第42話 奇跡の治療
ささやかなブクマ100突破記念で、本日2話目の投稿です。
ここまでのお付き合い感謝しております。
物語はまだまだ続きますので、よろしくお願いします。
食事の後は、引っ越しの後始末をしないとな。
私室は3階にある部屋のどれかを使えばいいとのこと。
……ここ何部屋あるんだ……5部屋は私室に使えそうな感じかな。
部屋を物色しているとヴェロニアが話しかけてきた。
「チェスリー、本当にここに住んでいいの?」
「そんなの俺が聞きたいぐらいなんだが」
「遠慮は無用ですわ。お好きな部屋を選んでくださいね」
「マーガレットは本当にここ住むの?プリエルサ公爵様のお屋敷からそれほど離れていないようだけど」
「ええ、通うよりもご一緒にさせていただきたいですわ。例えマクナルが拠点だとしてもご一緒するつもりでしたの」
「は、はあ。それならいいのかな……?」
「ケイトは私専属のメイドですので、いっしょに異動になりましたわ。今後ともよろしくですわ」
「そうですか!それは嬉しいな」
その様子を見ていたヴェロニアとミリアンがこっそりつぶやいていた。
「あいつ本当に嬉しそうね。ああいうお姉さまな雰囲気が好きなのかしら」
「ええ、癒される雰囲気が好みかもしれませんね。チェスリーさんは他人に甘いですから、自分を甘えさせてくれる人がいいのかも」
……とりあえず聞き流すことにして、荷物の整理を済ませよう。
部屋は広いので、今までの荷物すぐに納まった。
メアリがいつの間にか部屋に居座っていたので、追い出してっと。
『暁の刃』の件は、エドモンダ伯爵様にも話さなければならないだろう。
いや、既に知っているかもしれないな……。
その上で支援しようとしているのなら、まだ希望はあるかもしれない。
明日は教会でジュリーナさんと会う約束だ。
本物の奇跡の治療を見られるまたとない機会である。
滅多に見られないと言われたし、気を抜くわけにはいかない。
翌日。
王都の教会へ、俺、ミリアン、ヴェロニアの3人で訪れる。
神様はメタトロンと呼称されており、人にスキルを与える神として信仰されている。
特に聖魔法は神聖なものであるとされ、教会で能力鑑定を行った際に、【聖魔法】が与えられたとわかった人は、例外なく教会に勧誘される。
【能力鑑定】も、聖魔法と同様に神の声を聴くものとして、教会に勧誘されるという。
スキルという、わかりやすい恩恵があるので、神様を信仰する人は多い。
治療や能力鑑定によるお布施や、国からの支援による寄付もあるので、経済状態は良好だ。
勧誘されたものは、そのまま教会入りを決めることが多い。
従って、この2つのスキルを、教会関係以外で探すことは難しいのだ。
教会の待合室で待っていると、ジュリーナさんが入ってきた。
「あらあら、ヴェロニアじゃない。お久しぶりね」
「ジュリーナ姉!お久しぶり」
「懐かしいわねえ。ちゃんとポーション作ってる?変な魔道具いじりはもうやめたの?」
「ん~、最近は変な魔道具のほうばかり作ってる」
「あらあら、ヴェロニアらしいわね。いい人は見つかったのかしら?」
「べ、別にいらないし」
「あら、ふ~ん。そういうことね」
「それよりジュリーナ姉は、何で教会にいるの?貴族に連れていかれたよね」
「あらそうね。あの人捕まっちゃったの。私を使って治療でお金儲けしようとして」
「何やってんのその人。教会に目をつけられるに決まってるじゃない」
「あらあら、そのとおりね。それで結局教会に入ることになっちゃったのよね」
「ジュリーナ姉は相変わらずふわっとしてるわねえ。ここの暮らしは大丈夫なの?」
「そうねえ。マクナルにいた時みたいに自由に治療できないのが不便ね。お金はいっぱい貰えるけど、使う暇もないのよ」
「そっか、どうしても抜けたかったら相談してね。そうじゃなくてもまた話したいし」
「あら嬉しい。今は王都にいるの?外出するぐらいはできるのよ」
「王都に引っ越してきたから、いつでも会えるわ。それじゃこのへんで肝心な用件を済ませましょ」
「あらあら、そうですね。こちらご紹介くださるかしら?」
「こっちがチェスリー、こちらがミリアン、同じ職場の仲間ってとこかな」
「あらまあ、よろしくね。患者さんが待ってますので、始めましょう」
ジュリーナさんについていくと、治療室に10人ほどの患者が寝ていた。
「では~ご覧ください。今から始めますね」
俺は魔力視の眼鏡をかけた。
治療の魔法の神髄を見せていただきましょう。
患者は犯罪奴隷の1人で、薬物中毒になっている。
傷を治す治療の魔法は、ヒールと呼ばれているが、このような症状にも効くのだろうか?
ジュリーナさんが患者に触れ、魔力を流していく。
これは……白の魔力だ。
いや、白の魔力だけではない。
白の次に、青系の魔力が流れている。
この青はヒールの魔力によく似ている。
ん?さらに茶系、そして薄い赤系、濃い橙、続いて黒。
6種類もの魔力が次々と生み出され、患者に流れていく。
患者の様子を見ると、苦しんでいた顔が和らいでいた。
顔色もよくなっているようだ。
ジュリーナさん自身の魔力も素晴らしいな。
濃密で光沢のある白い魔力が、循環している。
これが奇跡の治療か……。
ポコッ!
誰かに頭をポコられた。
……ヴェロニアだ。
俺に近づき、こっそり耳打ちしてきた。
「あまりじろじろ見るんじゃないわよ」
「いや俺はあくまで純粋に勉強としてだな」
「ほっほう。あんたの視線が胸の辺りでちょくちょく止まってるのはお見通しなのよ」
「いやだなあ。真剣に学ぼうとする視線を勘違いするなんて」
「ふんっ、この場は引いてあげるわ。ミリアンと一緒に監視してるから気を抜くんじゃないわよ」
「はいはい」
ジュリーナさんは次々に治療を終わらせていく。
人によって流す魔力の種類が少ない場合もあるな。
症状に合わせて治療のパターンを変えているのだろうか。
これは経験がないとできそうにない。
む……治療を始める前に、何かの魔法を使っている。
ひょっとしてこの魔法で症状を確認しているのか!?
……目にほとんど白に近い薄いグレーのような魔力を集中させている。
これは後で試してみないと……。
10人全員の治療が終わった。
患者の容体は完全に回復しているように見える。
患者の中には、深い傷を負ったものも含まれていたが、それも完全に治っていた。
「あらあら、ぼんやりしちゃって。治療は終わりよ。見学はどうだったかしら?」
「素晴らしい治療でした。見学させていただき、ありがとうございました」
「あらまあ、いい表情ね。お見せしたかいがありました。ここで長話はできないので、またヴェロニアといっしょに会いましょう」
「はい、またお会いできることを楽しみにしています」
ヴェロニア、ミリアンもジュリーナさんにお礼をして、教会を後にする。
クラン拠点への帰る最中、俺はジュリーナさんが使っていた治療を始める前の魔法が気になっていた。
俺にも使えるのだろうか。
気になることは試してしまおう。
えっと、魔力を……白に近いグレーにして、目に集中。
これでヴェロニアを見てみる……。
えええ、これって魔力視と同じ効果なのか!?
いや……違う、魔力視の頭巾で視た時とは色も違うし、似たような循環も見えるが、体の線は見えない。
……そうか血液の循環が見えてるのかな。
それに骨や内臓みたいなものも、うっすら見えてるようだ。
この診察の魔法で人間の体内の様子を見て、症状を見極めていたのだろう。
今度ジュリーナさんに会ったら、症状の判断方法とかを聞いてみたいけど、下手に聞くとスキルを修得したこともバレちゃうしなあ。
これもみんなに相談してから、どうするか決めたほうがよさそうだ。
ヴェロニアは……今健康だから異常がわからないのかな。
どこか異常に見える様なところはないだろうか……。
いつの間にか夢中でヴェロニアを診察しまくっていた。
ボコッ!
いてえええええええ、頭思いっきり叩かれた。
「チェスりー!また何かやってるでしょ!」
「ぐ……すまん、つい気になってな」
「何がよ!?あたしのお腹の辺りじっと見て、まさか太ったとか言わないわよね」
「ああ、それは別の意味で気になってたが」
「何をおおお!ほんと怒るわよ!」
「まあまあ、黙ってやってしまったのはすまん。ジュリーナさんが治療前にやっていた魔法が気になってな。今試してたんだ」
そういうと、ヴェロニアはガバっと両手で胸を抱くように隠し、しゃがみこんだ。
「チェスりー、あんた見たわね」
「うん、見たよ」
「はあああああ?何開き直ってんのさ。信じらんない!」
「いやいや、診察として見たってだけで、その……何ていうか中身が見えたというか」
バッチーンッ!!
「さいてーーーー!何よ中身って。魔力視の眼鏡より酷いじゃない!」
「落ち着けーー!ああもう、上手く説明するのが難しい」
「ヴェロニアさん、チェスリーさんも落ち着いてください。ちゃんと話しましょう」
二人して興奮状態になりつつあるのを、ミリアンが窘めてくれた。
「チェスリーさんもいけませんよ。説明してから始めてくださいね」
「面目ない」
「それで?どこまで見ちゃったんですか。事と次第によっては、私も覚悟を決める必要があります」
「え?み、ミリアン?」
「ええい、もういっそ私も見てください。それでこの問題は解決します」
「いったいミリアンは何を言ってるのかね」
「ありゃ、ミリアンが少し壊れちゃってるわね。あんたのせいよ」
「うぅ、反省する」
その後、診察の魔法について説明し、事なきを得た。
気心が知れているとはいえ、女性をじろじろ見るのは不味いよね。
次はグレイスで試してみることにしよう。
次回は「レアスキル修得」でお会いしましょう。




