<忍びの技>
白月の出産が落ち着くと俺にも番衆としての仕事が入ってきた。この村では千鶴の存在は周知の事実であり、
俺の体を使った千鶴との手合わせを願うウサギが現れたのだ。
「なんだか緊張するな」
「何言ってるのよ。実際に戦うのは千鶴でしょう」
それはそうなのだが、過去には黒月に勝てなかったことから考えるとそんなに期待されていても困るのだ。
「それに、負けたって気にすることないわ。所詮は木刀を使ったチャンバラ、妖刀本来の切れ味を全く活かすことができない戦いで負けても仕方ないわよ」
確かに白月の言うことには一理ある。実際に千鶴の双翼の切れ味は気力を込めた黒月の刀を斬ることができるほどだった。そのため真剣勝負となれば相手を刀ごと斬れるだけのことができるのだ。しかしそれが一切できないのがこの勝負である。
「結局この勝負は剣術勝負よ。同条件であれば元々の身体能力が高い獣人に分があるわ。千鶴の有利さが一切活かせない勝負なんだから負けたってそれは当たり前なのよ」
こうして白月に見送られた俺と白月であるが、千鶴は負けるつもりはなかった。
(白月様はあのようにおっしゃってくださいましたが、別に私は最初から負けるつもりはありませんよ)
(やれるだけやってみるか)
(はい)
こうして俺と千鶴は一人のウサギへと立ち向かっていった。
序盤は明らかに千鶴優位に進行していった。二刀流の手数の多さで相手を圧倒して攻撃する隙を与えず、こちらはこちらで相手が攻撃を避けるので俺はこのまま勝負がつかないのではないかと思ったほどだ。だが、これは後から考えればこちらの剣筋を見切るための下準備だったのかもしれない。
それからしばらくすると相手の反撃が始まった。こちらを翻弄するように飛び跳ねまわるような動きに千鶴はついていくのがやっとである。そして俺の顔面へと突き出される切先をのけぞるように避けて再び正面を見るが、そこには誰の姿もなかった。
千鶴はその状況に刀を逆手にもって振り返った。すると、いつの間にか真後ろに回っていた相手が一直線に迫ってくる。千鶴は俺の胴体付近で刀を交差させてまるで野球のスライディングのように相手の足元をすくいながら相手の下へと滑り込んだのだ。
こんな行動をいったい誰が想像しただろうか、千鶴はそのまま相手の足元をすくい、相手は俺の胴体で交差させている刀の上へと倒れ込んでくる。だが・・・。
あの一瞬でいったい何があったのか、気がつけばこちらが負けていた。一体どこから出したのか、相手は短い小太刀のような木刀で俺の刀の交差している中心を押さえつけ、最初から持っていた木刀は俺の首元に正面からあてがわれている。
何とも言い難い終結ではあるが、こうしてウサギとの大一番は終わったのである。
・・・・・
「相手は里一番の剣術をもつくノ一よ。それであそこまでやるなんて大したものだわ」
その日の夕食、勝負の結果を聞いた白月はそう言って食べ続ける。
「くノ一と言いつつ、忍術を使うまでもなく強かったな」
「私たちにとっては戦いに関することすべてが忍術よ。剣術も含めてね」
まあ、ここがくノ一の忍びの里である以上この村で学ぶことはすべて忍術と言えるかもしれない。俺はそう思って納得しかける。だが白月の言っている意味はそのような概念的なものではなく剣術そのものが忍術としての剣術なのだとそうだ。
「種族ごとに違う相手の視野、腕と足の可動範囲、それを理解したうえで相手の攻撃を避け、逃げられるような技術を身につけ、最終的にそれを自分の攻撃につなげるまでが私たちの剣術なのよ」
忍びは生き残って情報を伝えることが本分。そこでこの村のくノ一は攻撃をとにかく避け、逃げることから学ぶ。そしてそこから相手との戦い方を学ぶのがこの村での教育なのだそうだ。
「それにその勝負も真剣勝負であれば千鶴は小太刀ごと相手を斬ってるんだから、よくてこっちの勝ち、もしくは相打ちだったはずよ」
(だそうだ)
(でも、少し調子に乗りすぎていたかもしれません。再び戦わせていただいたら勝てるかどうか・・・、それに本気で相手をされたら勝てないと思います)
白月の言葉に俺は千鶴にそう声をかけるが、千鶴の方は思っていた以上に戦いができなかったのかこの調子である。
確かに剣術だけであそこまで苦戦するとなるとくノ一としての本領を発揮されると全く勝てないだろう。それこそあの剣術のほかに苦無や手裏剣だのが飛んでくるのである。
だが、本心を言えば身を持ってそんな戦いを体験するというのも楽しいのではないかというような気もする。まあそうなったらあまりにも早く決着がつきすぎてしまいそうだが、くノ一としての本気の戦いというのも気になるものは気になるものである。




