crossworld終話 剣の行く末
ある時起きたオールドエンドの大事件によってオールドエンドにおける冒険者の扱いはいくらか変わることとなった。とはいっても、オールドエンド自体の役割や在り様を大きく変えることはできない。しかし、そこに貴族と言う存在、オールドエンドで起きた出来事を伝えたり、何か問題になりそうな大事件に対処できるだけの役割を担う領主のような立場の存在、そういった存在を置くこととなった。
しかし、これに関してはオールドエンドの在り様の問題、世界の果てと言う世界が流れ着き周辺環境が流動する状況の問題もあって簡単にはいかない。そこで考えられたのが冒険者を貴族、オールドエンドにおける重要な役割を担う存在とすることであった。しかしそれには多くの貴族などからの反発もある。冒険者を貴族にと言うのは貴族としては色々と認められない事案だった。貴族と言うのは自分の血筋や家柄などに誇りを持っている。それを何処の者とも知れぬ荒くれ者を取り立て自分たちと同じような立場にすることは納得いかなかったということだ。
だがこれは実行された。何故かと言うとオールドエンドでおけた大事件の解決者たちの中に、大きな活躍を担った存在の中に貴族の血筋である冒険者が存在したからである。ミルハ・カラヘリオ。家出に近い形とはいえ、絶縁したわけではなく、その関係上未だ貴族として扱われている現行の冒険者。そして上位の冒険者となったうえにオールドエンドの大事件を解決した立役者の一人。
さらに、その中にもう一人貴族がいる。これは直接解決したわけではなく、あくまでミルハの冒険者パーティーに所属していると言う関係であるというだけだが。エーデ・ケルフェイム。ミルハの実績に付随する形とはいえ、彼女もうまく使えばミルハと同じように貴族にできる可能性がある。同じパーティーだからこその利用手段だ。もちろんこれには納得いかない冒険者が多いだろうと推測されるので、これは逆、エーデではなくその関係者を当てる形となる。つまりエーデと婚姻関係に成り得る冒険者を貴族にすると言うこと。つまりはシンヤを貴族として扱うことである。
そういう形で冒険者を貴族に取り立てるということをオールドエンドで行い、オールドエンドの管理者、守り人として配置する。場合によっては起きた出来事を他国や関係者に通達すること、また独自に兵力を持ち事件に対抗することなどを行うための存在とすることになったのである。
もちろんそれには冒険者ギルド側の反発、冒険者側も納得いかないなどの話もある。ミルハやシンヤがそれをあっさり受け入れるかどうかの問題もあっただろう。また、ミルハもシンヤも恋愛関係に関しては色々と問題があった。ミルハは同性婚になるしシンヤの場合、サフィラとエーデの二人とどうなるかのもないもあった。もっとも、そういった問題がありつつも彼らの貴族化、冒険者の上位者がその功績でオールドエンドという特殊な環境における権力者として力を発揮できる特殊な一代貴族になれるというシステムの構築はされていった。これに関してはオールドエンドで起きた大事件が解決しない危険を考慮してこうすることが必要であると考えられた結果である。
そしてウイングスターの面々の関係、恋愛関係も地道になんとか対処していきながら、そういった取り組みは進んでいったのである。そしてミルハとシンヤの方々の問題も解決し、二人はオールドエンドにおける貴族籍となったのである。
と、そんなことがあったのも過去の話。今やミルハもクレアも、キェモアもいなくなった。シンヤと一緒になったサフィラとエーデとも、既に二人の死で別れている。ヤカワタはそういった死による別れの前に途中で離れていなくなった。彼女は妖精でありそういったことから少々特殊な人生設計があるということもある。妖精の生死は戦闘以外での確認は今のところされておらず、そもそもどこに住んでいるかもわからないくらいである。どこか自分たちの住む所、国でもあるのではないかと言う話だ。
寿命と言う形で昔の仲間とシンヤは死に別れた。しかし、シンヤの寿命は長い。この世界で過ごした多くの仲間と違い、シンヤは異世界の存在である。この世界の人間とシンヤでは根本的な生態の違いがあり寿命が全くと言っていいほど違っていたのである。それゆえに、シンヤは多くの仲間と死に別れ、そして下手をすれば自分の子供の死すら見届ける危険性があったくらいである。
もっとも、今はもうそんなこともないだろうと思われる。シンヤは既に命の灯が尽きかけた状態で弱って床についている。
「……大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ……シオン」
シンヤは多くの仲間と死に別れた。友人関係もいろいろとあったが、年を取ってから新たに作ることもしなかった。恐らくはシンヤの方が長生きすることで死に別れることを嫌ったのもあるのかもしれない。そんな中、唯一残っていたのがシオン、神剣メルシオーネの精霊である。彼女には寿命と呼べるものが存在しない。彼女自身を消し飛ばすような、かつて出会った最強の精霊使いくらいの力を向けられたり、神の作り上げた恒久の剣である神剣を折られでもしない限り彼女は消えることはない。
メルシオーネにとって死に別れは当たり前のように在り、そして今回もそれが訪れた。シンヤが経験した多くの出来事のように。
「やっぱりあなたも死んじゃうんだね」
「そりゃあそうだろうな。死なない人間なんていない」
シンヤは老けているようには見えない。シンヤの住んでいた世界では人間は年の取り方が少々特殊であり、シンヤはその影響もあって異世界に来ていても一定の年齢から先はあまり年を取らない形で過ごしていた。そのおかげもあって精神的にも昔とほとんど変わりがない。それを奇異に見る者もいたが、シンヤの存在がかなり特殊な在り様をしているのはおおくの人間に知られていたのでそういう物なのだろうとしか見られていなかったりする。それくらいにシンヤを含むオールドエンドの初の貴族籍の存在は特別扱いだった。もちろんミルハもかなり特殊な扱いだった。
「じゃあ、私はまた一人かあ……」
シオンにとって、自分の持ち主となった存在との別れは何時も経験してきた。自分の側にいてくれる者はいても、それは永遠ではなく有限であり、彼女と同じ永遠を歩んでくれる存在はいない。それが彼女にとってはつらい思いであった。
「……それをどうにかするって、あったときに言っただろう」
「え? でも、もうシンヤも……」
「寿命ギリギリまでは待つつもりだった。他を残していくわけにもいかなかったしな」
シンヤはシオンに対しその別れに対する対応策があると言っていた…………ような記憶もある。かなり昔の話で今までそれを話題にしたこともなく、それゆえに行ったかどうかの記憶も曖昧である。ただ、それに対する対策はシンヤには存在していた。
「まあ、それをすると俺の寿命も削りそうだが……もうほとんど死に体だからな。っと、その前に最期にそうすることを伝えておくから、少し待っててくれ」
「……うん」
そうしてシンヤは家族に今回することについて伝え、それにより自分が死に至るだろうと話す。もちろんそれに対する色々な家族の想いはあれども、もう既に死が近いシンヤであるし、シンヤは家族の中でもかなり特殊だったのでそれを否定すると言うこともなかった。
「じゃあ、いくぞ」
「うん」
シンヤはメルシオーネを持つ。そして、己持つ能力を使う。
「<憑装>、メルシオーネ」
かつてメルシオーネを使っての全力戦闘、オールドエンドに起きた大事件の時と同じメルシオーネとの一体化をシンヤは果たす。
『これでどうなるの?』
「一体化した状態で死んだ場合、どうなると思う?」
『え……?』
可能性として在り得るのは、シンヤの死によって力が途切れることによる能力の解除だろう。だが、仮に。シンヤの魂や精神、あらゆる存在部分と一体化している状態で、シンヤが死んだ場合、その一体化している物は魂と一緒にどこかに行くことになるのではないか? そう考えることもできる。そもそも、彼らの持つ能力と言う者は別に体に由来するものではない。魂や精神も含めたあらゆる存在と言う部分に含まれるものであり、それゆえに魂や精神だけでも能力を使うことは不可能ではない。つまり、仮にこの状態でシンヤが死んだとしてもメルシオーネとの一体化が簡単に解けると言うわけではないはずなのである。そして、一体化が溶けなかった場合、どうなるか。シンヤと一体になっていたメルシオーネとシオンがどうなるのか。それは誰にもわからない。
そうしてシンヤはメルシオーネと一体化したまま、死に至る。家族がシンヤの様子を見た時、既にシンヤは床の上で死んでいた。しかしその傍に彼の持っていた剣は何処にも存在していなかった。神剣メルシオーネはシンヤの死とともに、その世界から失われたのである。その行方は誰にも知れない物となった。
一体となった二人は何処かへ流れ着く。
それは剣としてか、それとも新たな魂宿す命としてか。
どちらにせよ、それはその世界での物語。ここでこれ以上語られるものはない。




