第三話 お姫様のおうちは……まさかの日本!?
「すごいよ! こんなに大きくておしゃべりできる狼さん、絶対おばあちゃんにも見せてあげなきゃ! 一緒に行こう!案内してあげるね!」
「えっ、あ、うん……ありがと」
アイリスちゃんは私の手をぎゅって引っ張って、おうちがいっぱい集まっている方へ向かってズンズン歩き出しちゃった。うう、やっぱり陽キャのパワーってすごいなぁ。
フェルくんと私はアイリスちゃんについていくことにしたの。
村の中心の方へ進んでいくと、どんどん人が多くなってきたんだよね。
「…………」
案内のアイリスちゃんは、鼻歌をふんふ〜ん♪って歌いながら、ちっとも周りを気にしていないみたい。だけど、周りの村の人たちは……全然そんなことなかったの!
「おい、見ろよ……なんだあの大きくて白いオオカミ……」
「ひぇっ! もしかして魔物かい!?」
すれ違う村の人たちが、みんな足を止めて、私たちのことをジロジロ見てくるんだよー!お口をぽかんと開けて驚いている人や、怖がって物陰にサッと隠れちゃう人までいて、もう大騒ぎ。
「うぅぅ……みんなにめっちゃ見られてる……」
でも、フェルくんは、周りの視線なんてこれっぽっちも気にしていないみたい。
「ふん。騒がしい人間どもめ。我が美しい毛並みに見惚れるのは当然だが、あまりジロジロ見るな。不愉快だぞ」
フェルくんはフンスとお鼻を鳴らして、キリッとかっこいいお顔のまま、悠々と歩いているの。さすが聖獣、めっちゃ堂々としてるなぁ!
みんなのチクチクする視線に耐えながら、アイリスちゃんの後ろをトコトコついていったの。
村の道沿いにしばらく進んでいくと、さらさら流れる綺麗な小川が見えてきたんだ。
その小川のすぐそばに、木でできたおうちがあったの。おっきいんだけど、なんていうか……お城とかお屋敷っていうよりは、森の中にある「大きな小屋」って感じの、すっごく素朴な建物なんだよね。
「…………」
私はフェルくんの横で、頭の中がハテナマークでいっぱいになっちゃった。
え、ええ〜っと? ここってアイリスちゃんのおうち……?
私がそんな風に不思議がっていると、アイリスちゃんは迷いもしないで、その木のおうちの扉をガラガラッて開けて中に入っていっちゃったの!そして、おっきな声でこう叫んだんだ。
「おばあちゃーーん! お客さん連れてきたよー!」
「……えっ!? お、おばあちゃん!?」
フェルくんの背中の上で、私は一瞬でカチコチに凍りついた。
――え、えっと、アイリスちゃんのおばあちゃん!?
ちゃんと挨拶できるかな、変な風に思われたらどうしよう……っ!
私があわあわとパニックになっている間にも、おうちの奥からトコトコと足音が近づいてくる。
心臓が爆発しそうなほどの緊張が私を襲ったんだけど……。
そしたらね――出てきた人を見て、私の頭はまじで大パニックになっちゃったの!
「あらあら、アイちゃん。お客さんって、どなた?」
出てきたのは、なんとなんと、すっごいきれいな銀色の髪の毛をした女の子だったの!おめめは、まるで氷みたいに透き通った青色。年齢は私やアイリスちゃんと同じ、16歳くらいに見えるんだよ。
(わ、わわわ、わあああ……っ! 超絶美少女さんだぁ……!)
私は心の中で、おっきく叫んじゃった。その子は、ちょっとだけおめめが切れ長で、パッと見たときは「うわ、クールでちょっと冷たい感じの人なのかな?」って思ったの。でもね、私の方を見てふんわり優しく微笑んでくれた瞬間、なんだか、すっごく温厚で優しそうな雰囲気がじわ〜って伝わってきたんだよね。
それにしても、こんなに若くてきれいな子が、おばあちゃんなわけないじゃーーん!
その銀髪の美少女ちゃんは、おっきいフェルくんを見てもちっとも驚かないで、上品に私の方を向いたの。
「初めまして、旅の方。私はシャルロットと申します。エデンの村へようこそおいでくださいました」
「しゃ、シャルロット様ーーーっ!?」
(ええええーーーっ!? この子が、噂の、あのすっごい大農園を作ったかっこいいお姫様だったのー!?)
ま、まじで、少女漫画からそのまま飛び出してきたみたいな超絶美少女さんだよぅ……! 綺麗すぎて、興奮で鼻血がブーッて出ちゃいそう!
い、いかんいかん! 相手は本物のお姫様なんだから、失礼のないようにしなきゃ! 私はあわてて学校の先生に挨拶するときよりも、いっちばん丁寧な声をがんばって出したんだ。
「は、初めまして! 私は涼風モカって言います! こっちの大きいのは相棒のフェルくんです。あの、エデン村の大農園、すっごくかっこよくて感動しちゃいました……っ!」
「まぁ、モカさんとおっしゃるのね。お褒めいただき光栄です。この農園は、辺境伯様や皆様が力を合わせて開拓した、私たちの誇りですのよ」
わわわ、本物のお嬢様言葉だぁ……!
そんな私を横目に、フェルくんはフンスとお鼻を鳴らしたよ。
「ふん。人間よ、我を前にしても恐れぬとは、なかなかの胆力だな」
「あら、とても美しくご立派なオオカミ様。我がエデン村へお越しいただき、大変嬉しく思いますわ」
そう言って、シャルロット様はドレスの裾をふんわりと持ち上げて、片足を斜め後ろにスッと引いたの。相手を敬うように背筋をピンと伸ばしたまま、すっごく綺麗に膝を曲げて、お見事なカーテシーを決めてみせたんだ。動きが滑らかで、まるでダンスを見ているみたいに美しいの。ジャージ姿の私とは大違いで、まぶしすぎて目が潰れちゃうよー!
「モカさん、立ち話もなんですわ。どうぞ中へおあがりください。温かいお茶でもいかがかしら?」
「えっ、いいんですか!? ありがとうございます!」
シャルロット様が優しく微笑みながら言ってくれたので、私はワクワクしながら、その小屋を大きくしたみたいなおうちに入らせてもらったの。フェルくんはおっきすぎておうちに入れないから、小川のほとりで待っててもらうことにしたよ。
「…………え? あれれ……?」
一歩中に入った瞬間、私の足はピタッと止まっちゃった。私はおめめをパチクリさせて、おうちの中をキョロキョロ見回したの。
だってね、入ってすぐのところに、靴を脱ぐための「玄関」みたいな段差があるんだよ。それに、廊下はピカピカに磨かれた茶色い板張りで、柱の感じとか、壁の感じとかが……。
「これ……もしかして、日本の古いおうち……!?」
異世界にいるはずなのに、なんだかおばあちゃんのおうちに遊びに来たみたいな、すっごく懐かしい匂いがするの!
「モカさん、どうぞこちらへ」
シャルロット様に案内されて、廊下の奥にある「客間」っていうお部屋に入ったんだけど、そこにはなんと――い草のいい匂いがする、本物の「畳」が敷き詰められていたんだよ!
「うわあああーーーっ! た、畳だぁぁぁーーーっ!!」
異世界にまさかの和室を発見しちゃって、私の頭は今日一番の大パニックになっちゃったの!




