<歴史に埋もれて>
いま思えば俺がこの村に来てからずいぶんと年月が経った。俺もいつかはこの村で骨を埋めることになるだろう。だが、たとえ今この瞬間にそうなることになっても俺に思い残すことはない。
今では忍月を長女としたたくさんの娘たちも次々と大きくなり、御庭番に派遣されていたり、火付盗賊辻斬方に派遣されていたり、この村で暮らしていたり様々な活躍をしている。
そしてそんな姉妹の中で一番の出世頭はやはり忍月である。
成人して江戸御庭番の一員となった忍月は早々に手柄を挙げた。それはキリシタン大名による偽小判の製造である。忍月は市場に出回っている偽小判から大名が関わっていることを突き止め、そいつがキリシタン大名であることと金工職人とその家族を拉致して偽の小判を作らせていることを明らかにしたのだ。
本物の小判で外国と取引し、偽の小判はこの国で使用する。金を外国に流出させると同時にこの国の経済を破壊しようとした大事件である。そして今ではそんな忍月も長崎御庭番の頭領として頑張っているという。
「ほら、私の言っていた通りあの子たちも立派に育ったでしょう」
俺の隣にいる白月は自慢げにそう言う。
「俺は遠くから見守るしかなかったけどな」
「この里にとって子供は宝、くノ一になるためにもほかの種族や男に情を持ってもらっては困るの、家族として暮らしたらそれこそ情がわいちゃうわ」
くノ一となることを中心としたこの村の存在。俺もそれを十分に理解している。
「だから、いつも俺と一緒にいてくれたんだろう」
「ええ、子供と無理やり離れ離れにする分、あなたを一人にしないためにその責任をきっちりと取ってきたつもりよ」
白月はその責任以上に俺の気持ちに応えてくれた。そして俺は白月のためにも白月とこの村のために尽くしてきた。だが、この村にもその時がいつか来るだろう。
「なあ」
「どうしたの?」
「もし、この世界が、俺がいた世界のように平和な世界になったらどうするんだ?」
白月は俺のすべてを知っている。いや、白月には俺のすべてを教えた。きっとこの世界にも平和な時がいつか来る。
「その時は上手く立ち回るだけよ。そしてひっそりとくノ一の技術だけは受け継いでいくわ」
「その技術が必要なくなってもか?」
「別に必要とされなければそれはそれでいいの。でもいつか私たちが必要とされたとき、それがいつになるかわからないけど・・・いつか現れるであろうその期待に必ず応えるつもりよ」
必要なければそれでいい。だがもし必要とされたとき、その期待を裏切らない。なかなか頼もしいものである。
だが、白月がそう言った時代になるまでに世界では様々なことが起こるだろう。この国を植民地にしようとする外国、帝国主義からなる世界大戦、きっとその時には必ず必要とされる。その時いったいこの村はどうなるのだろうか。
「これから先のことを考えるのは別にいいけど、あまりにも先のことを考えるのはどうかと思うわよ」
俺の考えていることは白月にはお見通しである。そして白月は俺と腕を組むと話を続ける。
「これから先の時代のことはこれから先を生きていく人に任せておけばいいのよ」
「ああ、それがいいのかもしれないな」
今の俺がこの世界を憂いても何も変わらない。これから先の未来はこれから先の未来を生きるものが作っていくだろう。そしてそれと同時に異世界から来た俺は、異世界から来たことなど関係なくこの時代を生きる一人として歴史と共に埋もれていくだろう。
ならば今の時を幸せに、俺は最期の時まで白月と共にこの村で生涯を終えるだけである。
最後までお読みいただきありがとうございました。
もともとこの作品は
『江戸時代風の異世界で測量隊員となって日本全国を歩きながら昔話や伝説をもとにした出来事に巻き込まれていく』
という内容の作品と
『江戸時代風の異世界で奉行所の人間として生きていきながら様々な事件に関わっていく』
という内容の別々の作品で考えていました。
しかし、江戸時代風の異世界という世界観がほぼ同じことから冒頭や小話、人間関係といったものでそれぞれ別に書けるほどの技量がなく、大まかなストーリー以外があまり変わらなくなる可能性があることから一つの作品として仕上げたのがこの作品になります。
そのため自分の中では登場人物が多かったり、東日本は測量で西日本は与力として行くなど統一性のない構成となってしまったかもしれないと思っています。
しかし、これからも同じように複数の構想を一つにまとめて書いていくことがあるかと思うので同じようなことが起こるかもしれませんがどうかその時もよろしくお願いします。




