでした。残念ですが、この社はあなたの社ではなく。私の信奉する神の物となるようにしましたので」

「…………え?」


 言い回し、というのは重要だ。彼は嘘をついていない。彼が下のは神への信仰を集めるということ。彼が言ったのはそれを行うということ。彼が集めるべき信仰、それが向かう先は目の前の神でなければいけないと言うわけではない。彼はそうするとは一言も言っていないのだから。そして彼が神を信じ神のために働く存在であるというのも嘘ではない。なぜなら彼は既に神を信仰し、神のために働いている。それが召喚した彼女に対しての物ではないと言うだけである。


「ああ、そうです。私の信仰する神様ですが、この人です」


 空間に穴が開く。穴の向こうは黒よりも暗い闇、渦巻く世界の原始、世界にすらなり果てぬ宇宙の元、その中に轟く世界の土台たる肉。その隙間から出てくる、その世界とは明らかにミスマッチな車いすに乗った白い髪をした目をつぶった少女。それがキイキイと車いすに運ばれてくる。誰も動かす者はいないのに勝手に動いて。


「あ………………」


 土地神の女性はそれを見た時点で格の違いを理解する。それは言うなれば世界そのものの神。しかし、それは単なる欠片、本来の神にはまるで届かない神の欠片に過ぎない存在である。その欠片であるというのに、それは自分よりもはるかに力の強い恐るべき存在である。眠りにつく神はその身に狂気を宿し、圧倒的な力にて女性の心を呑む。敵わない、勝てない、そんな気持ちを生ませる。


「わかりますか?」

「……っ! 世界の土台となるような神じゃないですか!? こんなの……なんでこんなのが……!」

「盲目白痴の神。ある世界ではそのような呼ばれ方もしているみたいですね。世界はこの御方の見る夢である、と。まあ、この世界においてはこの御方の力は大本の存在から大きく砕かれ欠片となっているようですが……それでも並大抵の神よりもはるかに強い」

「…………ちょっと待って。信仰を全部そちらに持っていくつもりですか?」

「はい。ちょうどあなたから信仰が離れ、余所の神に持っていかれる様子でしたので。全部この御方の元へと集めさせていただきました。欠片の回収による本来の存在へと回帰する……その助けとなるような力を集める一助となれば、と」

「そんな! 私は……私はこのままだと消えちゃうじゃないですか!」


 土地神の女性は狂乱して叫ぶ。何故なら彼女はこのままだと消滅してしまう。信仰失くして神は在らず。彼女は元は人間で人々に畏れ敬われ祟らぬようにと祀られ神として成立した神。現世にその身はなく、おのれを維持するうえで最重要な人々の信仰がなければ神としての器はなくなり己という存在は消えていく。それは女性にとっては認められることではない。死とは、己の消滅とは、何よりも恐ろしいことである。だからこそ男性を召喚した。命を繋ぐために、己を生かすために。それがまさかこんな形で裏切られることになるとは、と思っているところである。


「助けて、お願い、助けて! 私まだ死にたくないのっ! なんとか、なんとかしてくださいっ!」


 恨むよりも、彼女は縋るしかなかった。わずかな慈悲でもいい。生きるために、己があり続けるために、死なないように、消えないように。たとえ自分の願いを聞き届けなかった相手でも、頼れる相手はそこにいる男性しかいなかった。自分でどうにかすることなく他者に任せたせいではある。それを理解しているから恨み節をぶつけるようなことはしない。だが、せめて縋るくらいは許してほしい。どうにかしてほしい。助けてほしい。


「何でもするって言いましたよね?」

「っ!! はい、なんでもします。靴をなめろと言うのなら舐めますし、裸を見せろと言うのならこの服を今すぐ脱いでもいいです! 体をお求めならばどうぞこの身を差し出します! 人を殺せと言うのならだれでも殺します! 求めるものは何でも、何でも支払います、捧げます、ですから、助けて……死にたくないです……!」


 仮に死ねと言われればそれをするのか、と言いたくなるくらいに何でもするという言葉が合うような発言をする女性。流石にちょっとだけ男性も引き気味だが、そもそも別にそういったことを女性に求めるわけではない。


「では……私の信ずる神の眷属、配下となることを誓ってください」

「………………っ」


 土地神の女性は一応これでもこの土地における最大の神である。とはいえとても狭い範囲の神でしかない。それでも立場的には上位だ……もっとも他がいないので上位にあると言うだけだが。その立場ゆえにいろいろと恵まれていたが、これ以後は彼の信ずる神……彼が呼び出した白い少女神に仕える存在になれと言うことであるらしい。少しだけ、少しだけ土地神の女性は複雑に思う。どこの誰とも知れぬ神に従うことになるのか、と。しかし死なないためには必須な事柄である。消えることよりも怖ろしいことはない。それに……これだけ強力な力を備える神ならば。もしかしたらこれから先の神同士の争いに勝ち、己がそれなりに上位の立場に立つこともできるのでは、という打算も働く。ゆえにその提案を蹴ることはなく、土地神の女性は受け入れ従うことにした。


「わかりました。そちらの神の下につきましょう。精一杯仕えさせていただきます」

「……本気みたいですね。では、眷属となり我が神のために一緒に働きましょう」

「ええ……っ」


 女性に対し別の神の配下となり、その恩恵を受けその身に変化をもたらす。その影響を受ける女性の姿を見ながら、男性はこれから先自分の信ずる神に力を取り戻すため、これから先この世界でどうするべきかと考える。

 神同士の戦いは既に始まっている。神への信仰の奪い合い、神同士の戦いと相手の信仰の撲滅、神そのものの討滅。いろいろな戦いがこの世界で行われている。そんな中に繰り出し、その戦いを乗り越える。それは神という存在が行う信仰を巡る戦い。彼らはそれに参戦するのであった。

私の作品におけるクトゥルフ神話系の存在はそのまま再現すると世界がぶっ壊されかねないんじゃ? という話になるため基本的にその力を大きく削ぎ、分割し、バラバラにして人型ほどに押し込めています。それでも盲目白痴とか這いよる混沌とか門にして鍵とかはだいぶやばいって設定だけど。

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