fragment (邪神の子、カナタ)
「ありがとうございます」
「ああ、いいのよ。でもあそこはもう廃墟よ? 何か用事でもあるのかしら?」
「友人の家が近くにあるのでそちらに行くのにいい目印だそうで」
「そうなの……」
どこか訝し気な視線を少女に向けつつも、おばさんはこれ以上少女に構っているわけにも行かないということもあって聞かれた家の場所を教えた後その場から去っていった。
家の場所を聞いていた少女は青色の若干ドレスのように見えるようなふんわりとした服装をしている。リボンやフリルの多い子供っぽいというか、ファンシーな感じの服装でもある。そして髪の色が一番不思議な部分が強い。髪の色は水色……というのが正しいのかわからないような、青色のような、透明な色のような、白色のような見た人で色が変わる感じである。ただ、誰もが水色と答える色であるのには間違いがない。さらに言えば髪型も少々変わっており、細い三つ編みをしているのだがその三つ編みの数が多い。五つくらいの三つ編みがされており、そのうちの一つだけが中途半端な長さになっている。
そんなどこか風変わりな少女は道の途中でおばさんに教えられた場所へと向かう。その場所は少々古い、ボロ家。おばさんの言っていた通りすでに廃墟となっており、時々そこに肝試しに来るものもいる。一応街中なうえに誰かの土地で不法侵入なはずだが特に文句を言われることも内容で、さらに言えば恐怖体験も珍しくないためか噂になってよく人が来ているらしい。
「ここね」
そんな場所に少女が訪れている。真昼間である以上肝試し、というわけでもないようだが。
家の中に少女が入っていく。廃墟と言われる通り、中はぼろぼろでどこか不気味で……そして、嫌な空気に満ちている。
「ああ…………ああ、悲しいわ。本当に悲しい出来事があったのね」
少女がそう独り言を話し始める。導かれるように少女は一つの部屋へと向かう。そこにはかつてそこに縄が垂れ下がっていたような、そこに人の体が存在していたような、様々な跡が残っていた。傍にはバットのようなものがボロボロになりながらも原形をとどめつつ残って至り、何かがくるまれていたような布だったり、様々な物品が残っておりかつてそこに人がいた、ということを思わせていて逆に不気味さが強い。
「あら、あなたはまだ残っているの? 離せるの?」
「…………。………………?」
「会話にならないわね。ああ、悲しいわ、悲しいわ、悲しいわ。この子はずっと繰り返しているのね。どれほどここに残った想いは強いのかしら。歪んで壊れて狂って腐り果てているのに。つい先日もまた一人同じ道を歩ませるくらいに狂気に満ちているのに。ああ、悲しいわ」
そこに残っている霊……いや、もはや思念と言ってもいいのかもしれないが、その存在に少女は語り掛ける。答えは返ってくることはなく、そこにいた思念はかつての出来事を繰り返しているだけ。違っていて意味のあるように見えて、その実また同じことが繰り返されるだけの残像。それは人の闇が生み出した者。現世に残ってしまった病み。そしてそれはここに入りこんだものを巻き込み狂わせる毒。
「さあ、還りましょう。闇はあなたの友。あなたの母。あなたの家。もう終わりにしましょう」
「……………………」
思念が少女の中へと消えていく。それと同時に、少女のいる部屋の闇は消えて…………より濃くなった。濃密な闇、濃密な病み、少女が話しかけた思念よりもさらに黒く病みの深いこの場所の狂気の根源。
「ああ……悲しいわ。ここまで堕ちて、終わって、死んでからもまた終われずに繰り返す。悲しいわ、悲しいわ、悲しいわ」
少女は闇に向かって手を広げる。全てを受け入れるかのように、自分の前を解放する。
「さあ、私は受け入れるわ。その闇を、その終わりを。さあ、還りましょう」
闇は少女に襲い掛かり……消える。この場所に存在していたすべての闇を少女は自分の中に呑みこんだ。
「ああ………………やっぱり、悲しいわ。ここもまた悲しみに満ちている。せっかく終わらせたけど、いつまで持つのかしら。ああ、悲しいわ……でも、なかなかおいしかったわ。さあ、次に行きましょう」
少女はそのまま家を出る。その家はそれ以降、なにも出ることはなく心霊スポットのような扱いもいつか消え……そこに存在していた廃墟は後に解体されることとなった。
「ああ、いつの間にかこんなところに来てしまったわ……騒がしいわね。これは、ああ……悲しいわ。とても悲しいわ。悲痛な声が聞こえるわ。そう、駄目なのね。終わりたいのね。だけど、それは後に回しましょう。後でその悲しみを終わらせてあげる。苦しくて、つらくて、終わって、終わらせられて、すべてを失って……ああ、悲しいわ。でも、私の闇はこっちへ行けと告げているわ。なんなのかしら。おいしいものがいればいいのだけれど」
少女の向かう先は公園だった。その一角に向かう。隠れているように見えるが、全く隠れていない。少女にはすべてが見えている。
「あん? お前何かこっちに用事かよ?」
「こっちはいろいろやってんだ。邪魔するんならお前も」
「ああ、悲しいわ、悲しいわ、悲しいわ。酷い話だと思うわ。そう思わない?」
少女の前に立ちはだかる男たち。そのどこか下卑た表情を浮かべ少女に接しようとするのだが、それ以上に少女の方が恐ろしい。少女は丸で感情を見せて稲い。笑顔も悲しみの顔も、無表情にしか見えない。眉一つ動かさない表情で悲しい、悲しいといいながら男たちの言葉に答えず問いかける。普通ではない。
「お、おい……お前いったい」
「邪魔はしないでほしいのだけど。ああ、でもあなたたちの闇も悪くはないのかしら? そう、おいしくはなさそうね。でも色々と悲哀が混じっているわ。それはあなたのものではないわね。どれだけの人を泣かせてきたのかしら、悲しませてきたのかしら。ああ、悲しいわ。そういう生き方をしてきたのね。ああ、悲しいわ」
「悲しいわ」
瞬間、くしゃりと少女の前にいた男のうちの一人が潰された。まるでティッシュを握りつぶしたかのように、何の抵抗もなかったかのようにくしゃりと。そしてそれが終わった後、まるで思い出したかのように肉が潰れて血が噴き出し始める。骨が折れ、砕け、突き出ている。その肉塊はぐちゃりとその場に落ちた。
「うわあああああああっ!?」
「ひいいいいいいいいいいっ!?」
「ああ、悲しいわ。逃げちゃだめよ」
その場にいた男たちが、全員最初の男のように潰されて死んだ。
「ああ、悲しみの声が聞こえる。まだ終わってない。終わらせてほしい。終わっているのになぜ生きているの? 終われないのかしら。ああ、悲しいわ。悲しいわ。悲しいわ。これまで終わらせてきたすべてが悲しいわ」
そのまま少女は男たちが守っていた奥の方へと向かう。そこにいたのは一人の女学生と男。何が起きているのか、何をされているのかは言わなくても推測は出来る状況である。ここでは絶対に言わない。
「お、おいお前ら! なにやってるんだ人が入ってきてるじゃねえか」
「ああ……悲しいわ」
「おい、あっちに行け! じゃなきゃお前も」
「悲しいわ」
男が潰された。
「ひっ!」
それを目の前で見ていた女学生は自分を滅茶苦茶にした男以上に、その男を問答無用で訳の分からない方法で潰した少女の方に恐怖を覚える。この世界ではありえない、超能力ともいうべき手法での殺人だ。恐怖しない方がおかしい。
「ああ……まだ、大丈夫なのね。悲しいのだけど、まだ終わっていない……よかったわね。今までの人は殆どが終わっていたの。とっても悲しいことだったわ」
「あ、え……な、なに? 何なの?」
「あら……? ふうん、あなたはあの子なのね。ああ、未来のあなたは終わっていたわ。悲しいことに。ああ、そうなの。ここは未来のあなたの過去なのね。ああ、運がよかったのね。ふふふ、よかったわね。悲しいことにならなくて」
「え…………」
少女は笑顔を浮かべる。普段から浮かべている無表情の笑顔ではなく、心の底から嬉しいと思って出てきた笑顔を。思わず同じ性別でありながら魅了されるほどにそれは綺麗で優しい物だった。
「あなたの友人に、あなたの横にいる人に、あなたの家族となる人に、あなたの救いと終わりになる人に、頼りなさい。あなたの家族はもう終わっているの。悲しいことに。でも、其方に行けばあなたはまだ助かるわ。多くの悲しみから抜け出せる。それはとてもいいことなの。安心していいわ。私がすべてを終わらせておくから」
そう一方的に女学生に告げ、少女は歩き出す。次なる目標に向けて。
「ああ、諸悪の根源の闇はどれほどかしら。どれほどの悲しみがあるのかしら。ああ、悲しいわ。全てを救うのは無理なのはわかっているけど、やっぱり悲しいわ。ああ、そのまえに一つの闇を、一つの悲しみを回収してこないと。いえ、悲しみは一つではないのね。被害者も、加害者も、巻き込まれた物も等しく悲しみを持っているわ。闇の連鎖、ああ、悲しいわ」
「ようやくみつけたわ……はあ、なんて世界にいるのかしら」
少女の側に別の少女が寄ってきた。その少女は銀髪に白い肌。それも闇の中であっても浮き出るくらいの映えた色合い。そしてその体を覆い隠すような闇のような漆黒の服、白の中でひときわ目立つ黒の瞳。それらから明らかに美人であることはわかるだろう。それ以上に少女は可愛らしく可憐な見た目をしていると言うのに、どこか感じる雰囲気は恐ろしいものを感じる。
「あら、珍しいわ。どうしたの絶望さん?」
「人を絶望と呼ぶのはやめてほしいのだけど、悲観?」
「ええ? でも他に呼び名はあったのかしら?」
「はあ。絶望の偶像、絶望のアイドルと呼ばれるのが一般的だけど、一応クロとでも呼んで頂戴」
「そう、クロ。なら私の方も悲観と呼ばないでいい呼び方で呼んでくれる?」
「ええ。そもそもあなたは普通に名前があるでしょう、カナタ」
カナタ。かなた。
「ふふ、多い悲しみを食べるのね」
悲多。悲食。感じに直すとこうなるのだろうか。人、それも女の子につけるような名前ではないだろう。
「ところでどうしたの? この世界では歌を歌わないのかしら?」
「していたわ。でも途中で男に襲われて面倒になったから早々に用事を終らせて別のところに移動することにしたの。それにしてもなんて世界なのかしら……聖に奔放というわけでもないのに酷い所ね」
「そうね。この世界は悲しいことだらけ、悲しみが多い世界。ああ、悲しいわ、悲しいわ、悲しいわ」
「それはもういいわ。それよりも、用事なんだけど」
クロと呼ばれる絶望の少女がカナタと呼ばれる悲観の少女に要件を告げる。
「お母様に言われて、ちょっと呼び出しに来たの」
「ええ? ママに? それは困るわ」
「あなたお母様のことママって呼んでるの? まあ、それはいいのだけど……でも何が困るの?」
「だって、ママに会ったら…………食べたくなるの。すごく、おいしそうだから」
「ああ。あなたは喰らう性質のある闇の子だったわね……」
「悲しいものを終らせるのが私の役割。終っているのに、終わっていない全ての闇、全ての悲しみを終らせるの」
「まあ、仮にお母様に何かしようとしても逆に食われて終わりでしょうけど……ああ、それもダメよね。そうね、どうせ大したことではないのだし分霊を送ればいいんじゃないかしら? 私もいろいろとしているからそうするつもりだけど」
「あら、それでいいのかしら?」
「いいのよ。お母様も直接出向く気はないみたい。ああ、確かすでに一度終わった世界が再分類されてもう一回やり直しとかで自分の分身をボスとして送り出すとかそんな話だから、どうせ私達も四天王とかそんな感じなんじゃないかしら」
「ふうん。それでいいのかしら? 人に近いのは絶望さんと神殺しさんだけでしょう?」
「神殺しは出ないでしょうね。かといって私とあなた、あとは巨人とあの細長いのくらいじゃない? 流石に本物は出さないでしょうけど」
「そう。分霊は送っておくことにするわ。ああ、ママにあいたい……会って食べたい」
「…………まあ、この子を送るよりははるかにいいでしょう。下手をすれば何するかわからないわこの子」
そう言って伝えることは伝えた、と絶望の少女はこの世界から移動する。
「この悲しい世界ともお別れね。世界はまた繰り返す。同じ世界を、ずっと、ずっと。私が治した悲しみも、また蘇る。でも意味がないわけではないわ。一度の救いでも、救いは救い。ああ、悲しいわ。それは私のやるべきとではないのに。私は闇なのに。悲しみを食らうものであるだけなのに。ああ、悲しいわ、悲しいわ、悲しいわ」
そう一人で呟きながら、少女は何処へとともなく歩き出し始めた。その姿は徐々に消えていく。またどこか、少女が向かうべき悲しみのある場所に少女は現れるのだろう。悲観の闇、悲食の者。悲しみがある限り、闇がこの世界に残り続ける限り、終わっているのに終らぬもの在る限り、それはそれらをくらい終わらせるために現れ続ける。
無駄に増えるキャラクター。いや、昔っからこういう所はあったので納得。たまにふわふわとこういうキャラクターのこういう話という適当感漂う雰囲気に降りてくるキャラ設定。
それはさておき、別の話に繋がるような内容。実際彼女らは別作品にいくらか関わることもある。この辺りは神殺しなんかと同じ。闇側邪神側は設定上敵として出しやすいので。




