第43話 レアスキル修得
教会でジュリーナさんの治療を見せてもらってから、数日が経過した。
気にかかっている『暁の刃』の問題は、まだ進展していないようで、様子は見に行ったが事務所内は暗い雰囲気のままだった。
俺も一度マクナルへ戻り、エドモンダ伯爵様に報告したのだが、その件はこちらで処理すると言われただけだった。
やはり既に知っていたのだろうか?
『百錬自得』クラン拠点も、落ち着き始めたところだ。
メアリは正式にクランに加入し、少し狭い使用人部屋として使われる一室に引っ越ししてきた。
当初ケイトさん1人だけだった使用人は、新たに2人採用し、3人態勢になった。
住人5人に対して、使用人3人は過剰な気もするが、マーガレットがいるからな。
これでも遠慮ぎみだというのが、庶民からすれば驚きだ。
プリエルサ公爵様からの支援もあるらしく、金銭の心配はいらないとのこと。
このクラン、俺のスキル取得が目的なんだよな……。
過剰投資になりすぎてる様な気がしないでもない。
気後れしている場合ではないな。
頑張ってスキルを修得して、投資に見合う成果を出さなければ。
いくつか気になっていることがあるから、順番に片づけていこう。
1つはマーガレットのレアスキルのことだ。
【以心伝心】を使いこなしていることがわかったので、詳しい話を聞いてみることにした。
「【以心伝心】は、黙っていても相手に気持ちが伝わる、という意味ですわ。私が病気で動けなかったときは、せめてスキルの練習でもできないかしらと、いろいろ試していましたの」
「どんなことを試したんだい?」
「そうですわね...呼び鈴を鳴らさずにケイトが呼べないか使おうとしてみたり。窓辺にとまった小鳥に思いを伝えようとしてみたり」
「なるほど、言葉の意味から思念のようなものが伝えられるのでは?と思ったんだね」
「ええ、ですがどうやればそうなるのか、さっぱりでしたわ。考える時間だけはいっぱいありましたので、いろいろ試してましたの」
「その時は使えなかったのかい?」
「ええ……魔法を根を詰めて使おうとすると、魔斑病の症状がひどくなる時がありましたの。使えるようになったのは、チェスリーさんに治療していただいた後ですわ」
「そうだよな……魔班病は魔力の滞留が原因なんだ。症状を抑えるには、魔力を使わない方がいいからね」
「そうでしたのね……でも今なら遠慮なく魔法を使えますわ!」
「ははっ、それじゃ実際に【以心伝心】使ってみてくれるかい」
「はい!」
{チェスリーさん、聞こえますか?}
「ああ、聞こえる。ちょっと待ってね。魔力視の眼鏡をかけるから」
{どうでしょう?私の魔力ご覧になれてますか?}
「うん、見えてるよ」
{ちょっぴり恥ずかしいので……その……あまり変なところは見ないでくださいませ}
「了解、注意するよ」
やはり【以心伝心】も魔力が関連していた。
マーガレットからの思念のようなものが送られてくる時、シアン系の魔力色がマーガレットの頭に集中している。
その一部が放出された瞬間、俺の方にマーガレットの思念が伝わるようだ。
{これ一方通行なのかな。俺が思っていることは伝わらないの?}
魔力は使わず、単に頭で思ってみた。
マーガレットに何の反応もないので、伝わっていないようだ。
今度はマーガレットと同じように、魔力を制御し、伝えたいことを思い浮かべた後、一部を放出しようとてみた。
しかし、なかなか上手くいかない。
さすがにレアスキルはすぐに修得はできないということか。
これは練習が必要だな。
「うーん。何となく仕組みはわかったけど、すぐにはできないみたいだな」
「そうですか、でも私も使えるようになって日が浅いですから。いつでも練習に付き合いますわ!」
「ありがとう。今日はここまでにしておこう」
もう一つはジュリーナさんに見せてもらった、治療と診察の魔法だ。
治療のほうは、6種の魔力色を作る魔力制御を練習しているが、まだ修得はできていない。
2色までなら今までの慣れもあり制御できるのだが、6種の魔力色となると、ちゃんと制御しきれないのだ。
診察については、ジュリーナさんに聞いてみたいので、ヴェロニアとミリアンに相談してみた。
「ヴェロニア、ジュリーナさんに診察の魔法のこと聞いてみたいんだけど、教えてくれるかな?」
「うーん、どうだろ。ジュリーナ姉を連れて行った貴族が捕まった罪って、治療で違法に儲けようとしてたからよね。教会に知られなければいいかもしれないけど、ジュリーナ姉も嘘つけない人だからねえ」
「教会が独占しているし、他人に教える行為は咎められそうだよな」
「そうねえ。神への信仰だけじゃ食べていけないし、お金は必要だからね」
二人して迷っていると、ミリアンが助言をくれた。
「チェスリーさん、エドモンダ伯爵様にご相談してみてはどうでしょう。マクナルでは魔班病治療で教会との繋がりもできています。ジュリーナさんでなくても、そちらの伝手からお話がきけるかもしれません。魔班病は今まで治療の魔法で治せなかったので、技術提供はかなり感謝されているそうです」
「おお、なるほど。そういえば、最初はそっちの伝手で魔法を見学させてもらおうとしていたんだった」
ということで、この件は一旦保留。
既に治療行為はあちこちでやっているが、これ以上教会に目を付けられたくないしな。
あとはジェロビンとグレイスだ。
あれから一向に姿を現さない。
何が行われているのか、さっぱりわからないのが怖いところだ。
ジェロビンのことだから、慎重に動いているとは思うんだけど……。
この数日はほとんどクラン拠点内で過ごした。
【以心伝心】スキルと6種魔力の治療を、ひたすら練習している。
おかげで夜寝る頃には、すっかり魔力が枯渇してしまう。
しかし、練習の成果ははっきり表われてきた。
【以心伝心】は、短い言葉なら相手に伝えることに成功した。
転移と似た特徴があり、距離よりも伝える情報量が魔力量に関係していたのだ。
マーガレットは魔力量が多いので、長文でも伝えられるが、俺は10文字程度が限界だ。
6種魔力の治療は、ほぼ完全に使えるようになった。
実際に患者に試したわけではないが、同じ魔力が同じように流せれば、今までの例から問題ないはずだ。
これで通常の聖魔法も無事に使えるようになったわけだ。
修得も一段落ついてきたので、今日は久々にゆっくり休もうと、お茶を楽しんでいた。
ケイトさんの給仕で飲むお茶は、癒される感じがたまらない。
特に話をするわけでもなく、クラン拠点の中庭で涼しい風を感じながら、焼菓子をつまみ、美味い紅茶で口をさっぱりさせる。
俺がこんな貴族様みたいな過ごし方をするなんて、考えたこともなかったな。
以前なら、時間が空いたら薬草採取にでもいっていただろう。
ちょっと眠くなってきたな……。
「チェスリーさん!」
「おわっ!」
「あ~すいません。驚かしてしまいました」
「え……え?だれ……あーーグレイスじゃないか!」
「え、ええ。グレイスです。やっとこちらに顔を出せました」
「……ほんとにグレイス?」
「そうですよ?」
まじかよ。
雰囲気が変わりすぎて、誰だか分らなかったぞ。
それに眠りかけていたとはいえ、隣に来るまで全く気付かなかった。
【察知】にも全く反応しないなんて、どうなってるんだ。
「へっへっ、旦那ご無沙汰してやす」
「おお、ジェロビン。これは一体どうなってるんだ?」
「なあ~に、諜報の初歩ってやつをちょいと叩き込んだだけでやす」
ジェロビンにグレイスを預けてから、15日ぐらいしか経ってないよな……。
どんな叩き込み方をしたんだろ。
「【暗中飛躍】も開花しかけてやすぜ。まだまだ未熟でやすが、あっしでも思わず目を見張るような時がありやす」
「おお、凄いな。もうスキルを使いこなそうとしているのか」
「へい、レアスキルの意味が、バッチリ諜報に当てはまってたようでやすね。気配を消すだけなら、既にあっしより上でやすよ」
「ほ~。グレイスいいじゃないか」
「はい!これもチェスリーさんのおかげです」
「え?ジェロビンのおかげじゃないの?」
「へっへっ、そういう話はまた別でしやしょう。それより旦那のお耳に入れておきたいことがありやしてね」
「あ、ああ。何だい?」
「例のエセルマー侯爵でやすがね。余罪がいろいろありやしてねえ。資金の不正流用、高金利の金貸しによる強引な奴隷化、そこから違法な奴隷の扱いと麻薬でやすからね。取り立て専門のクランもあったようでやす。関連する商会も多く影響がでかすぎて、すぐに納まりそうもありやせんね」
「お、おう」
「今は王都の他の商会が沸き立ってやす。商売の抜けた穴の取り合いでやすね。これを上手く生かした商会は一気にでかくなるでやしょう」
「……その……クランのほうなんだが、『暁の刃』について何かしってるか?」
「もちろんでやす。犯罪奴隷を使ったダンジョン探索に絡んでることでやすね」
「ひょっとして『暁の刃』は今後どうなるかも知ってる?」
「へい。特に変わらないでやすよ」
「へ?」
「さっき言ったように問題がでかすきやして、『暁の刃』の件は小さくなりつつありやす。犯罪奴隷の扱いでも、酷すぎりゃあ罰はあったでやしょうが、伯爵様の指示で治療も行ってやす。それで実力のあるクランを潰しても、国としては損なだけでやす」
「あの治療はそのためでもあったのか!そうか……それで任せておけの一言だけだったのか」
「へっへ、伯爵様もやるもんでやしょ」
「まあとっくに、いろいろやられているんだがな」
「もう『暁の刃』に連絡してるはずでやす。旦那にも伝えておこうと思いやしてね」
どこか晴れなかった気分がすっきりした。
明日にでも早速、『暁の刃』を訪問してみよう。
次回は「アリステラのお迎え」でお会いしましょう。




