第五話 おばあちゃんのなぞと、二人のヒミツ!
「ええええーーーっ! 二人とも日本人だったの!?」
お部屋の中が全員日本人だとわかって、私の頭の上のハテナマークが、やっと半分くらい吹き飛んだよ。でもね、まだまだ気になることがあったの。私は思い切って、ずっと気になっていたことを聞いてみることにしたんだ。
「あの、シャルロット様! さっきからアイちゃんが、シャルロット様のことを『おばあちゃん』って呼んでるの、どうしてなんですか……?」
だって、目の前にいるシャルロット様は、私と同じ16歳くらいの超絶美少女なんだよ? おばあちゃんなわけないじゃん!
すると、シャルロット様はウフフと上品に笑って、あっさりと教えてくれたの。
「まぁ、そのことですのね。実は私、日本にいた頃は、92歳まで生きて大往生したのですわ。それで、亡くなったあとに、この世界のシャルロットとして生まれ変わったのですのよ」
「えっ、きゅ、きゅうじゅうにさい……!?」
おばあちゃん、どころか、ひいおばあちゃんくらいの年齢じゃーーん!
だからあんなに落ち着いていて、聖母様みたいに優しいんだね。このおうちが畳の日本家屋なのも、92年間お布団と畳の生活をしてきたシャルロット様にとって、いっちばん落ち着くからなんだって!納得!
すると、隣にすわっていたアイちゃんが、にへっと笑いながら自分のことを話し始めたの。
「私はね、モカちゃんと同じ高校2年生の時に、不幸な事故に遭っちゃってさー。気づいたらこの世界のアイリスに生まれ変わってたんだよね。だから中身の年齢も、モカちゃんと同じくらいだよ!」
「アイちゃん、高2だったんだ……。大変だったんだね……」
そっかぁ。私は学校帰りに、ちょっとノリの軽い女神様に生きたままこの世界に連れてこられただけだけど、この二人は一度日本で死んじゃって、この世界で二度目の人生をしっかり過ごしてきたんだ。
そう考えると、なんだかすごいなぁって思ったの。
二人とも、前の世界の悲しいことや大変なことを乗り越えて、この世界で一生懸命に生きているんだもん。もう隠し事なんて、これっぽっちもしたくない!
「よし! じゃあ、次は私の番だね! 実はね、私も二人に黙っていた秘密があるんだ!」
私は胸をドンと叩いて、二人の目をまっすぐ見つめたの。
「私はね、学校の帰りに女神様にこの世界に連れてこられた時に、お詫びとして、すっごいチートスキルをもらったの! 私のスキルは『ジャングル市場』って言うんだ! なんと、心の中で念じるだけで、地球のあの大手通販サイトの『ジャングル』と繋がって、買い物ができちゃうんだよー!」
「えええええええっ!? ジャ、ジャングルって、あの何でも届くジャングル!?」
アイちゃんがお口をあんぐり開けて、今日一番のびっくり顔になったよ!
でも、正面にすわっているシャルロット様だけは、上品にお首をかしげて不思議そうにしているの。
「まぁ、じゃんぐる……? それは一体何のことかしら? 私が日本にいた頃には、そんな名前の市場は聞いたことがありませんわ」
「あ、そっか! おばあちゃんはジャングルをしらないかな?」
アイちゃんが身を乗り出して、シャルロット様に向かって手振りをまじえながら説明を始めたの。
「おばあちゃん、ジャングルっていうのはね、今のお洋服も、お菓子も、お布団も、ネットでポチッとするだけで、次の日にはおうちに荷物が届いちゃう、すっごく便利なネットのお買い物サイトのことなんだよ!」
「おやおや、そうなのですか。ボタンひとつで何でもおうちへ届くなんて、まるで魔法のようですわねぇ。今の日本は、そんなに便利になっていましたのね」
シャルロット様はぽんっと手を叩いて、すっごく感心したように目を細めていたよ。さすが人生の大先輩、新しいことにもびっくりしないで優しく受け入れてくれるんだなぁ。
「そうなの! しかもね、女神様のよくわからない神パワーのおかげで、この世界のお金をチャリンと入れるだけで、勝手に計算して決済してくれるんだよ。だから、日本の食べ物も、お菓子も、便利グッズも、何でも段ボール箱でポフッと空から届いちゃうの!」
「すごすぎるーーーっ! 最高のチートじゃん! 何でもお取り寄せできるなんて、まじで神スキルだよ!」
アイちゃんが大興奮でパチパチ拍手してくれて、私は胸を張ってえっへん! って自慢しちゃった。
だけど、正面にすわっているシャルロット様だけは、アイちゃんみたいに大はしゃぎしなかったの。シャルロット様は氷藍色のおめめを少しだけ細めて、真剣なお顔で私を見つめたんだ。
「……モカちゃん、その『じゃんぐる市場』という能力、確かにすっごく便利ですわ。でも、同時に、非常に危うい能力でもありますわね」
「へ? あ、あやうい……?」
「モカちゃん、よく考えてごらんなさい。この世界にはない便利な道具や、見たこともない美味しい食べ物が、どこからともなくポンポンと現れるのですのよ? もしそれを悪い貴族や、欲張りな商人たちに知られてしまったら、どうなるかしら?」
「あ…………」
言われてみて、私は背中がヒヤッとしちゃった。もし悪いやつらに見つかったら、お部屋の端っこでのんびり生きてきた私には、怖すぎて絶対に耐えられないよー!
「それに、この世界の品物とは比べものにならないほど安くて良いものが大量に手に入るとなれば、この世界の商売がめちゃくちゃになってしまいますわ。だからモカちゃん、その能力は、本当に信頼できる人の前以外では、絶対に秘密にしなければいけませんのよ?」
「う、うん……! わかった、シャルロット様、私、絶対に誰にも言わない!」
私がコクコクと激しく首を縦に振ると、シャルロット様は少し考えるようなお顔をして、さらに聞いてきたの。
「ちなみにモカちゃん。その能力のこと、この世界でほかに誰か知っている人はいますの?」
「え、ええっと……知ってるのは外にいるフェルくんだけだよ! フェルくんはこの世界にきて最初に会ったから、段ボールが降ってくるところも全部見てるの」
「フェル様だけですのね。人間の知り合いには、まだ誰にもお話ししていなくて?」
「うん! 誰にも言ってないよ! この世界にきてからまだそれほど時間がたってないし、ずっと森の中でフェルくんと旅をしてたから、運よく誰にも話してないんだ」
私の言葉を聞いて、シャルロット様は胸に手を当てて、ホッとしたように長いため息をついたの。
「まぁ、それは本当に良かったわ。まだ誰にも知られていないのでしたら、今から気をつければ十分に間に合いますものね」
隣にすわっていたアイちゃんも、「そっかぁ、まじでセーフだったね!」って言いながら、にこにこ笑顔に戻っていたよ。
「ふふ、でも安心してくださいな。このエデン村にいる間は、私たちがあなたを全力でお守りしますわ。……それに、その素晴らしい能力、せっかくですから、私たちの楽しいスローライフのために、内緒でちょっとだけ使わせていただきましょうね?」
シャルロット様の優しくて頼もしい言葉を聞いて、私のドキドキしていた心は、また一気にハッピーに戻っちゃった。おばあちゃん、優しくて賢くて、まじでかっこよすぎるよー!




