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fragment (超能力者のお姫様)

「すう……すう……」


 城の一角、豪奢で華美な調度品が置かれ、家具もしっかりとした高級品、様々な綺麗な宝飾品なども置かれている、女性の物と思われる部屋の中。時間帯は夜であるため当然ながらベッドでその部屋の主である女性は眠っている。女性というにはまだ少し若く、少女というには少し大人だろう。子供と大人の中間のような年齢の女性がこの部屋の主である。綺麗な髪に整った顔立ち、眠りながらもベッドに姿勢正しく眠っており育ちの良さがうかがえる。そもそも育ちの良さは部屋の様子からもわかるだろう。明らかに貴族の類の部屋と思われる部屋だ。


「…………」


 そんな夜の部屋に、きい……と音を極めて小さくしながら扉を開き中に侵入する何者かが現れる。その姿は黒い服を着ており、顔も隠し明らかにこの部屋の主にまともに会いに来たような存在とは思えない。いや、どう考えても暗殺者である。

 部屋の中、暗闇に慣れた目で進み、周りに置かれている物引っかからないように注意をしながら部屋の主の眠るベッドに近づく。それを遮るものはなく、止める者もなく、その黒い人影はベッドの傍までくる。しゃりん、と音を立てずにナイフを抜き、それを部屋の主……ベッドに寝る女性に向けて、振り下ろそうとした。


「……!」


 振り下ろされるナイフは女性の命を……奪わなかった。いや、奪えなかったが正しいだろう。そのナイフは女性の前に、目の前に、僅か少し先で……止まっている。


「……!?」


 驚愕に叫ばなかったことは評価できる。しかし、暗殺が失敗した時点ですでに暗殺者の運命は確定していた。

 女性の眼は開いている。起きていた……というわけではなく、ある程度の範囲に暗殺者が近づいた時点で彼女は起きていた。別に気配に気が付いたとかではなく、単純に彼女からある一定範囲に侵入者がいる場合、目をさまさせるように彼女は己の能力を使用していたのである。ゆえに彼女は起きており、暗殺者のナイフを止めることができたわけである。まあ、完全な不意打ちでも勝手に彼女の前で止まっていただろうが。


「暗殺者ね。はあ……まったく、誰が送り込んだのかしら?」

「……!!」


 暗殺者は暗殺失敗を悟り逃げ出そうとするが、逃げられない。暗殺者は宙に浮いていた。足を動かそうとも物に当たらず、動くことができない。宙に浮いたまま移動することはできない。力がかからない。暗殺者を浮かせているのは女性である。当然ながら逃げられるような行動を許すはずはない。


「さて……言葉がしゃべれない、ということはないでしょう? いえ、喉を潰されている可能性もあるのかしら? 少し調べてみましょうか」


 女性は掌をくるりと回す。


「ぎっ、あああああああああああああ!?」

「どうやら言葉はしゃべれるようね。それとも叫び声をあげるだけかしら? ねえ、何か話してみてくださらない?」

「…………っ、………………」

「そう、言葉はしゃべることができるけどおしゃべりではないのね……でも、私には誰に頼まれたのか、教えてくださらないかしら?」

「ああああああああああっ!?」


 ばつん、と暗殺者の指の爪が弾け取れる。無理やり剥がされたかのように。その様子を見ながら、女性はにこりと笑い問いかける。


「今は爪だけで済ませましたけど……そうね、次は指の骨にしましょうか? それとも腕を絞りましょうか?」

「…………!」

「ああ、眼を潰してもいいわね。一つ残っていればまだ見えるでしょうし。それとも歯を折られるのがお好み? 耳元で大きな音を連続してたててもいいかしら?」

「……っ!」


 暗殺者は女性の言葉のあまりにもな内容に己の歯の中に仕込んでいる毒薬を飲もうとする。暗殺者として敵に捕まった場合、自死することで己の知ることを離せないようにする。本当に死にたいと等思っていないが、暗殺者なりの矜持もあるし、なにより女性は明らかに……下手な暗殺者や裏の組織よりも悪辣に思えたからだ。そうやって毒を飲もうとするが……その毒はふわりと浮いて暗殺者の口の中から出て行った。


「…………!?」

「安心して? あなたを死なせないようにするから? 死にたいのであれば存分にあなたの知っていることを全部喋ってからにしてくださいな。それまではたとえあなたの心臓が止まろうとも死なせないようにしてあげます。私は心臓の代わりに血を送るくらいは簡単にできるのですよ?」

「……!!!」


 次は舌を噛もうとする……が、舌を噛めない。歯が何かにさえぎられる。舌を噛もうとする歯に、それを防ぐかのような力がかかり、それ以上深くまで歯を押し込めない。


「さあ、しゃべるまで聞きましょう。指は足も含めれば二十本あります。歯も一つずつやっていけばおよそ三十回はできるようですし。目は一度、両目を潰すなら二回かしら? そうね、空気は流石に遅れないから肺は一つ残しましょう。内臓はどうかしら? 腎臓の一つくらいはいいのかしら? 排尿を考慮しなければ暴行を潰すくらいはいいのかもしれないわね。血管を一つずつずつちぎっていくのはどう? 骨を抉り出すのは? 腕と足は合計で四つだから、出来れば最後がいいけど……引き千切るならそうするしかないけれど、ねじるくらいなら三回くらいはできるかしら? まず何をされたいかしら?」

「……………………!!!!!」


 少しの躊躇もなく、女性は暗殺者に向けてこれからやるかもしれない内容について語る。暗殺者がしゃべればやらない……とは限らない。やって、それでも吐くものがなければそれ以上手出しせず殺すかもしれないが、本当にそれで最後か、などと彼女にはわからないのだから。もはや拷問に等しい……いや、拷問であるそれを、女性はこれから躊躇なく暗殺者に対してかける。それをこの綺麗で整った部屋でやるのはどうなのかとも思うが、それにより汚れることも、物が壊れることもない。暗殺者以外のすべては彼女が暗殺者の侵入を把握した時点で彼女の力によって保護されている。


「とりあえず、何か教えてもらえるまで、指を折りましょう」


 拷問が始まった。







「フィルエラ様、朝ですよー…………ひあああああっ!?」


 部屋の中に入った侍女。何のために部屋に入ったかというと、その部屋に寝ている女性を起こしに来たわけであるが、女性を起こすために部屋に入って朝一番に目に入ったのはこの豪奢で華美な部屋の内装に合わないだろう袋、そしてその中に入れられた捻じくれて折り曲げられたぐしゃぐしゃになったかろうじて元々が人間であったとわかる肉塊である。侍女にそのようなものを見る機会はあまりあく、それゆえに見慣れず悲鳴を上げてしまったようだ。


「……うるさいわ、フィア。起こしに来たのにそのように大きな声を上げるのは淑女としてどうなのかしら?」

「フィ、フィルエラ様!? だ、だって、その、その袋!?」

「たまにあることでしょう? 以前も同じようなものを見たことがあるのですから気にしてどうするのです。それよりも、あなたのお仕事をなさいな」

「あ、は、はい……ではフィルエラ様、お着換えの準備を……」


 着替えや髪を整えるなど、するべきことは多い。その前に洗顔やら歯磨きやら必要な手入れはいろいろあるが、この部屋の主である女性……フィルエラは自分でできることすることは先にやっている。フィアと呼ばれた侍女が起こしに来る時点で基本的には起きているのである。着替えや髪を整えることも自分でやろうと思えばやれるが、侍女の仕事を奪うのは流石に彼女の立場上あまりよくないのでそれは侍女に任せるというようにしている。


「あれはどうするんですか?」

「あとでごみを捨てる者にでも話して捨てておきなさい」

「はい…………」


 そうして今日もフィルエラ・アムシス・ローエンダルクの一日は始まる。




 フィルエラ・アムシス・ローエンダルク。大国ローエンダルクの第三王女。民に対しては寛容で民のためになる政策を彼女主導で率先的に行い、様々な役に立つ品物の開発を行ったりしている女性である。その力は強く、特殊な能力を持ち時に戦いに参加し多大な戦果を誇る。人々にとって敬い讃えるにふさわしい能力と実績を備えている素晴らしい女性である。

 一方で、その行いの苛烈さが語られることも多い。敵には容赦をせず、彼女の物に被害を与えるものは徹底的に叩き潰す。民のためにと国に存在する大半の裏の組織を潰し、残った組織も彼女の言うことを聞かざるを得ない。暗殺者を送ったならばその暗殺者の送り主を逆に完膚なきまで討ち滅ぼす。その強さの源は彼女の持つ能力<念動力>。それがどれほどの強さを見せるか、と言われると彼女の異名の一つを語るのが早いだろう。"竜殲姫"。竜を殲滅したことからついた呼び名だが、たった一体の竜ではない。竜の群れをその能力を使い一瞬ですべてを殺した、その戦果からその呼び名がついた。ローエンダルクにおける最強にして最凶の存在。それが彼女である。

 そして彼女をよく知る者はこうも言う。彼女はとんでもないサディストである、と。苛烈さはただ相手を滅ぼすというものだけではなく、その性癖……相手を嬲り痛めつけ、その命を奪う。しかし、それは身近なものを相手に見せることはない。その姿を見せることはあるが、そのサディスティックな性質を身近な存在には向けない。彼女がそれを向けるのは、敵である者や人扱いしない道具に等しい存在などに対して。彼女の結婚相手となる者に対しては……どうだったかについては語られていない。

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