身内の敵味方
「だろうな」
リクヤが応じる。俺たちが散々議論と推論を重ねた答案は見事満点だった訳だ。
「…だが、従うわけにはいかん」
向こうも断られることは予測できていたのだろうが、心底意外なふうを装って片眉を上げて見せた。
「あれぇ?誰も私達の下に入れなんて言ってないでしょ?」
気味の悪い声が俺たちの耳を撫でる。
「と言うか、見てるものは同じだと思ったんけどなぁ」
「そりゃそうだ。同じところに立って同じ方向を見ていりゃ風景は一緒だ」
リクヤがはぐらかす。
「…やけに喧嘩腰ねぇ。優しくしてあげてんのよ。今のうちに首を縦に振りなさい」
すぅ、と元々細い目がさらに細められて僅かに覗く瞳が鋭い光を宿す。
「冗談じゃねぇ。最初に言ったはずだぜ、嫌だってな。殺されてねえだけ感謝しな」
イツカが前傾姿勢で突っかかって来たのを契機に、リクヤも喰いつく。
「じゃあ質問させてもらうわ。ルーナは勝てるの?」
「質問の意味がわかんねぇな。兵士がそれを言ったらお終いだろう。逆にガロウにつく利点が見当たらない」
イツカの核心を撫でる質問だが、返ってきたのは全く違う言葉だった。
「…いい?この国はどう足掻いても勝てないわ。この下り坂の異常事態に貴方達はなにに忠を尽くして、何を信じるの?」
俺はふと考えさせられた。なにに忠を尽くすのか。何を信じて戦うのか。
「アタシがガロウについたのは、ガロウに未来を見たからじゃない。自分に忠を尽くしたからよ。この事態に信じられるのは自分自身だけ」
「…随分さみしいな」
リクヤが捻り出した皮肉は、笑い飛ばされた。
「アハハハハ、それで?あなたは何を信じるの?」
「俺たちは俺たちを信じる。この国が好きだという気持ちが根底にあることを信じる」
総意一致。誰も異論を挟まない。
「…そう」
イツカの顔から笑みが消えた。
背筋がゾッとした。
いけない。あれは恐ろしい表情だ。
「あなたにはまた会えそうね。ルーナ最強の戦士イアン君」
こっちから願い下げじゃ‼︎
「こっちにもこっちの事情があってね。この事を知られて帰ってもらうわけにはいかないの。だから-」
イツカが右手を上げると廃墟の中からぞろぞろとルーナ軍人が出てきた。50人は下らないだろう。
「…なんでこんなに」
隣のアテネが呟いた。同感だ。
「行け!」
耳に馴染んだリクヤの声。
「俺が何とかする」
無理だ。
「アンタのスコアはイマイチだろう」
同じ事を感じ取ったリタが言う。そうだ。この人は根っからの指揮官だ。
「俺も残る」
はあ!?
「ふざけるな。俺の後はお前しかいねえ」
リクヤが反論になっていない反論をする。
「俺の最期の命令だ」
こちらに背を向けたまま、そう言った。
「…待ってる」
最初にクレルが走り出した。
「俺は隊長なんかなんねえからな」
次いでリタが走り出した。
「ごめんなさい、隊長」
リタを追うようにアテネも走った。
俺がリクヤの後ろに一人残った。
「お前は行かねえのか?」
「俺の命はアンタに預けたはずだぜ」
そう言って、ふた振りの剣を抜く。それを見たイツカが、
「あ、そーだ。その剣はね、ガロウの技術で作られたのよ。ガロウに繋がった政府の偉い人が作ったのよ。なんて名前だったな…たしか-」
言い切る前に俺はリクヤを残して走っていた。
そんな馬鹿な。
裏切り者がこんなに自分に近いところにいたなんて。
だとすれば、ヒエラは-。