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セレスティア学園  作者: 旅人見習い
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第一章『空っぽの創造者』 その1



 とある学園にとある生徒が居ました。

 生徒はとても友達が多く、常に人に囲まれた生活を送っていました。

 とある学園にとある生徒が居ました。

 生徒はとても顔見知りで、常に人を避けた生活を送っていました。

 とある学園にとある生徒が居ました。

 生徒はとても空っぽで、まるで人形の様でした。

 生徒はとても受動的で、まるでロボットの様でした。

 生徒はとても真似上手で、まるで他人の鏡でした。

 とある学園で、生徒が生徒を避けました。

 とある学園で、生徒と生徒が友達になりました。

 とある異世界で生徒生と生徒が生徒を落としました。

 とある学園で、生徒が生徒を友達にしました。生徒が生徒を嫌悪しました。

 とある学園で、生徒が生徒を利用しました。

 とある学園で、生徒が生徒の手の平で踊りました。

 とある学園で、生徒が生徒に訴えました。

 とある学園で、生徒が生徒を壊しました。

 とある学園で、生徒と生徒が……。



 セレスティア学園

  ――多世界多種族多文化交流の巨大学園。

    役割:異世界モンスターの生態管理。多世界交流の懸け橋。

    入学条件:人型容姿であれば問題無し。


 異能

  ――全世界に共通する特殊能力の総称。



 異世界なんて馬鹿馬鹿しく思うかもしれないが、それ等は存在した。 驚くことに、今では無量大数単位で世界が観測されている。

 まだ恐竜が生きている世界や、神が実在する世界や、銀河が広がる世界や、一つの帝国しかない世界や、世界樹が要となる世界や、テニスが全ての世界や、ただの人間には興味ありません世界や、未来世界や、戦国時代世界や、魔法が存在する世界や、超能力が存在する世界や、全てが液体に包まれた世界や、空っぽの世界や、暴発寸前の世界や、永久沈黙の世界や、魔王が支配する世界や、勇者が存在する世界や、言葉で表現することが不可能な世界や、人知を凌駕した世界や……。

 似た様な姉妹世界も多く存在し、日本だけを数えても兆は裕に越えるであろう。

 そんなとある世界の、とある銀河の、とある太陽系の、とある惑星の、とある孤島の、とある学園の、とあるグラウンドの遥か上空で、学生は赤く幻想的な光線に包まれた。

 対物ライフルのスコープを覗き、引き金に掛かる指へと力が込められる。


 物語りはここから始まった。


 ―――全世界を終焉へと導くカウントダウンと一緒に―――


 ハッキリと寝不足であった。

 スッキリしないボヤけた思考をなんとか起き上がらせ、俺は独占している八人部屋の寝室で欠伸を抜かした。

 好きで独占しているわけではない。成り行き上だ。そもそもは八人居たのだが、俺を除いた七人が全員他の寮室に居候しているのだ。最近行われた部屋替えから半年が経過しているが、一度として帰って来た例がない。

 故に最近ではすっかり、八人部屋に一人である。

 しかし、今週に入ってから珍しく来客が訪れた。訪問者達には悪いが、彼等の行動は借金取りのヤクザを連想させられた。

 終いには意味も分からず裏切り者扱いされ、昨日の就寝時間は深夜四時。一日だけであれば問題無いのだが、これでもう五日連続だ。俺は朝に強い体質だと言われているが、流石に気だるさが残る。

 「……はぁ」

 二段ベット下から足を放り出し、深いため息を漏らす。

 最近知り合い始めた天使曰く、ため息とは幸せを逃がす行為らしい。その対策として貰ったアドバイスだが、朝一にカーテンを開けて日差しを浴びると幸運が舞い込むそうだ。

 言われたままに、俺は寝室のカーテンに手を掛けた。

 独特のスライド音が鳴る。

 途端、まだ昇り始めたばかりの太陽が横殴りに部屋を照らし、ベランダに繋がる窓を開けると、早朝の冷たい爽気が頬を撫でた。

 予報で今日の天気が晴れの一点張りになっていたことを思い出す。見上げた空は蒼という文字が相応しい色に染まっており、早朝出勤で天高く螺旋軌道を描いている二匹のトンビを除き、晴天が広がっていた。

 ……彼女はこれを見て、気が晴れるんだな。

 俺は思考を巡らせながらキッチンへ向かった。

 前の同室者が置いて行ったトースターの食パンを入れレバーを下げる。少し古い導線が鉄の焦げくさい匂いを漂わせる。

 朝食が焼けるまでの時間を使い、俺はリビングに置かれているノートパソコンの電源スイッチを指で押した。ハードディスクが唸りを上げ、OSが展開し始める。

 この部屋は他の部屋と比べて不思議と携帯の電波環境が悪く、場合によってはメールが届かなかったりする。なので有線で繋いだパソコンが代わりに学園からのメールを受信している。こうした電波環境の不備が、同室者が抜けて行った理由の一つだ。

 パソコンの起動をゆっくり待っていると、寝室から目覚ましが鳴り始めた。どうやらスヌーズを切り忘れていたらしい。

 ――ピーンポーン

 と、ほぼ同タイミングで玄関のベルが来客の存在を主張する。

 こんな時間から誰であろうか……まぁ、誰かは分かり切っているのだけれど……。

 なるべく足音を立てないよう注意しながら速足で寝室へと向かい、スヌーズをオフに切り替える。音が止んだことを確認し、布団を見て睡眠欲が膨れ上がった俺は再び間抜けた欠伸を漏らした。

 だがここで寝るわけにもいかない。廊下に移る扉を開き、玄関へと急ぐ。

 センサーによってオレンジ色の光が点灯し、玄関付近に掛けられた鏡が俺の姿を映す。少し寝癖が立った髪、覚醒し切っていない意識が顔に表れており、冴えない水色無地Tシャツには幾つもシワが見られた。

 ――ピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポピポ

 突然のベルラッシュに、俺は思わず跳び引いてしまった。

 このままでは近所迷惑になりかねないと判断し、至急ノブへ手を掛ける。

 「セリア、連打しない」

 「だって月読、何時まで待っても出て来ないんだもん」

 「まだ早いから、寝ているかもしれないでしょ」

 「そしたら目覚ましにもなって一石二鳥!」

 「プラス思考しているところ悪いが、近所迷惑を考えろ」

 多少悪態気味に台詞を吐きながら、俺は扉奥で会話している二人へ呆れ顔を向けた。

 「あ、おはよう無境!」

 反省の色見られず。目の前にもかかわらず大きく手を上げ、彼女はよく通る澄んだ声で朝一の挨拶を飛ばした。

 彼女はセリア=ベル。純白の翼を背中に畳んだ天使少女だ。天真爛漫、明朗闊達という性格がお似合いで、かなりお人好し且つ友達想い、ナイーブな性分を持ち味としている。

 きっとセリアが毎朝起こしに来るのも、頻りに話し掛けてくるのも、そんな性分が原因なのであろう。

 「……おはよう」

 セリアの隣で、小学生と見間違えそうな程小柄な少女が挨拶を投げる。

 彼女は月読さより。心を読む異能を宿した妖怪少女だ。冷静沈着、沈思黙考、とにかく静かで落ち着いた性格をしており、表情が顔に出ず、常日頃のジト目がトレードマークとなっている。

 セリアを暖色と例えるなら、月読は釣り合い良く寒色である。そんな相性も手伝ってか、彼女達は親友の仲だそうだ。

 「おはよう」

 二人の中間的な挨拶をする俺は坂井無境。人間少年だ。彼女達、特に月読が曰く、ため息が多い不幸人間らしい。

 「自覚があるのなら、少しは笑ったらどうかしら?」

 「……こうか?」

 「少しはマシになったわ」

 早速思考を読んだ月読の平坦口調の言葉に、俺は無理やり苦笑いを作った。目下に隈が浮いた顔で出来る精一杯の努力である。

 「どうしたの無境? 今日も寝不足?」

 「正解」

 ……誰かさんのせいでな。

 努力の末にガックリと垂れた俺を覗き見る様にして、セリアは細く美麗なラインを描いた首を傾げた。

 セリアは天使(セレスティア)族としてのプラス因子を差し置いてもかなりの美少女だ。制服から覗かれる陶器の様に滑らかできめ細かい肌は見る者を魅了し、整った顔立ちから生み出される笑顔は太陽すら霞んで見える眩しさを秘めている。艶のある黒いロングストレートの髪が動きに合わせて波を作り、大きく開かれた瞳は吸い込まれる様な錯覚を覚えてしまう。

 これは情報屋が無料提供してくれた(というか押し付けた)情報だが、彼女はその美貌から、美術科の連中からモデルになってくれとのオファーが殺到しているらしい。

 ファンも多く、しかしそれ以上に『恐ろしく友達が多い』。初めて聞いた時は耳を疑ったが、彼女の友達人数は世界を跨いで億を越えているそうだ。

 ……携帯の電話帳とかどうなっているのだろうか……。

 「セリア、無境が褒めてるわよ。美人だって」

 「え、本当!? ありがとう!」

 「……というわけで嫉妬したわ。私も褒めなさい」

 嬉しそうに翼をパタパタ動かす親友を尻目に、凄まじく抑揚の無い声で意味不明の台詞が投げられた。

 ……月読よ、お前はもう少し感情を表に出してくれ。マジで嫉妬してるのか悪ふざけなのか全く分からん。

 思考で呟くと、月読は相変わらずのジト目で俺を見上げた。セリアが有頂天から帰還するまでに早くしろ、とのことだそうだ。

 「どういうわけだよ……月読も美人だぞ」

 「そんな取って付けた様な褒め言葉だと、私は振り向かないわよ」

 ツン、とジト目のままそっぽを向く月読。

 実際、嘘は言っていない。

 幼さの残る顔立ちは端整で、将来的に美人になることが容易に想像出来る。愛らしく揺れる短く切ったピンク髪と落ち着きある態度が可愛らしさと凛とした雰囲気を兼ね揃え、その絶妙な組み合わせがセリアとは違った美しさを表現している。ジト目を剥いた顔も笑顔になればきっと……。

 「幼児体型? 妖怪は外見成長が遅いのよ」

 「思ってない」

 ……人の思考を勝手に誤植するな。

 「口調が平坦? それはもう修正不可能」

 「思ってない」

 「寝る子は育つ? 私夜行性だから無理よ」

 「だから思ってない」

 「お子様ランチ? 今でも偶に食べるわ」

 「いい加減にしろ。つか、食うのかよッ!?」

 突如として始まったボケとツッコミの連鎖は、吐き出された盛大なため息によって終止符を打たれた。

 腰に手を当て、俺は有頂天から舞い戻ったセリアの姿を確認する。

 もう常連のことだから、二人が訪問して来た理由を問う必要はないであろう。

 だからこそ、俺は先手を打った。

 「先に行ってくれ。俺は遅刻ギリギリでいい」

 「え~、一緒に行こうよ~」

 駄々をこね、セリアは空いている俺の右手を握って引き寄せた。少し危なっかしく前のめりになるが、なんとか体勢を立て直す。

 「……見ての通り、俺はまだ寝間着姿だ。朝飯も食ってねぇ。今から頑張っても三十分は掛かる。待たせるのも悪いだろ」

 「気にしなくても私、準備終わるまで待つよ?」

 ……やっぱりそう来るよな。

 予想通りの返事を耳に入れ、俺はセリアに見えない角度でため息を漏らした。

 仕方が無い、他力本願で癪だが、ここは月読に頼もう。

 自力での脱出が不可能と判断し、助け船を呼ぶために思考を巡らせる。粗方の用件をまとめたところで、受信した月読は軽く息をついた。承諾の合図である。

 「私は待たないけどね。ほらセリア、行くわよ」

 「え、あ、ちょっと?」

 月読がセリアの腕を強引に引っ張る。突然視界が横にスライドし始め、驚いたセリアは目をまん丸に見開いた。

 俺は徐々に遠ざかっていく二人を手を振って見送る。

 「明日は早めに準備しておいてね~!」

 玄関の扉が閉まる直前、我が儘天使の大声が隙間に滑り込んだ。女性特有の高いキーが頭を木霊し、寝不足頭を悪戯に締め付ける。

 ……さっきの台詞、あいつ等に聞こえてないといいけどな。

 ガンガン痛む頭で不安要素を抱えながら、再び一人になった俺は俯き加減にリビングへと向かった。

 焼き上がった食パンをくわえ、制服に腕を通す。学園の制服は紅白を主彩としたブレザースタイルで、俺の出身世界が扱っている学校制服と外見的な大差はない。種族に応じて背中に穴が空いたり、対日光属性が備わったりとアレンジ制服も数多いが、基本構造はどれも同じだ。

 ネクタイを締め、小さくなった食パンを口に放り込む。

 時間割に従って教科書やルーズリーフを学生鞄に納め、俺はそろそろ立ち上がったであろうノートパソコンの前に座った。

 つい数分前の出来事を思い出す。

 俺は何故、彼女達からの誘いを断ったのであろうか……。

 自問するが、自答はすぐに返ってきた。

 危険だからだ。

 昨晩、厳密にいえば今から約三、四時間前までの光景が脳裏を過ぎる。

 野郎達が俺の部屋に押し掛けた理由はずばり、セリアと月読との関係についてだ。どうやら二人が朝起こしに来る行為=彼女、と方程式が男子達の間で広まっているらしく、目撃者多数と証言も固まり、ついに真相を確かめに来たのだそうだ。

 当然、俺は全力で否定した。そもそも俺は彼女達と出会って一ヶ月と経っていない。向こうが勝手に仲良しぶっているだけで、実際は知り合い程度である。

 だが、セリアは人気者だ。男子からの評判も当然高く、嫉妬する学生も多い。彼等は俺の話しに聞く耳を持たず、終いには一方的に喧嘩が勃発した。

 言い争いで済めば、悪くても殴り合いで済めば嬉しかった。

 ……この学園の喧嘩は、それだけでは終わらない。

 画面のアイコンをダブルクリックし、メールソフトを起動させる。


 新着メール――『呪われろ』『リア充爆ぜろ』『最低だこの二股野郎』『よくも俺のセリアちゃんを』『夜道に気を付けろよ』『切り殺してやるから首洗って待ってろ』『セリアたんは僕だけのモノなんだからな』『二トントラックデヒイテヤル』


 末恐ろしい文章に寒気を感じながら、急いでパソコンの電源ボタンを押す。自動でソフトが消え、シャットダウンが始まる。

 脇に転がる学生鞄を抱え持ち、俺は逃げるようにして玄関から飛び出した。


 ――一丁の拳銃を脇下にぶら下げて――

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