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princess後日話 魔王の子は魔王

「新たな魔王様の誕生を祝って!」


 魔王の城、そこに多くの魔族……というか、ほとんどすべての魔族が集まっている。その前にいるのは威風堂々と立つ、赤い髪をツインテール……いや、ツインドリルにした、少女のような見た目の存在だ。その背には小さいながら羽が生えており、見た目だけで言えば肌色も含め人間のようにも見える。とはいえ、その存在の威圧感はかつてこの場で全てを支配した、元人間の魔王アリスティアにも匹敵する。

 魔族たちがアリスティアに代わる魔王の誕生を祝い、その場で頭を捧げる。そんな魔族たちを新たな魔王は冷徹に見下ろす。


「確かに私は新たな魔王だ。しかし、お前たちとしては少し残念に思うかもしれないがな」

「……それはどういういことでしょう?」

「私が魔王となっても、魔族の現状は今より大きくは変わらない。いや、むしろ今の方がいいだろうと言う判断を下すだろう」


 魔族と人間の関係は現状安定している。かつてのように魔族と人間が争い合う状況ではなくなった。かつて攻め込んだヘルメトリアへの賠償も終わり、交易の不利も元に戻っている。友好関係も……まあ、対等に接する相手としての関係性は維持されている。友好とは言っても、本当の意味で友好的に接することができるわけでもない。当然ながらそれまで培ってきた魔族との関係のせいもあってある程度改善したところでやはり仲良くというわけにはいかない。

 しかし争いはなくあんった。それ自体は悪いことではないだろう。であれば現状から大きく方針を転換すると言うことを必要としないわけである。それについて魔王は言っている。

 魔族側としてはかつてのように人間を倒し、その土地を奪う。かつてアリスティアの前の魔王がしようとしたことを望む者も少なくはない。別に人間たちだけが不満を持つわけではない。当然ながら魔族側も人間に不満を持つわけだろう。そのためこの場にいる魔族の中にはそういった方針を望む者もいる。その声は魔王にも届いていたわけだ。

 とはいえ、全員がそうであるということではない。今の関係、魔族としても無駄に争うことなく平穏に生きられるのであればその方がいいという者もいるだろう。全体の数としてはやはり半々くらいという感じだろうか。なのでどうにも派閥的に複雑な状況となっている感じだ、魔族側でも。


「現状の魔族の状態、魔族と人間の関係にこの魔族たちが住む土地の安寧は維持されている。それを無駄に人間との争いを再開させて悪化させる意味もあるまい。そもそも、ただただ争うだけなのが間違いだ。魔族はそんなに野蛮な生き物だったか? 魔物にも劣る……とは言わないが、考える頭を持っているのだろう。相応にやり方があるだろう。争い奪うだけが戦いではない。交易や付き合いもまた戦いだ。どれだけ相手に不満を抱かせずにこちらに有利に運ぶのか、こちらにとって価値の無いものをこちらにとって価値のある者に変える、相手の弱点や狙いやすい急所を探ることもできるだろう。争うにしても、まともに対抗するのではなく弱点をつければそれの方がいい。無駄に殺すのではなく、必要なだけ殺せればいい。こちらの被害をどれだけ少なく、相手にとってどれだけの痛打を与えられるのか。それを探り考えるのも一つの力だ。それに我々魔族には人間にはない強みもある。寿命の問題、人間たちは長く生きられても百年程だろう。その間、我々がどれほど力をため込める? その程度も考えたことはないのか?」

「そ、それは…………」


 全く考えがない、とまではいかないがそこまで相手のことを深く考えることはない。魔族は人間に比べそれなりに強く、また単純に強さで上位関係が決まることもあって、そういった政に関わることはあまり得意ではない。頭のいい魔族も、それ以上に力に傾倒するものも少なくなく、頭の良さはそのまま自分の力を高めることに使うことも多い。そもそも、魔王がいるとはいえ統治もそこまできちんとされているとは言えない。せいぜいがそれぞれの魔族の氏族や部族の単位でとなるだろう。ゆえに個々での知能労働の能力はそこまで高くはない。


「まあいい。だから私のような魔王というまとめ役が必要なのだろう。先代は退いたが、現状は先代のしたことを踏襲するだけだ。新しいことをするにしても簡単にできるわけではない」

「は、はあ……」

「文句があるのならば、力で答えるがいい。私はその意思に応えよう。実力で勝てるのならば、私の代わりに魔王をしてもかまわない。やるか?」

「め、滅相もございません!」


 今の魔王、目の前にいる存在はアリスティアと同格である。先々代の魔王ですらアリスティアに討たれ、他の魔族も足蹴にされている。そもそも……今アリスティアがいないのはなぜかと考えれば、目の前の相手に逆らう気概は起きない。


「では話は終わりだ。それぞれ今まで通りやっていくといい。ただし……私の目をごまかそうとは思うな。今、この場にいない魔族が数人いるな?」

「ああ、確かに……全員を呼んだはずなのですが」

「そいつらは来られるはずがない。もうこの世にはいないからな。あとでやつらの住んでいた場所を確認しておけ。先代に禁止されていた物や、これからするつもりだったことの計画が見つかるだろう」


 既に魔王によって手を下されていた、ということである。


「………………」

「私は部屋に戻る。ここは任せるぞ」

「はっ!」


 あらためて、今の魔王に逆らうという意思は失われる。アリスティアもアリスティアで厳しいが、目の前の相手はより厳しいものだろう。そう現状で感じてしまったゆえに。







「はあ、実に面倒な話になった……」


 魔王の城にある部屋、前はアリスティアが城で過ごすときに使われていた部屋である。セキュリティーは万全で、外に音が漏れることもない。まあアリスティアとしては色々と隠しておきたいことも多いだろう。面倒ごとも多いのには間違いないし。


「面倒なのは事実ですが、あなたが今代の魔王ですからしかたないでしょう」

「……まあ、しかたないのはわかります。母様」


 その部屋に一人の女性がいる。魔族のような姿をしている女性……まあ、誰かというとアリスティアである。


「しかし、この格好はどういうつもりですか? 私は一応男なのですが」

「魔王の正装です。まあ、正式な魔王……本当の意味での魔王、すべての中の魔王の格好、ですけど」

「はあ……母様はこのような格好をしていないと思うのですが?」

「私は俄か魔王ですので。生まれた時から魔王となったあなたとは比べる間でもないでしょう、テトラ」


 テトラ。少女のような見かけをした男児、生まれてまだ十数年ながらも魔王になるだけの資格と力を有し、その能力はアリスティアに匹敵するほどの実力者である。彼が誰の子かというと、まあ母様と言っているのだから当然アリスティアである。とはいえ、フェレシエとアリスティアの子供ではない。

 ヘルメトリアと魔族の間に起きた戦争が終わり、その後ギュリエフォートの王子からの縁談の申し込み、そして一度会い、アリスティアの姿をさらし、それでもその愛は消えることがなかった。まあ、愛というにはちょっと行き過ぎた所もあったようだが、そういうこともあってアリスティアが折れる形でセトラにヘルケティンが婿入りしたのである。フェレシエの不満、文句などもありつつも、まあそれなりに良好な関係を築き、当然ながらやることもやっている。子供ができるのも当然である。

 そうして生まれたテトラだが、生まれながらに魔王を継承できるだけの能力……というか、生まれた時点で勝手に魔王としての役割が継承されていた。力は持っていかれていないため、アリスティアが魔族となったことが戻ることはないが、魔王としての役割は代替わりした形である。そうして魔王としての意気込みなどを教えつつ、やるべきことを伝え送り出したのが今回である。


「これから大変でしょうけど、頑張ってくださいね」

「母様は手伝ってくれないのですか?」

「私は恐らく死んだことにした方がいいでしょう。テトラが魔王を倒し引き継いだ、ということに。その方が箔もつくでしょう」

「母様に勝てるとは思いませんが……」


 テトラではアリスティアを倒すのは恐らく無理、実力的にはほぼ拮抗まで持ちこめてもまず経験の差で確実に負ける。確かにテトラは強いが生きた年数ややってきたことの経験ではアリスティアに分がある。とはいえ、真っ向からアリスティアに対抗できるだけで相当脅威なわけだ。少なくとも先々代の魔王程には戦えるのだろう、今の年齢で。そして魔族、魔王として生まれた彼は長生きすることに間違いはない。経験を年数かけて積めばアリスティアと同じくらいに強くなれるだろう。いつになるかはわからないにしても。


「それでは私は行きます。時々様子を見に来ますね」

「はい。私はこちらで自分の役割を頑張ります」


 テトラも魔王で王族の子。それなりにどう生きるかはしっかり考えている。さらにいえば、アリスティアの子である彼はかなり複雑な立ち位置であるからこそ余計にそういったことを理解する必要性がある。大変なことだろう。

ちょっとした後日の話。魔王に関してはちょっと特殊な事情が多々ある。

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