表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学園の救世主  作者: 暇な蟻さん
日常編
9/15

第七話

 ──改造?


 

 未来の兄は語り始める。


 「一年前、俺は一人で特訓していたんだ。その時、赤いコートに身を包んだ集団が現れた。俺は必死で戦った、でも実力差がありすぎた。

 俺は何も出来ずに倒されて、改造されたんだ。その後の記憶はなくて、気がついたらお前達を襲っていた。」


 話を聞いた限り、今まで襲った人たちの記憶はないってことだな。

 それでも【火】属性の人だけを狙ったのは無意識に妹をさがしていたのか、それともこの人を改造した奴らの狙いが【火】属性の人なのか…

 

 「とりあえず医務室へ行こう」


 そう提案する。が、


 「ダメだ。俺はもう少しで破壊衝動に襲われる。そうなる前に…殺してくれ。」


 破壊衝動だと!?

 自分達で勝手に改造して、都合の悪い存在になったら消す。そういうことか…

 どちらにせよ、許されることではないな。


 「そんな…、きっと何か方法があるはずだよ!」


 未来が言う。

 その時、雫が俺に言ってくる


 「零さんの力で改造される前の時間まで戻すことは出来ないのでしょうか?」


 時間操作のことか、一応力の説明はしておいたが


 「無理だ、最高でも一週間までしか時間は戻せない。未来の兄が改造されたのは一年前、絶対的に足らない。」


 そうだ、俺の魔力を全て使っても一週間しか時間は戻せない。時間を操るというのは本来してはいけないことなんだ。

 

 「そうですか…」


 雫は落ち込んでしまう。

 突然、別の方向から声がかけられる。


 「そこにいる男、名前は?」


 未来の兄だった。


 「皇 零華だ」


 名前だけを告げると続けて言ってくる。


 「こんなことを頼んではいけないと思うが、頼む…俺を殺してくれ。」


 予想はしていた。自分の妹にはそんなことをして欲しくないだろう。

 未来は拒否するように訴えるが、


 「…わかった」


 俺は頼みを聞き入れる。俺は男に向かって歩き出す。

 未来が兄をかばうように俺の前に立つ。


 「未来、頼む、俺のわがままを聞いてくれないか?」


 未来の兄は優しい声で未来に語りかける。

 未来はもうどうすればいいかわからないようで、その場にへたり込む。

 俺は未来の肩に一度手を置いた後、もう一度歩き出す。


 「悪いな、こんなことを頼んで」


 未来の兄は笑いながら言う。どうしてこんなに笑えるのか、俺にはわからなかった。


 「まったくだ。でも、実の妹にはこんなこと頼めないよな。」


 俺も努めて余裕そうに話す。


 「ああ、それに妹の声で意識を戻せたことが、嬉しいんだ。だからもう…俺は俺のままで死にたい」


 その覚悟を踏みにじる訳にはいかないな。


 「あんた、名前は?」


 「名前?柊…柊 翔太(ひいらぎ しょうた)だ。」


 「翔太さん、俺はあんたを忘れない。あんたも俺を忘れないでくれ、自分を殺した者の名前だ」


 翔太さんは驚いた顔をするが、俺の目を見て、


 「…ああ、わかったよ。」


 そう言ってくれる。


 「忘れない…おやすみ」


 俺は魔法を発動する。



 -【空】魔法-

 Dimensionディメンション Endエンド



 空間の終わり、心臓だけを指定した。翔太さんは何が起こっているかわからずに死ぬだろう。

 

 「…未来を、頼む……零…」


 それが最後の言葉だった。


 「…お兄ちゃんっ!」


 未来が駆け寄る。そして、翔太さんの胸の中で泣き続ける。

 俺は優奈と雫に未来を任せ、その場から離れた。俺にはいる資格がないと思ったから。



 その日から俺は寮に帰らなくなった。学校もサボり、町を適当にうろつく。

 そうして意味もなくうろついていると山の上の小さな丘にたどりつく。最近見つけた場所だ。

 町を見渡すことができて、ここにいると少しだけ心が安らぐ。時刻は夕方になり、夕日が町を赤く照らしている。

 自分でもどうしようもないクズだと思うが、俺は逃げているだけだ。人を…友達の家族を殺した現実から。

 だから、未来がここに来たとき、俺は心臓が止まりそうだった。


 「零…さん?」


 「未来…、どうして…ここに?」


 俺は逃げ出したかった。けれど未来は穏やかな顔で話し出す。


 「ここは私の大切な場所なんです。兄とよく一緒に来ました」


 ‘兄’、その言葉を聞くだけで胸が苦しくなる。


 「ありがとうございます。兄の頼みを聞いてくれて」


 「え…?」


 未来が言った言葉に俺は驚く。


 「赦してくれるのか?俺を…」


 「赦すもなにも、零さんは赦されなきゃいけないようなことしてませんよ。もし許してもらうことがあるとすれば、私達のところから勝手にいなくなったことです。」


 気づくと俺は涙を流していた。


 「泣かないでください、私も…泣いちゃいますよ。」


 目に涙をためながら、未来は言ってくる。


 「でも一つだけお願いです。私の兄を…翔太を忘れないでくれませんか?」


 言われるまでもないと俺は頷く。


 「…ありがとうございます。帰りましょう、みんな待ってますよ。」


 まだ涙は残っていたが、それでも精一杯の笑顔で言ってくれる。


 「…ああ」


 俺と未来は一緒に寮に帰った。



 寮に帰ると、みんなに散々小言を言われたが、嫌な気分ではなかった。


  



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ