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乱世を駆け 夢想を描く  作者: 飛龍


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1話

天文23年(1554年)

夏の暑い日差しが尾張国清須城下の屋敷に降り注ぐ、庭の木々は緑鮮やかに生い茂る。縁側に座る2人、彼らは夏を感じながら和歌を読む。

『陽の光 

照らせばこそな

草の上

露の珠さえ

夏の雫かな』


「流石父上見事に夏を表現していますね」


和歌を詠んだ壮年の男は尾張守護斯波家に仕える、梶浦伊予守義勝、彼の和歌を褒める若者は息子の梶浦次郎義貞。


義勝は微笑みを浮かべ、息子の方に向く。

「和歌というのは、ただ言葉を並べるのではなくあらゆることを感じ、言葉に変える、そうすれば自然と豊かな表現が生まれるのだ」 


義貞は父の言葉に頷きながらも返事をする。

「なるほど、やはり和歌は奥深いですね。元服する前から父上や兄上から教わって来ましたが、やはり中々掴めないです」


義勝は微笑みに苦笑いを混ぜながら返す。

「まぁ、正直わしもお主と同じぐらいの歳だった頃は、わかっていなかったが時の流れとともに身についてきたものだ、お主もそのうちわかってくる。ただお主の兄、義高は例外じゃが」


「確かに兄上は昔から和歌に関してずば抜けた才を持っていましたからね」


「あやつは当家どころか尾張随一の歌人と言っても過言でない。以前、御屋形様主催の連歌会に都からいらっしゃった飛鳥井卿からも同じように言われておったからの」


義貞はその場面を思い出し、苦笑いを浮かべる

「対する私は、まだまだと言われてしまいましたからね」


「確かにお主は和歌に関しては未熟だが、武芸に関しては尾張中で指折りだからの、対して義高は武芸は良く言って可もなく不可もないからの、ここまで対照的な兄弟も珍しいわ」


義貞は父の言葉に応えながら、心の中で自分 と兄の違いを感じていた。武芸において自信 を持つ義貞ではあったが、和歌に関してはま だ兄に及ばないことが悔やまれた。しかし、 父の励ましが心を暖かくし、前向きに考える 手助けとなった。


「父上のおかげで、私は武芸を学ぶことができました。この力を一族繁栄のため、使っていきます。」義貞は自信に満ちた目で言葉を続けた。


「その意気だ次郎、この乱世で生き抜くための糧になるだろう。だが和歌も武士には必要な教養じゃ、けして怠るな」


義勝がそう言うと、義貞は頷きしっかりと決意を持った。 


その時屋敷の外から聞き慣れた声が響く。

「次郎!迎えに来たぞ、稽古の時間じゃ」

迎えに彼らは梶浦家同様に斯波家に仕える家臣子弟たちである。

義貞はその声に応じすぐに準備をして向かう。


義貞は父義勝を向き


「父上行ってまいります」


「行ってこい、戦も近いかもしれん。決して稽古で手を抜くでないぞ!」


「はい、父上!」 義貞は一礼し、庭をあとにして仲間たちと稽古場へ向かった。


稽古場では先に着いた者たちが、槍を持ち稽古を始めていた。義貞も槍を持ち稽古に加わる。


稽古場では基本的に実戦を想定して行われる。

木の槍がぶつかり合う音、お互いに指導し合う仲間たちの声が混じり合う。


突然城から使いの者がやってきた。そして稽古場にいる者たちに向かって


「皆の者、御屋形様より今から城内来るようにとの、御達しだ。速やかに準備をおこない参上されたい」 


使いの者はそう言うと先に城に戻った。

清須城からの招集を受け仲間たちは

「戦かもしれんな」


「いや、それにしては落ち着き過ぎている。急な上洛のお供かもしれんぞ」


と招集の理由を予想しながら急いで準備し、城に向かう。義貞は仲間たちとともに急いで城へ向かう途 中、心の中で次々と想像が膨らむ。


「次郎、何の話だと思う」

仲間の一人が尋ねてきた。


「さしずめ、若君の狩りお供ではないか?ほら周りを見てみろほとんどが若手しか呼ばれていない、戦であったらもっと大人数、そして大人衆が呼ばれる」


「確かにそれもそうだな」と仲間は納得していた。


そうこうしている内に斯波家の居城である清須城に到着した。

貞義たち一行は門を潜り、尾張守護 斯波義統が住む御殿に進む。そこで少し待たされた後に斯波義統がやってきた、一同は頭を下げる。


「面を上げよ」


一斉に頭を上げる。

そして義統自ら話を始めた。

「お主たちに来てもらったわけは他でもない、息子義銀の狩りのお供をしてもらいたい。」


義貞は心の中でやはりと思いながら義統話を聞き続ける。


「義銀のお供に者が今日に限って余り居なくての、そこでお主たち、腕に覚えのある若手たちを集めたというわけじゃ。という事で頼むぞ」


「「「はっ!」」」


そうして義貞たち一同御殿を後にし、速やかに準備を始めた。

各々が荷物をまとめ、槍や刀並びに弓矢確認をし、装備を整える。

準備が整うと、義貞は仲間たちに声をかけた。

「皆、このお役目を果たすため、しっかり協 力し合おう! 」


「「「おう!」」」


義貞はお供の代表して義銀の元に向かう


「若、準備が整いました。いつでも出発できます。」


「うむ、承知した。今から出発する」


「はっ!」


義銀一行、約30名が清須城を出発した。義貞は緊張と使命感が高まっていた。狩りのお供というのは主君などに顔を覚えてもらう瞬間でもあるからだ。また狩りは危険が伴うためもあった。


一行が狩場に向かっている途中、義貞はふと疑問が出てくる。

(なぜ、今日に限って織田大和守家の人間が一人も居ないんだ?普段は必ず大和守家が中心となるのに。それだけではなく、大人衆もいつもより少ない。)


尾張守護代である織田大和守家は普段の狩りでは主となって準備と進行を行うのだが、今回は一切人を出していない。これまでこのような事は戦がある時以外なかった。大和守家以外の大人衆が少ないのも珍しい事だった。


(狩りに若手を連れて行くのはよくあるが、若手がほとんどなのが、どうも引っ掛かる。近頃戦があるとも聞いたことがない。尾張で戦が起きるとしても大和守家と弾正忠家だろうが、2年前に大和守家が敗れて以来戦にはなっていない。あれ以来大和守家は戦を起こす力を失ったと聞くが…)


2年前の天文21年に尾張守護代の織田大和守家は急速に勢力を伸ばす分家である織田弾正忠家の先代当主織田信秀と幾度も抗争と和睦を繰り返し、その過程で大和守家は徐々に力を失った。だが信秀が死亡して、その跡を継いだのが、うつけと評判の織田信長であったため、好機とみた大和守家は弾正忠家を攻めるが撃退され、甚大な被害受けた後和睦した。


義貞の疑問は尽きないが一行は歩みを止めず進んでいく。だがそこに肩に矢を受け頭からも血を流す男が息を大きく切らしながらやってきて


「大和守家謀反!御屋形様お討ち死にでございます!」





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