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slime1.5 神成りの事情

 スライムであった存在が神になって暫くして。彼は色々と頼まれた仕事をし、下へと上へと行ったり来たり、下でクルシェに抱かれあちこちに移動し周囲の状況を確認したり、社会情勢を見たり、人の生活を覗いたり。そして色々とみてきた報告を、上に昇りアノーゼに話し彼女に抱かれ彼女の充足を充填する。

 そんな生活も、長くは続けて居られなかった。ある日、アノーゼとスライムのいる場所にとある存在が現れる。


「よーっす」

(ん? 誰?)

「え!? い、いきなりこんなところに着てどうしたんですか!?」

『私の上司です……少し唐突に現れ過ぎです』

(上司……こっちも神様なのかー)


 アノーゼよりも上位の神格である女性。以前も、アノーゼが勝手にあれこれとしている時にアノーゼの下に現れ、助言や手伝いをしつつ、最後の方には忠告もして去っていった、世界運営にも関わるような最上位級の神様。


「はーあー」

「…………?」

「前、言ったでしょー? ペナルティ付けるって。いや、まー、仕方ないっちゃ仕方ないのかなーとは思うんだけど。本当はこういうこと、あんまり好きじゃないんだけど、こっちもお仕事、やるべきことはやらなきゃいけないのよねー」

(っ!?)

「スライムさん!?」


 スライムに対し、上位神格の女性が手を振るう。ばちりと、スライムが謎の力に拘束される。


「まあ、こちらも結構楽しんだけどさ。神様になるくらい、頑張ったのは認める。でもー? ちゃんと、神様になるのには必要な条件がある。それを満たさなければいけない。それはわかってる?」

「っ! <神格者>の条件は満たしています! 適性、種族限界の突破、持ち得る力の総量!」

「うん、それは問題ない。でもね、神様になるのにはそれだけじゃ足りないのよー」

「…………足りない?」


 神格もいろいろと条件があって慣れるものである。ある程度の条件、簡単な条件では神格になることのできる存在が多すぎる。まあ、限界を突破したからと言って必ず神に成ると言うことでもない。それに、必要条件は色々と複雑な点もある。適性があるからと言って<神格者>になるかどうかは不明である。だが、彼女の言いたいことはそう言うことではない。


「何が足りないかと言ーうーとー。彼、人の姿をとれないでしょう? それじゃーだめなのよねー」

「えっ」

「神様は自分の姿に似せて人を作り給うた。別にその神話的事案に則ってというわけではないけれどー、でもー、それは一応満たしておかなきゃダメと言うか、やらなきゃいけないことと言うか? 人を管理するには人の形を持たなければその気持ちがわからない。これが人が世界にはびこる世界でなければまだ違ったかもしれないけど、こういう世界じゃ人型をとれないと言うのは致命的」

「そんな……」

「スライムなら、人型になるスキルか、そもそも体の変形である程度人に近くはなれるのかもしれないけど……そうはならなかった。だから、残念ながらペナルティーってことで。んー、それにしても。厳密には転生とはいいがたいかなこれ? 記憶のぶち込み? 魂の形質のぶち込み、性質、記憶? うーん、改造されてるな―これやっぱ。まあ、前見た時に恐らくはそんな感じかなって思ったけどさ。ちょっと調整甘い。もうちょっとまともにしないと……まあ、だからこそのあのはっちゃけか? あれはあれで本質的には変わらないんだけど、もうちょっと真面目がいいよやっぱ」


 ちゃっちゃっちゃっと、女性はスライムを拘束していた力を弄る。いつの間にかスライムは意識を喪失したのかぐったりとしている。力で拘束された影響もあるが、流石に魂や精神の改造、改良、修繕を行われ状態的に無事でいるはずもない。


「っ! それ以上はやめてください!」

「……ま、好きな子弄られて全然問題ないってわけもなわいわよね。でも、これ必要なことだから……どのみち、彼は神格への格上げはされない。言ったでしょ? 認めない、もし条件を満たしていなければペナルティだって。勝手に神様にまで引っ張り上げて、もともと言ってたこと破ったのはそっち。口約束でも、約束は守るべき。神様なんだしね?」

「………………」

「そんな顔しない。言ったでしょ? やり直してもらうって」

「でも、どうやって? それに今までの繋がりの問題盛ります……彼女は、スライムさんの従者、眷属に当たるクルシェはどうするんです?」


 今のスライムが、最初からやり直しとなれば大きく困る事態になる。色々な意味で。


「其れもやりなおし。別にね、もともと彼だけにやり直してもらうつもりじゃないの」

「…………どういうことですか?」

「最初から、何もかもやり直すのよ。世界の在り様からね。彼は面白かったわ。色々な情報を、色々な世界観を、良点不満点、色々見せてもらった。彼と近しい存在に関しても、彼に関わる存在に関しても。神様は本来誰かのために何かをするわけじゃない。でも、そこで得られたものは何かに使えそうなら利用するもの。だから、彼から得た情報をもとに、世界をより良く再構築する。あ、これねー、許可、ちゃんともらってるから」


 世界のやり直し。本来世界の在り様の最初からやり直すと言う事態はめったなことではありえない。世界が終ってから、出なければあり得ないくらいの事柄である。だが、実際それを彼女は許可をもらって行うと言う。このあたり、恐らくは彼女が説得したと言うよりは、その決定権のある神の多くが面白そうだと言うことでやったのだろう。世界運営に影響が出ない範囲であり、神様もまた新しい面白い娯楽が欲しいと感じていた。ゆえに、世界のやり直し。一新した世界がどうなるのか、彼らも興味がある、そういうことなのだろう。


「でも……それじゃあ……」

「縁は残すわよー。全く同じ流れに、同じ未来になるわけではないけど、関わった同じ子に出会うだけの運命は持たせる。じゃなきゃ、面白くないしこの世界が無意味になるのはもったいない。あ、それとね、アノーゼ」

「はい」

「あなた、最初から手を貸していいから。うん、むしろそうしなさい。そうしたいでしょ? そうするべきよ。だって、好きな子だものね、関わりたいわよね、繋がりたいわよね? 縁が欲しい、心が見たい、彼のために何かをしたい。ええ、存分にそうしなさい。そのための機会を用意します。仕組みもあります。なので、存分に、彼をより良い未来に、あなたの望み通り、神として側にあれるように、神様っぽく導きなさい」

「……はい!」


 こうして、アノーゼは新しい世界に新しく生まれ変わるスライムに手を貸すことを選ぶ。その結果、運命がどう変わるかはわからない。そもそも世界としての性質も大きく変わる。もしかしたら、途中で共に在る未来を得られず死ぬかもしれない。今回と同じように人化をできずに終わるかもしれない。だが、それでも、まだ可能性はある、未来はある。上位の神格の指示、命令は絶対であり、彼女でも抵抗できない。ゆえに、その希望に縋るしかない。だから、それで彼女は頑張るのである。


「さて……記憶、記録となるけど、これは剥離、確保。戻ってきたときの為、全部終わってから戻すとして……んー、指輪に剣か。流石に<神格者>を得た時から、その上こっちに来るときもずっと持ってたから神気持ってるなー。流石にこれをそのままリセット……というわけにもいかんかー。そもそも、この子こっちにいるから下をリセットするだけじゃダメよね。まあ、下にぶち込んでからリセットするのも? いや、それはそれでこの子の調整が面倒。また同じ感じで生まれるわ。しかたない、こっちの指輪と剣はこの子と一緒で、下をリセットしてから同じ代物に上書きするしかないか。ま、どうせまたこの子が回収するだけなんだろうし。それとも、誰も取れずに終わるかしら? 別にそれはそれでいい。うん、まあ、本来の物よりも強く特殊な性質を兼ね備えるだろうけどー、まいっか。別にこっちには何ら問題もないんだし」


 そうして、スライムから回収された指輪と剣は、世界が再構築された後、上書きする形で再設置される。これがどのような影響をもたらすことになるのか…………この時点では、誰にもわからない。

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