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fragment (茸に命を賭けた男の話)

「…………ごくり」


 わざわざつばを飲み込むときの音を口に出す男性。その目の前には鍋がある。茸のぶち込まれた鍋物である。その中に入っている茸は市販されているようなおいしそうな普通の茸……に見える。

 しかし、その茸は普通の茸ではない。では毒茸というと、それはわからないと答えるしかない。何故ならそれは彼が発見した既存の茸によく似た別種の茸だからである。男性は茸に関しては詳しい。しかし、その知識でもってもその茸のことは知りえない。彼もこの世界のあらゆる茸について知っているわけではないが、しかしよく茸を取りに行った場所にあった物だ。そのうえ既存の茸によく似ているということもあり、だがしかし違いもはっきりある茸であり、それは一体何なのか、どのような茸なのか、それが気になり採ったのである。

 全てを鍋に入れたわけではない。研究……というほどの事ではないが、茸に関する知識を持ち、茸好きであり、茸の研究者になってみたいかもとか思ったことある彼にはその茸を食べた時の味、触感、感覚と、もしかしたら入っているかもしれない毒、それがいつから作用しどのような影響があるのかを記載し後世のために残さなければならない。そのため調理方法から食事過程まで明記する準備もしているし、一緒に入れた食材に関してもしっかりと記録している。また、取った時の感触や何故それが既存の茸と違う点があるのか、様々な方向からの写真も付け加え、時間経過の変化も付け加え、さらにはそれをできるだけが生きに晒さないように保管した上で一部は冷蔵庫に入れておくほどである。果たしてそれでどの程度の意味があるかはわからないが。


「さあ、食べてみよう」


 彼の目的はその茸が危険であるかどうかの試験。危ない茸であれば既存の茸と似ていると言う特徴からできる限りその危険を訴えなければいけないし、大丈夫ならば味の問題を調べておかなければならない。既存の茸と似ていると言うことは場合によっては間違って採って食べてしまう可能性は低くない。可食の茸と毒持ちの茸で似ている物は多々あるのだから。

 彼はその茸を食べる。食べる。とりあえず入れた分は食べる。


「…………うん」


 悪くない。食べた当初、味としてはまあ悪くないと言った感じである。今市販されている既存の茸は食されているが、別に採って食べるようなものではない。栽培などで作られたものである。なので毒要素もなく、食べておいしいと感じれるものであるが、今回食べたそれはまあ悪くないと言う評価。その時点で別物であることが分かる。だが食べた時点で死に至るような毒性はない……ようであるが。


「っ!?」


 食べた時点では、そうだ。だが毒性自体はすぐに発揮されたようだ。


「ぐっ……まず、症状を……時間、も……っていうか毒回るの速……」


 苦しむような毒、倒れるような毒。即死するわけではないが、恐らくこのまま放置していれば危険な毒である。毒茸でも物によっては死に至るものではないことも多い。幻覚や毒による感覚の鋭敏化などに苦しむことになるが、致死毒でない者も多いだろう。また、完全に毒が回る前に胃洗浄を行うこと、吐き出すなどすることで幾分か影響を少なくし死ぬことを回避できる場合もなくはない。もっとも、彼はそれをするつもりはない。


「ぐ………………はあ……」


 書く。ひたすらに毒の感覚と味、体への影響を書く。ただそれは、自分がどういう茸を食べたのか、ただそれを遺すためだけに。死すら厭わないというのだろうか。後世のために、茸の情報を遺すなどと。いや、単に彼が茸馬鹿であるというだけだが。だがしかし、死ぬことすらも一つの情報伝達手段に入れるなど少々頭がおかしいのではないか。そういう情報は生きて残すのが一番、別に人間型別ともいいし科学的な精査だってできるだろう。何故食べて死ぬまで記録することを望むのだろうか。


「…………ぐふ」


 かなり健闘し、なんとかかけることだけのことを書き、毒により倒れる。この時点で死ぬかどうかは不明だが、しかし最後には確実に死に至ることだろう。そうして彼は茸の毒で死んでしまうのであった。






 彼の死後、その茸についての記述や残された茸、そしてその既存の茸との類似性の危険性などからある程度研究が進み、新種の茸であると判明。そしてその名前にはその情報を遺した彼と既存の似た茸の名前が付けられる。


「と、そんなことになったわけだけど」

「へえ、そうなんですか」

「いやー、まさか茸を食べて死ぬまで毒性や体への影響を調べるとかまともな神経してないよ君」

「そ、そうですか? いやあ、照れますね」

「頭おかしいよ君ー。今の誉め言葉じゃないからねー? まあ、それだけ茸狂いってことなのかなあ? ま、細かいことはいっか」

「あ、はい。ところで……ここは?」


 何もない空間。空も足場も光も色も空気もない、何もなく何も見えない白い空間。光すらないと言うのに自分は見える、白い空間は見える。そして目の前に存在する神様は見える。いや、彼はまだ神様であると言う認識はしていない。


「僕はここの世界の管理神。いや、まあ、複数の担当なんだけどさ。一つは君のいた普通の安全安心の世界。一つはまあ、異世界? 君たちで言うファンタジーの世界観の世界とかそんな感じ? ま、それはいいね。つまりここは神様である僕の住む神様の世界ってところかなあ? 見た目まんま、何もない場所だけどねー」

「はあ……じゃあ、何で俺はここに?」

「あはは! そりゃあ、君の様子が面白かったからだよ。たまにね、ああいう頭のかしい行動をしてそれなりに人類に貢献する面白い人間がいるんだよ。そういう人間をただ死なせて終わりにするのはもったいないでしょ? せっかく頭のおかしい才能とその方向性で努力の出来る熱意があるんだから、それを利用するのは悪くないよ。ま、同じ世界に送ったところで意味はないし、ただ異世界に送ってもつまらないし? そういうことで、特殊な力を与えての異世界転生……いや、この場合転移、トリップの類かな? そういうのをやっているのさ!」

「……はあ」


 神の言っていることは男にとっては理解しにくい内容である。まあ、この男は茸命で他の方向性の知識はあまり高くないせいもあるだろう。そういった事情はさておき、どうやらこの神様は男を異世界に転生……いや、この場合は特殊な能力を与え転移させるようである。


「とりあえず、君の趣味的にも茸系がいいよね。茸の知識、あらゆる茸を作れる、茸の操作……」

「あ、そういうのはいいです」

「え!? 何で!? 普通好きなものについての能力が欲しい所だよね!?」

「やだなあ、そういうのは自分で調べて知るのがいいんじゃないですか」

「くう、確かにそうだねえ! じゃ、せめて毒性……うーん、そうだ、毒とかの影響を受けないようにする、それと茸に関わる菌類系の能力を付与することにしよう! ま、向こうは結構過酷だしどの程度生きられるかもわからないけどね。そーれちょちょいのちょいっと!」

「わっ!?」


 神様が光を作り出し、その光が男を包み込む。


「よーしそれじゃー行ってこーい!」

「うああああああああああああっ!?」


 黒い穴を作り、神様はその穴に男を放り込む。そうして男は異世界転移を果たしたのである。それが彼にとっていいことか、それとも悪いことか……まあいいことではなさそうである。

茸。実際に死亡事故があるのでネタとして書くのはどうなのだろう。

なのであえて『これはフィクションです』と言っておく。

まあ、転生トラックなどがある以上今更な気もするけど。

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