第49話 転移お披露目
2019新年あけましておめでとうございます。
ちょうど切りよく4章開始です。
今年もお人よし冒険者を宜しくお願いします。
『黄金の翼』は、メンバー80人以上が所属する上級クランだ。
クランの目的はダンジョン攻略及び管理を行うことである。
ダンジョン攻略を行うには、どうしても人数が必要になる。
ダンジョンは発生してからの時間が経過するほど、広く深くなっていく。
ダンジョン核を中心にして広がるため、横への広がりはある程度で止まるのだが、それでも直線距離で100~200キロメートル程の広さになる。
そして下へ続く通路のようなものができて、下方向に深くなっていく。
この通路を目印として、上の層と下の層を管理するため、最初の層を1層、その次の層を2層と呼称する。
小規模ダンジョンは、8層以下の深さしかないダンジョンである。
中規模ダンジョンは、8~12層の深さのダンジョン。
大規模ダンジョンは、中規模以上の層を持つダンジョンである。
人数が必要な理由は、ダンジョン内の移動の大変さにある。
1層分の移動を1日としても、5層に到達するまで4日、そこからの帰還に4日かかるのだ。
単純な移動だけでも時間がかかるのに、魔物を警戒するならさらに時間を要する。
深い層に行くほど、魔物が強くなるため、要する時間はさらに長くなり、攻略難易度も高くなる。
通常のダンジョン攻略は、安全圏を徐々に広げていく方法で行われる。
攻略パーティーが未踏破の場所を探索し、安全が確保された時点で拠点を築く。
これを繰り返して、奥へと進んでいくのだが、確保した拠点を維持するにも人手が必要だ。
攻略パーティーもダンジョンに潜ったままでは、体力的にも精神的にも辛いので、交代要員が必要になる。
攻略するダンジョンが大きいほど、これらの人手を増やすことになる。
しかし、転移魔法が使える者がいると、事情が一気に変わる。
最大の問題であるダンジョン内の移動が、転移により一瞬で可能になるのだ。
地上のクラン拠点に転移陣を設置し、攻略で進んだ先に転移陣を設置すれば、その間をすぐに往復できるようになる。
ダンジョン内の転移陣が壊されないようにする必要はあるが、それさえ気を付ければ、交代要員などの人手は不要になり、戦力は状況に合わせて投入できるようになる。
これほどまでに転移魔法がダンジョン攻略に有効なのに、何故転移魔法を使わないのか。
その理由は、先にも述べた通り、転移が使える者は冒険者以外に安全に稼げる仕事がいくらでもあるからだ。
転移魔法はレアスキルで、使える人は少数しかいない。
エドモンダ侯爵様のところで、転移を使えるシルビアが秘匿されているように、貴族が召し抱えると表に出てくることも少ない。
俺のように転移が使えて冒険者になる人は、極少数と言ってもいいだろう。
そりゃあ採用されるよね。
俺がマックリンの立場だったら、三つ指ついて迎えた後、歓迎会まで開いちゃうかも。
今日は俺の転移のお披露目だ。
上手くいけば、現在攻略が進んでいるダンジョン内に、俺の転移陣を設置することになる。
「それじゃあ、わしの周りに集まってくれ。転移するぞい」
マックリンを先頭にぞろぞろと人が集まってきた。
……うおお、多い多いよ!
「おい、集まりすぎじゃ。半径2メートルといったじゃろ。こんなに一度に転移できんわい」
「わりい、みんな転移に興味があって、止められなくてな」
「試しなんじゃから、すぐそこへ飛ぶだけなのに」
10メートルほど手前に俺の転移陣が設置されている。
いつもの紙ではなく、石板に文字を刻み、魔力インクを流して作ったものだ。
8人ぐらいが俺のすぐ周りに集まり、これなら十分範囲内だ。
転移を発動する。
黒の魔力を胸の辺りに集中させ、放出用の透明な魔力を混ぜて放出。
続いて転移陣のイメージを頭に思い浮かべる。
一瞬の浮遊感の後、転移が完了する。
「「「「おお…」」」」
人が一瞬で移動する光景に、一同が感嘆の声を挙げる。
「チェスリー、転移魔法は確かに見させてもらった。給金のほうも弾ませてもらうぜ」
マックリンからお墨付きをもらった。
フフフ……給金より、きみのレアスキルを見せてもらうほうが楽しみだぞ。
そして10日後、ついにダンジョンの最前拠点に俺の転移陣が設置された。
転移を使うことを前提としたダンジョン攻略の開始だ。
今回の攻略パーティーは俺を含めて7人だ。
前衛にマックリン、ディアルフ、ライアリー。
中衛にバーナルド、俺。
後衛にリオノーラ、カリスリン。
マックリンは帯剣しているが、得意なのは格闘らしい。
スキルの効果が格闘に向いているのかもしれない。
ディアルフは、察知が得意で索敵担当だ。
短剣の扱いが上手く、身体能力も高いが、ちょっとお調子者なところがある。
ライアリーは【盾術】スキルがあり、体の全面が覆えるタワーシールドを装備している。
バーナルドは槍使いだ。
ライアリーと連携した戦いが得意だという。
リオノーラは【火魔法】を得意としており、風魔法との混合魔法を好んで使う。
カリスリンは、【聖魔法】の上級まで使える治療師で、護身用の杖術が得意らしい。
聖魔法も教会が独占しているので、あまり冒険者では見かけない貴重な存在だ。
レアスキルではないので、スキル持ちの人数はそれなりに多く、全員が教会に入るわけではない。
魔物に恨みがあるなどの理由で、冒険者になる人もいるだろう。
転移陣が設置されたのは、大規模ダンジョンの6層だった。
6層ではキラーラビットやコカトリスが出現するとのことだ。
キラーラビットは鋭い歯と耳についている鋭利な刃が武器で、跳躍して上から攻撃してくる魔物だ。
すばしっこいので、速度に翻弄されないよう注意が必要だ。
コカトリスは高く飛べないのだが、低く滑空してくるので注意が必要だ。
特に足の爪に石化毒があり、生身で触れると皮膚が石化する。
聖魔法で回復することができるので、石化した場合はカリスリンの出番だ。
俺も石化治療はできるので、いざとなれば手を貸すつもりだ。
俺はライトの魔法で灯りを担当することになった。
しばらく進むと、ディアルフが敵を察知したらしい。
「きましたよ~。たぶん6匹ぐらい」
警戒しながら進むと、察知通りキラーラビットが6匹現れた。
先制はリオノーラで、ファイヤーボールを2発連続で左右に放ち、敵の進路が直線になるよう誘導する。
そこへマックリンが突撃し、キラーラビットを素早く切り伏せる。
その後ろからライアリーが盾を構えて突撃し、キラーラビットの攻撃を受け止める。
攻撃が受け止められ、動きが止まったキラーラビットを、ライアリーの左側からバーナルドが槍で突き倒していく。
1匹が俺の方にすり抜けてきたが、剣で捌き切り裂いて倒す。
俺が1匹の相手をしている間に、マックリンが残りを片付けたみたいだ。
なるほど……。
それぞれがさすが上級クランに所属するだけの実力を持っている。
マックリンは圧倒的に素早く力強い。
レアスキルの効果もあるかもしれないが、武術の魔力補助を上手く使っているのだろう。
ディアルフの索敵も距離、質共に高いようだ。
ディアルフが敵を見つけてから、戦う場所を選ぶ余裕すらある。
レオノーラも敵を倒すためではなく、パーティーの高い攻撃力が活かせるように、妨害にファイヤーボールを使っていた。
ライアリーとバーナルドの連携も、単純だからこそ敵からすればやっかいだろう。
ライアリーが受け止めて耐える限り、後ろのバーナルドに一方的に攻撃されることになる。
その後コカトリス10匹ほどの集団と戦闘になったが、一方的な戦いだった。
滑空してくるコカトリスは、マックリンとバーナルドにとっては楽な相手のようだ。
向かってくるところを一撃必殺で倒していた。
その後も数度戦闘があったが、6層程度では、マックリン達にとって、ほとんど足止めにもならない。
7層へと下る通路まで、あっさり到達する。
「もう一ついっとくか?」
「いや、そろそろ夕食にしようぜ。この辺りに転移陣を埋めて戻ろう」
マックリンとバーナルドが方針を決めた。
俺は収納に入れておいた転移陣を埋め込み、地上の拠点への転移を行う。
「想定していたとはいえ、これはありがたい。探索後、クランで飯が食えてベッドで眠れるなんてよ」
「わっはっは、そうじゃろう。これを知ってしまったら、通常の攻略はできんわい」
マックリンの感想に俺が答える。
他のメンバーも同様に感じているようで、口々に便利さを語っていた。
「魔物もまだそれほど強くないし、これなら予備メンバーを連れていって鍛えるのもいいかもしれんな」
「そうだな~、危ない時は撤退できるなんて、保険がついてるようなものじゃん。」
「素材の運搬をしなくて済むのが助かるわ。新鮮なうちに持って帰れるしね」
「私何にもすることなかったんですけど……」
「まあまあ、私もちょっとしか出番なかったですわ」
ライアリー、ディアルフ、カリスリン、リオノーラの会話だ。
カリスリンは石化した時に治療するため同行したが、索敵が優秀で前衛が強すぎたので全く出番がなかった。
後で聞いた話だが、俺のために同行してくれたらしい。
確かに転移使いが石化して使い物にならなくなったら困るからね。
今回の探索を参考に、『黄金の翼』は攻略計画を見直すことにしたようだ。
移動や兵站確保の手間が省ける分を、速やかに攻略する方向へ向ける方針だ。
転移使いを攻略パーティーに同行させるかどうかも、問題の一つだった。
今回の探索で俺が身を守る程度の技量は持っていることを見せられたので、恐らく同行は了承されるだろう。
6層での戦いを見た感じ、このメンバーなら、強力な魔物が現れない限り順調に進みそうだ。
マックリンは、まだ本当の力を見せていない。
本番は強力な魔物が現れてからになりそうだ。
次回は「上級クランのスキル調査」でお会いしましょう。




