4話 第二王子ショーン、異国の王子アシュラフ
えー、ちょっとしたハプニングにより一旦歓談タイムを挟みましたが、新郎と一部ゲストが無事席に戻れたところで午後の部を再開したいと思います。
司会は引き続きこのショーン・リンドランドが務めさせていただきます。
さてと、兄上、フィリップ、アシュベリー嬢、温かくも時折ぐさりと……くすりと笑える素晴らしい友人代表スピーチでした。皆様どうぞもう一度盛大な拍手を——先程はちょっと有耶無耶になってしまったので……はい、ありがとうございます。
それでは続きまして、テーブルスピーチの方に移ります。ああ、気負う必要はございません。各テーブル代表に司会の私が新郎新婦についていくつか質問をして回りますので、気軽にお答えいただければ幸いです。
ではさっそくこちらのテーブル。友人代表スピーチでも何度も紹介のありました、元生徒会メンバーのテーブルから参りましょう。
兄上とフィリップは既に友人代表スピーチを、私は司会をしてますのでテーブル代表と言っても消去法で残り一人ですね。
アシュラフ王子、ご起立願います。
❇︎❇︎❇︎
——まず一問。新郎の第一印象と、今の印象を教えてください
『最初の印象は軟弱そうな奴だ。剣も握れぬ、いや、握ろうともしないのは我が国では到底男と呼べるまい。……しかしなかなか小賢しいことを考える。気が付いたら奴が一番美味しいところを持って行っていた、なんてことがよくあったな』
——なるほど確かに。まさに今日もその一番いいところを持って行った結果みたいなものですもんね。
それでは次に、新婦の第一印象と今の印象を教えてください。
『ふっ、そうだな。ララリス……この我と目を合わせて、頬の一つも染めぬとは面白い女よ。何者にも媚びず、己の道を突き進む気高き女だ。我の花嫁にこそ相応しかったが、惜しいことをしたものだ。もし今からでも考え直すと言うならば、会場中をねじ伏せてでも攫ってやるのだが』
——予想通りの回答いただきました。我々生徒会メンバーは避けて通れない道ですねこれは。しかしそこまで言って大丈夫です?剣も握れぬ新郎がちょっと懐に手を入れましたよ、ねぇ、巻き添えは御免ですからね。
『今のは寝言だ』
——考え直していただきありがとうございます。寝起きなところ失礼しますがもう一問、新郎新婦との学生時代の思い出を教えてください。
『色々あるが、我が国に皆を招いた時のことはよく覚えているな。本当はララリス一人で良かったんだが、それは後の楽しみに取っておこうと……まあもう取り出す機会も無いが……実はあの日案内した場所には、知る人ぞ知るパワースポットもあったのだ。想い合う男女に温かな祝福を与える妖精がいると噂のな。……ふっ、あの時の妖精がもし本当にいて己の職務を全うしていたとしたら、今日ララリスの隣に座る男も変わっていたかもしれぬな……いやすまない、これは独り言だ。気にするな』
——ああ、そういえば着いた瞬間ユレイとララリスが急に暑がり出した場所がありましたね。温かな祝福ってそういう。二人共自作の冷却用魔道具を装備していたのに故障したのかと不思議がってましたが、まさか今更原因が判明するとは。
『ふっ、そうだったな。あの程度で暑いだの急に熱風が来ただの騒ぎおって、やはり軟弱な男だ。ふふん、我は少しも暑くなどなかったぞ』
——私達も全っ然、一ミリも暑さは感じませんでしたねぇ、あの場所では……ということはもうあの頃から……いえやめておきましょう。ではアシュラフ王子、最後に新郎新婦へお祝いの言葉をお願いします。
『ふん。ユレイ、この我を差し置いてララリスと結婚するのだ、幸せにしないと許さぬぞ。ララリス、嫌になったらいつでも我のところに来い。愚痴でも気分転換でも何でも付き合ってから二人の愛の巣に……日付が変わる前にきちんと送り帰してやる。幸せにな』
——おっと。相変わらずかと思いきや最後ちょっと成長を見せましたね。温かい祝福の言葉をありがとうございます。新郎も懐のそれしまっていいですよ、ええ、はい、ありがとうございました。
❇︎❇︎❇︎
アシュラフ王子、回答ありがとうございました。
続いて隣のテーブル代表の方……に行く前に、司会の私からもここのテーブル副代表として少しだけ。
最初に自己紹介はしましたが改めまして、この国の第二王子、ショーン・リンドランドと申します。
先程はアシュラフ王子の発言を何度か諌める側に回ってましたが、まあ私もちょっと前まで似たようなものでしたからね……皆が順当に恥を晒していく中自分だけはまともなフリをするのもそれはそれでキツいものがあるというか、そもそももう私もこのメンバーと同じということは皆のスピーチによりわかりきってることなので、潔く懺悔しようと思います。
ララリス。君は本当に面白い女性だ。正直に言うと私は最初に兄上から君の話を聞いた時、『上手いことやったものだ』と内心苦々しく思っていた。王子という身分に寄ってくる女達にウンザリしていた兄上にとって、一見見向きもしない君の態度はさぞ新鮮に映っただろうと。
一見も何も最初から最後まで見向きもしなかったわけだけどね。その当時は兄上の気を惹くための小賢しい演技だと思ってたからさ……いつか化けの皮を剥いでやると決意なんてものをしてたんだ。
同じ生徒会のメンバーになった時は絶好のチャンスだと思ったよ。兄上に怪しまれずに君に近づき、兄上と同じく王子という身分を持つ私に君がまんまと釣られたところで嘲笑ってやろうと……思っていたのに君は最後まで釣られることはなかったよ。釣りエサに興味が無ければそりゃあ当然のことだったけど。
そしてここからが私の訳の分からないところでして、君が本当に釣りエサにかからないと悟った結果、嫌悪から一転して君を気に入り、何故かその釣りエサをそれまで以上にぶんぶんに振り回しアピールして迫ったわけです。
君がユレイと放課後屋台のドーナツを買い食いして帰ったと聞けば私は放課後高級パティスリーを貸し切りにして財力アピールしたり、あまり誘いを断り続けると王家が黙ってないぞと権力アピールしたり、王子という身分を存分に振りかざしました。
今思えば本当に矛盾してますね。身分に釣られてほしいのかほしくないのかどっちだよという話です。
そういえば高級パティスリーを貸し切りにしたから一緒に帰ろうと誘った時、急な頭痛と腹痛と鈍痛と神経痛と成長痛が来たから這ってでも無理だと断られたよね……そんなパッと思いつく痛のつく単語全部挙げたみたいな……増やせばいいってもんじゃないよ。
いや、頭痛とか一つ程度だと『それくらいこれから行くところを見ればすぐ治るよ』なんて言ってた私が全面的に悪いことはわかってます。申し訳ありませんでした。
ただそれで断ったその日にユレイと魔動ローラースケート競争で帰ったのはやっぱり迂闊だったと思います。行きで負けたからってさすがに再戦はもうちょっと時間置いた方が良かったんじゃない?確かに私はもう帰った後だったけど、目撃者はいるんだよ……安全装置はついてるとかそんな話じゃなくてね。
まあそんな状態でも私の誘いより魔道具での勝負なら元気になるとは面白い女だと悦に入ってた私も人のことは言えませんが。
ふー……以上より、他の皆と比べるとちょっと短いですが、私の黒歴史発表会は終わります。傷を浅く済まそうというわけじゃありません、もう既に先鋒のスピーチでダメージは負ってますからね。そろそろ戦闘不能です。
まあ黒歴史ではあるものの、なんだかんだユレイもララリスも好き勝手やっていたように思う。
身分に囚われず、人の目も気にせず、魔道具の研究も実験も勝負も初恋も貫いた者同士、これからも存分に好きを貫いて行ってほしい。
結婚おめでとう、ララリス、ユレイ。
……ただし公道でのローラースケートの使用は禁止する法案は院に提出しました。自転車と違って競争になりやすいものなんでね、より危険が増すしその観点からするとどうしてもね。
こっちは今年から施行されてるからくれぐれも忘れるなよ!
❇︎❇︎❇︎
「ねぇ、アシュラフ王子の国へ旅行した時にはもう私のこと好きだったの?」
「さっきの妖精の祝福の話か?別に偶然だろあんなの。ちょっと冷却魔道具の調子が悪くなっただけだ」
司会による即興のスピーチにゲスト達が拍手を送る中、同じく拍手をしながら新婦ララリスがそっと新郎ユレイに話しかけた。
「そう……やっぱりその程度だったのね……ほんの一年前のダンスパーティでも仮病を使ってくるくらいだし……」
「あの時から好きでした!!!」
「ユレイ……!」
ヤケクソのように叫んだユレイにララリスが顔を輝かせる。負けず嫌いなユレイがここまで素直に降伏するのはとても珍しい。よっぽどエミィのスピーチによるあの裏事情の暴露が効いたようである。
「私の方がずっと先に好きになったと思ってたの。ユレイも案外負けてなかったのね、嬉しいわ」
「……それどころか俺の方が先かもしれないぞ」
「あら私の方が先よ」
「いや俺が先だ」
「絶対私の方が先よ、だって」
さっきまで誤魔化そうとしていた態度から一転、張り合ってきたユレイにララリスが得意げに答える。
「初めて会った時のことを覚えてるでしょう。私が先に貴方を見つけたんだから、先を越されるわけないわ!」
その答えにユレイは一瞬面食らったように目を見開き、やがて「そりゃあ敵わないな」と潔く負けを認めたのだった。
ご清聴ありがとうございました。
どうか温かい拍手と感想が貰えたら嬉しいです(*´∇`*)