fragment (部屋ごと異世界召喚された大魔力持ち)
「これはどうやるのじゃ?」
「えっと……ここをこうして」
「ほうほう! おもしろいのう!」
平凡なアパートの一室、部屋としてはそこそこ広いだろうその部屋の中で俺はこの国の王女の相手をしている。
「むう……やっぱり文字は読めぬな!」
「なら学習してください。流石に俺にこういうやつのプログラムは弄れないんで」
「ぷろぐらむと言うのはようわからんが、うむ、しかたないな!」
俺は普通の社会人一年目の人間だったはず。一人暮らしをしていただけの一般人だったはずなのに。
「ところで、いつまでここに?」
「昼食は持ってきてもらうように言っておいたのでな! 夜の食事の時間までは戻るつもりはないぞ」
「このあと人に会う予定なんだけど」
「王女である妾を差し置いて客人とな?」
「もともと今日は用事が入ってたんですけど」
王女の相手は面倒だ。いろいろと。
さて、何故普通の社会人をしていた一般人の俺がこのような状況にいるのか。それには深い……いや、深くはないが面倒で大変な諸々の事情がある。
この国は魔法、もしくは魔術と呼ばれる技術が発達している。国によってその扱いは多少変わるものの、基本的に一部の物しか持ち得ない異能と言っていい。だが、その技術を扱うエネルギーに関してはまた話が違うらしい。魔力と呼ばれるものはこの世界のすべての生物の中にある。人間にももちろんあり、その大小も個人によって違ってくる。多くエネルギーを持っていれば魔法が使えるとも限らず、逆にエネルギー量が少なくとも魔法が使える人間はいる。
それとは別に、魔力を持つ物質が存在する。この国の魔法使い、もしくは魔術師の中にそれらのエネルギーを何かに利用できないかという研究をしているものがいた。その研究は何人もの魔法使いの手によって最終的に実現に至り、この国の中に魔力を用いた様々な設備が生まれることとなった。灯り、風呂、上下水道、熱機関に動力車など、様々なものがその魔力を利用する研究によって実用化され、今この国で働いている。
しかしここで問題となってくるのがそのエネルギーの元だ。元の世界でもエネルギー問題はあった。何が問題かと言うと、そのエネルギーの量だ。魔力があると言っても無限にあるわけではない。魔力の抽出はかなり大きな魔力を有する物質を用いて行われていたが、人々は便利を追い求めるもの。様々なものが魔力で簡単に扱えるようになり、それに伴って必要な魔力量は増えていく。しかし、物質に存在する魔力量というものにも限界はある。大きな魔力を有する物質を用いても、魔力回復する物質を用いても、使える魔力量はある一定の限界が見えるようになった。
魔力の抽出機関をどれだけ改良しても、どれだけいい魔力物質を用いても、限界は訪れる。それに直面しどうすればいいかと言う話になる。またあらたな魔力抽出機関を作るべきか。しかし作るにしても、国家予算の何年分が必要になるか。それ以外の部分に使用している予算も結構な数が存在し、そのせいもあって新たな魔力抽出機関を作ることは出来そうになかった。
だが、できないからしかたないではすまされない。それらの研究を行う魔法使いは様々なやり方を考えた。そしてある魔法使いは考えた。異世界から魔力が大量にある物質を呼び出そうと。
この発想はある意味正解だったのだろう。実際異世界から大量の魔力を有するものを呼び出すことができたのだから。しかしこの方法にも問題はある。まず、その呼び出しに必要な魔力。呼び出した者が何であるか不明な点。何よりも、その魔法使いがその作業を行うことを話さなかったことが何よりも問題だったのだろう。その魔法使いは他の魔法使いに対し無断でその方法を使用した。その結果何が起きたか……それが今の現状である。
その召喚の結果、俺が呼び出されたのである。ただし、それと同時にこの部屋も呼び出された。
ただ魔力を有する存在を呼び出したと言うだけならばそこまで極端な問題にはなりえなかったかもしれない。殺すなり、送り返すなり、従えるなり。どうにかする手段は色々あっただろう。その当時俺自身も結構混乱していたからそう言った手段を取られれば防ぐことは出来なかった。だがそれもできなかった。何故なら、この部屋が魔力抽出機関ど一体化してしまったこと、同時に呼び出された俺がいなければどんな物質を置いても魔力抽出機関が動かなくなること。召喚に対し送り貸してなんとか対処できるかと言うとできないし、それを行うのに必要な呼び出した魔法使いも、俺を召喚した影響で魔力の枯渇による魔法の使用による生命力の代償消費により死んでしまった。これに関しては、呼び出す対象がかなり長く捜索されたためか、部屋ごと呼び出されたことにより予想よりも魔力消費が大きくなった結果、らしい。
そう言った事情はともかく、その結果俺はこの国の魔力抽出機関のエネルギー源として活動せざるを得なくなってしまった。別に勝手に逃げてもいいが、そうすると国の様々な施設に影響が出る。今やこの国に魔力を使った設備は必須なものとなっているのである。下手をすれば病院で大量死が出ると言うことになりかねないし、ライフラインの多くも停止するらしい。
そんなの関係ない、と突っぱねるのも少し無責任に過ぎる。確かに相手側にすべての責任があるが、だから相手側がすべて悪い、すべて責任を持て、自分には関係ないと言うのは横暴ではないだろうか。まあ、こちらが被害者なのでいくらでも相手に文句を言っていいだろう。ただそれは別に相手側が滅んでもいいという意味合いではなく、相手側にこちらの望む限りの要求を聞いてもらう、と言う形でやったほうが後に響かないと思う。まあ、そのあたりは個々人の考え方にもよるだろう。殴ってきた相手に相手を拘束して言い聞かせるか、殴り返して気絶させるか、殺してしまうか、それとも殴られて説得するか、何に対してどう対応するかというのは人の思想や思考、経験などで違ってくるのだから。
そういう事情で俺はこの国の重要な人物となっている。もし俺が死ねば国の魔力を使っているすべての物が停止するのだから向こうも必至だ。逃げられたくないし、死なせても困る。かといって拘束するにも魔力量が大きく難しい上に、下手に拘束して抵抗してこられると反撃が大きくならざるを得なく、下手すれば死なせてしまう危険もある。そう言った諸々の向こうの事情もあり、今回のことをきちんと説明したうえでこちらに頼み込んできた。
まあ、やったのは魔法使い一人。国が裏で手を引いているとかそんなことはなく、本当にその魔法使い一人の暴走に近い形だ。こちらだけでなく国側も魔力抽出機関が駄目になったに近いということもあって向こうも被害者と言える。お互い妥協できる点で妥協し、こちらはそれなりに良い生活を送れるようにしてもらった。その代わりこっちは魔力を提供し、この国の魔力を用いた物を今まで通り扱えるようにすることになった。
魔法使いの召喚は確かに実を結んだ。俺の魔力量はこの国の現在使えるはずだった魔力量の何百倍もあるらしい。異常と言ってもいい程の魔力の持ち主と言うことであるらしい。まあ、俺も魔法を学べば扱えるとのことで魔法を学んでいる。元の世界に未練は多大にあるが、こっちので生活もそこまで悪くない。唯一娯楽だけは足りていない状態だ。
そんな中部屋も一緒に来たと言うこともあって漫画に小説、ゲームにパソコン。そういった物が存在する。便利な物にハサミであったり時計であったりペットボトルであったりと、こちらに来るときに持ち込めたものは様々なものがある。特にパソコンは色々な人間が興味津々だ。魔法使いに必要な魔法陣を描くのに、正確に近い真円や正四角形など、完ぺきに近い直線を駆けるのだから。まあ、それを印刷する機械はないのだけど。それでも魔法陣を描くのに便利ということで目がつけられている。それとは別に、パソコンの中にあるゲーム、娯楽もまた興味がある。具体的に誰かと言うと、今ここに来ているお姫様に。
そういうことで今俺の部屋に王女様が来ている。実に面倒な話だ。誰か連れて帰ってくれないものか……いや、無理だな。一国の王女だ。下の方とは言え、我儘が許される立場である。この後魔法使いの人と魔法に関しての話し合いがあるのだが……
異世界召喚は色々と弊害が大きい。運よく召喚できても都合よくいくとは限らない。
される側としても召喚された先でいい生活ができるかは謎。
特に現代社会に染まっている以上は異世界文化はつらいのでは?
それを解決する手法が部屋ごと召喚。そんな理想も含めた内容。続きが思いつかないけど。




