始幕 十千国への誘い
この話は真か否かそれすらも判明せぬ、日本のタブーと申すかはたまたそう申さぬのかは、、、
最後まで読んだ あなた が決めることです。
1925年にある村である旅人の風聞が話題となった。村の伝承等をまとめた記録にも残されているものである。
旅人「さぁさ!寄ってらっしゃい聞いてらっしゃい!面白い話があるでぇ!なんでも名もなき民族がおって、そいつらが棲んでいた十千国が滅んだそうなぁ!」
民草「なんがぁ?名を持たんってことは、交流とかしてなかったんが?」
旅人「交流はそんなにしてへんらしいわぁ。じゃがぁ、箕を作ったりして生活してたみたいやなぁ。じゃがなんでかは分からんが姿形もなく消えてしまったらしい。んで俺らとしては、十千国は滅んでしまったんちゃうか?ってなったんや」
民草「なんで滅んでしまったのか分からんがやぁ笑それに、なんで十千国っていう名前が分かるんだがぁ?名を持たんなら国名すら分からんじゃろ〜!」
旅人「なに言ってんねん笑あの山を越えたところに十千山ってあるやろ?そっから取ったんや笑俺らが風聞を早く広めるためにやぁ笑俺も詳しいことは知らんけどなぁ?聞くところによると、なんや国や特定の人物たちから狙われていたとか、はたまた話す言葉がわしらのように話さんからそれを研究したい研究者たちに狙われていたり理由は様々みたいやでぇ」
民草「うぬらが付けた名前がかぁ〜笑笑確かにあそこに山があったら付けるわな笑それに狙われていた〜?それは一体どんなことをしたんだがぁ?狙われるってよっぽどじゃがな」
旅人「んなもん知らんわぁ〜笑神の逆鱗にでも触れてしもうたんとちゃうか〜?笑んじゃ、ここら辺でお開きってもんや!俺は旅をしてるから、ここに長居は無用ってもんやぁ。ほな、さいならぁ〜!」
民草「あっ!おいこら!!まだ話は終わってねぇぞぉ、金返せぇ!おい逃げるなぁ!」
この風聞は一定の話題を生んだのち徐々に民草たちからの記憶から忘れ去られ、時が流れ現代へ突入した。時を同じくして、止まっていた別の時間軸が静かに人知れず歯車が動き始める。
今日は都市伝説サークルの活動日、同じ2回生の5人だけで活動している。メンバーは、女の子では珍しい度胸が据わっていて部員を導いてくれる部長の産葉川芽維、どこでも先に突き進む怖いもの知らずな副部長の女藤翔真、そして都市伝説や部員の好みにあった話を探すのが得意な蓮川冬真、家がお金持ちで家族が進んで都市伝説がある所に行くためいつも宿泊代や車を出してくれる夫婦川翠蓮、誰とでもコミュニケーションを取るのが人一倍得意ですぐ仲良くなることが出来る赤舘千賀、今日も都市伝説の活動が花開く。
女藤「おつかれぇ!なんか新しいおもしろいネタあった〜?」
産葉川「あっ女藤!あんたも探してやぁ〜、みんなそれぞれ興味のある分野とか有名な都市伝説の中で面白い仮説とかを探してるんやからさぁ。女藤あんただけやでぇ〜」
女藤「産葉はいちいちうっさいねぇん笑探そうとする俺の気持ちを無くすやん?今もほら、あ、探すの嫌になったぁ笑ふふん、冬真っ!なんかおもろいネタ見つけたぁ?」
蓮川「!?ん〜まぁ、一応?面白いというかみんなが気になると思う都市伝説?みたいなのを見つけた。でもなんかよく分からんのよな〜」
女藤「マジ!それいいやん!とりま早く教えてや!」
夫婦川と赤舘も作業を止め、女藤に同調する。
産葉川は女藤の切り替えとなに言ってもダメだという諦めが入り交じったため息をつき、うちも気になると言った。
蓮川「これこれ。この本にあるんやけどぉ、大正時代の色々摩訶不思議な話や噂話や怪談話とかをまとめた書物をこの作者が改めて本にしたものなんよ。色々な話のなかから作者が厳選して一冊にした本なんやけどさ、その中で一際目に留まる話があって作者も不思議で興味深いって言ってるんよ。その話というのがある旅人がある村に来たとき、そこの民草に風聞を伝えたらしい。風聞つまり今でいう噂話のような感じやね。それが会話形式で記録されているもの」
そう言い、蓮川が風聞を読み上げる。聞き終わった後、誰も息を立てないままひとときの静けさが広がった。そして、すぐに口を開いたのは意外にも産葉川だった。
産葉川「え…?!たったこの会話だけなん…?」
驚きと少しの困惑が滲み出ている。
蓮川「そうやねん。この会話だけで、作者もこれほど興味深い記録はないって言ってるくらい。それにこの十千国というのが一体どこを指していて、この旅人は本当に旅人なのかとか名を持たない民族はなんなのか疑問がいっぱい出てくんねん」
女藤「確かになぁ、やけどぉこの喋り方を特定すれば分かるんちゃうん?”〇〇がぁ”とかってすぐ分かりそうなもんやけどな」
女藤から出た言葉に蓮川と産葉川と夫婦川の3人は頷いたが1人、この話題から逸らさせたいと思っており話題も変えようとする。
赤舘「それにさ、狙われていたってなんなんやろうなぁ笑もしかして悪魔の儀式とか〜?笑それか生贄とかそういう類いなのかな〜笑笑」
夫婦川「笑いながら言うのヤバいよ〜笑笑千賀くんが一番都市伝説なんやけど笑」
その発言は、先ほどの沈黙をかき消すかのように笑いが包まれ部室全体に広がった。
そして今日のところはこれくらいでお開きということになった。みんながそれぞれ帰路に着いた頃、蓮川は名もなき民族が今までインターネットで見たり本で読んできた都市伝説の中で抜きんでて興味があった。自分のスマホで名もなき民族や十千国を検索してみたが勿論のことヒットはしなかった。次の土日に図書館へ行き、名もなき民族のことや十千国に関することを徹底的に調べようと思ったのだ。気になっていたのは女藤も同じだった。調理をしながらあの会話が頭のなかでリピートされるのだ。(あの会話なんか変なんよな〜。でもなにが変なのかが分からん。蓮川や産葉川に改めて聞かんとなぁ)そう考えながら手が止まっていた夕飯を作り始めた。産葉川と夫婦川は夕飯を食べながらチャットでやはり名もなき民族と十千国に関することを話していた。一方赤舘はベッドへ横になりながら、天井を見上げ1人で考えに耽っていた。
結局夕飯を食べ終わった5人は近くのファミレスで集まることにした。内容は言わずもがなである。
女藤「やっぱり笑みんな気になるよな笑」
産葉川「そりゃね笑あんなめっちゃ気になる話ないから笑」夫婦川と赤舘も気になる、頭から離れねぇ笑口々にそう言った。
女藤「蓮川?どしたん」
蓮川「ん?あぁ、俺は十千国と名もなき民族と旅人が一番気になっててさ。旅人はこの話をどこで知ったんかなぁって。あと名もなき民族や十千国に関する情報が一切残ってないこと。多分この十千国自体になにかあるんやと思う」
全員気付かなかったが、赤舘は一瞬目を見開き焦るようにすかさず言った。
赤舘「なにかってなんやねん笑でもまぁそうやんな笑」
夫婦川「ウチはあの話し方!あれをどっかで聴いた気がする〜」
女藤「俺もあの話し方ずっと脳内で繰り返されてるんよ笑文字だけやけど笑あの話し方俺たち知ってるよな!」
次は記録されていた話し方に話題が変わり、思い出したかのように赤舘が言った。
赤舘「あっ、そういえば俺のじいちゃんとばあちゃんがあれに似た話し方をしてた気がしなくもない」
4人同時「そうだっ!!赤舘/千賀くんのおじいちゃんたちだ!!」
店員「あ〜お客様、他にもお客様がおられますので大きい声はお控え頂きますようご協力の程宜しくお願い致します」
5人同時「申し訳ありませんでした!」
夫婦川「そうそう!笑千賀くんのおじいちゃんたちがあれに書いてた話し方をしてたぁ!笑ねぇ!明日さ!!早速千賀くんのおじいちゃん家に行かへん?!」
産葉川「でもぉ、さすがに申し訳ないよ〜」
赤舘「それな!それにめっちゃ遠いし。あと俺たちだってバイトしてんだし、交通費や宿泊代だって割り勘すればいけるんだし」
夫婦川「ううん、いいの笑私の家族みんなのこと大好きだって言ってくれてて、あの子たちが自分のために使ってほしいからって旅費や交通費は俺たちが出すって言ってて笑私もそこまでしなくていいんじゃない?って言ったんだけど聞かなくて笑だからみんなも甘えてくれると嬉しい笑」
4人同時「ありがとう!夫婦川さん/翠蓮!」
蓮川「実際、夫婦川さんのおかげで僕たち都市伝説サークルは活動出来ていると言っても過言じゃない。明日にすぐ行けるなんて夫婦川さんがこの都市伝説サークルに入ってくれたおかげだ」
女藤「っし!明日赤舘のじいちゃん家に行くって決まったことだし、今日はこの辺でお開きにして帰って明日の準備しようぜ!!」
産葉川「そうやねぇ、女藤の言う通り今日はこの辺にして明日に備えよっ!」
夫婦川「肝心なこと忘れてた!明日何時にどこで集合する?今家族に確認したらそこまで車出してくれるみたいやからさぁ」
女藤「んじゃあ笑俺ん家に朝9時集合ってのはどう?」
産葉川「女藤の家は高速に近いもんね〜ありかも!あ、女藤!自分の家が集合場所やからってゆっくり寝るんやろぉ!アカンで〜ちゃんと起きろよ〜笑」
女藤「え笑あ、いやそんなわけないやん笑」
産葉川「はい図星〜!はい、その反応図星〜」
女藤「ちゃうしなぁ!産葉が急に言うからびっくりしただけやから!なぁに言っちゃてんのぉ」
産葉川「しょーもな笑ウケてへんし笑」
夫婦川「じゃあそれで決まりね笑笑」
会計を済ませ、5人はそれぞれの帰路に着いた。翌日女藤の家に集まり、夫婦川が出してくれた車に乗り赤舘の祖父母宅に向け出発した。
5人たちが住んでいる大阪府から離れ、京都府の大山崎町近くにある盟神太刀という村に到着した。
女藤「めっちゃ久しぶりにここへ来たなぁ笑懐かしい!」
産葉川「ホンマになぁ!?あと、空気も美味しい!」
赤舘「ここから2、3分歩いたらじいちゃん家に着くで〜!」
夫婦川「楽しみやな〜!こんな自然の良い所にあの話が存在してるってことやもんなぁ。まだおばあちゃんから話聞いてもないのに緊張してきた〜笑」
産葉川「え!?翠蓮も?!一緒!うちもなんか緊張するぅ笑歴史的瞬間に立ち会ってる的な〜?笑」
夫婦川「そうそう笑笑マジでそれ〜笑」
女子2人は緊張を解すかのように盛り上がっている。一方で蓮川は周りを見渡し、違和感がある場所はないかくまなく見ていた。
女藤「なぁ千賀ぁ、そういえばじいちゃんとばあちゃんは今年で何歳になるんだっけ?」
赤舘「ん〜?今年で85歳と84歳になるな〜」
女藤「えっ!?もうそんな歳になったの?!」
産葉川「そっかぁ、おじいちゃんたちに会うのも中学のとき以来だもんねぇ〜。元気かなぁ〜」
蓮川「それくらいのお年なら、十千国に関する情報を少なからず持ってるよなぁ。持ってたらどんな話が聞けるのか楽しみや〜!」
そう5人でわちゃわちゃと話し歩いているうちに赤舘の祖母宅に到着した。
すると少し坂を上がったところに、赤舘の祖母が外におり庭の花に水やりをしていた。
赤舘「ばあちゃん!久しぶりぃ!帰ってきたがぁ!元気にしてたぁ?」
祖母の名前は箆口ソノ84歳。生まれてこのかた盟神太刀村に住んでいる。いわば盟神太刀村の歴史や風習を詳しく知っているのだ。
ソノ「おぉ!ちぃちゃん!よぉこげなとこに来たがぁ!疲れたでしょぉ〜!」
夫婦川「おばあちゃん!久しぶり!翠蓮です!
これを私の家族がおばあちゃんにって!ほんのお気持ちです!」
ソノ「あらぁ〜すいちゃん!えぇらいべっぴんさんになってぇ!もうそんなのええがぁ!笑気をつかわせてしまったみてえですまんねぇ!みんなも疲れたでしょぉ、家に入ってゆっくり休みぃ」
4人「はぁ〜い!」
赤舘「ひっさしぶりの家だぁ〜!」
4人「お邪魔しま〜す!」
居間にある囲炉裏を囲むように5人が座り、土間からソノがお茶を持ってきながら言った。
ソノ「でもぉどしてぇまた急にぃ?すぐに来れるとこじゃねぇがぁ、理由があるんやねぇが〜?」
ソノのいきなりの単刀直入に、5人は顔を見合わせ自分たちも単刀直入に言おうとアイコンタクトをした。最初に切り出したのは女藤だった。
女藤「ばあちゃん。実は俺たち…ばあちゃんに聞きたいことというかそのぉ…」
しどろもどろに話す女藤を見て、優しい口調でソノは女藤の気まずさを紛らわせた。
ソノ「しょうちゃん!あてらはぁ、昔からの付き合いだがあ?そんなぁ〜緊張せんでええきぃ!話しづらいことでもわてはなんでも答えるがぁ!」 その一言で女藤は救われたかのように、ゆっくりと話し出す。
女藤「実は俺たち、名もなき民族と十千国のことが知りたくて…それを知ったきっかけが冬真がたまたま買った本に記載があって、会話を記録した話というか風聞でさぁ。そこに書かれていた話し方が俺たちの推測では、千賀のじいちゃんとばあちゃんに似てるな〜っていう話になって翠蓮の家族が出してくれた車ではるばるここまで来たってこと…もしなにか知っていることがあったら教えてほしい…ダメかなぁ…?」
ソノはその名を聞いたとき一瞬ではあったが、確かにピクリと眉毛が反応した。それからというものソノはなにかを考えているかのような顔をし始め、ようやく覚悟決めた顔をした後重い口を開き沈黙を破った。
ソノ「その話はぁ、わては知らん。なぁんにも知らん。じゃがこれだけは言うがぁ。この話は引きずっちゃいかんが。狂うぞ。これで話は終わりじゃ」
この意外な返答に、ますます信憑性を増し始めたのだ。しかも最後の”狂うぞ”この一言は一体なにを表すのか。そう言い土間の方へと足を向け立ち上がろうとしたとき、蓮川が口を開きソノの動きを止めた。
蓮川「ばあちゃん、それはないやん。それに知らんって言っときながら、狂うってどういうこと?狂うような話なら尚の事俺たちに忠告せなアカンのじゃないんですか?」
蓮川から出た言葉は4人は口をあんぐりと開けてしまいそうだった。まさか蓮川が引かず、友達のおばあちゃんに抵抗したからだ。
ソノ「とうくん。そんな簡単に終わるような話じゃないがよ。わてがその”忠告”ちゅうもんをすればとうくんたちは、納得して忘れるがぁ?んやそうじゃないと思うがぁ。おそらく牛一や菊之丞みたいに二の舞を演じることになる。もう、そがなことを見たくも体験したくもないがよ!!」
また新たな人物が出てきた、牛一と菊之丞。この2人は一体ソノが見たくもなく体験したくもないと怯えるようなこととは、何を見て何を体験したのかますます湧いてくる好奇心と少しばかりの緊張と知りたいという知識欲に駆られた。
ソノ「それに、あんたらは若え。こんな古い話を知る必要はないが!」
蓮川「僕たちは危ないことをしようや困らせようという思いでばあちゃんに言ってるんじゃない。都市伝説サークルっていうのは、知りたいという知識欲だけじゃない。それを伝える重要性を確立させ、2度と同じようなことをさせないという想いが僕たちにはあるんです!お願いします。どうか僕たちに、ばあちゃんの苦しみを分けてください!そして後世に残して伝承させてください!」
蓮川の熱心な説得、そしてなにより熱く嘘偽りない真っ直ぐな瞳にソノは負けた。
ソノ「分かったぁ。じゃが、語り部としてわてが役割を担いあんたら5人がそれを伝える。それ以上はしないと断言出来るが?出来るならあんたらに伝える」
話を聞けると言われたが、聞いた後の行動は許されなかった。だが今はそれどころではない。今はただ話を聞きたいという、その一心だけの5人だからだ。
5人同時「もちろん、覚悟はしています。お願いします、お聞かせください」
5人も覚悟を決め、固唾を飲んで真剣に話を聞く。
ソノ「まず十千国の場所についてじゃが…これはまだわてが、中学生に上がる前に聞いた話じゃ。どうやら十千国は特定の場所を指さないらしいがぁ、つまり十千国なんて場所はそもそも存在せんがよ。あと、名前は旅人が勝手に作ったものや。わてもそれ聞いたときはびっくり仰天したがよ。それから名もなき民族のことじゃが…考えたら分かる通り、名もなき民族が住んでいるというより移動する前に拠点としていた場所のことを言うんよ」
5人はソノから聞いた十千国は”特定の場所を指さない”という言葉と名もなき民族は”移動しながら生活”をしていたということだ。まるで遊牧民族のように。これらのことが喉元に小骨が引っかかり、早く取り除きたいかのように前かがみに聞く。
ソノ「じゃが行く方法はあるらしいがぁ。それは太…」
? 「ソノ!なに話してるがで」
突然のことに5人はビクンッと跳ね上がるように驚いた。後ろを振り返り玄関の方を見るとそこに立っていたのは、赤舘の祖父である箆口顰が直売所と畑から帰ってきたところだったのだ。
ソノ「あじいさん!もうお帰りになったがぁ?」
顰 「あぁ、直売所の帰りに畑へ寄ってな。今帰ってきたがよぉ、今日は12個売れたがぁ!それに野菜もすくすく育っとるがぁ。おっ! ちい 久しぶりがぁ!」
赤舘「じいちゃん久しぶり!今帰ってきたばっかりがぁ!」
顰 「そけけ!こらまた笑懐かしい面々が揃っとるがぁ笑笑」
4人同時「お久しぶりです!お邪魔してます!」
顰 「ゆっくりしていけよぉ!んでなんの話をしてたがぁ?じいちゃんも仲間に入れてくれ〜」
顰は麦わら帽子を取り手袋を剥ぎ長靴を脱ぐため、玄関に腰を掛けソノと5人にそう言った。そして恐る恐るソノが話し始める。
ソノ「…語り部としてぇ、名を持たん民族と十千国の伝承について話してたとこがぁ」
ソノから発せられた言葉に顰は動きを止めた。そして後ろ姿が見えるが、空気が徐々に重くなり始めている。それもそのはずこの5人は今タブーに触れようとしているのだから。
顰 「…ソノ、今なに言うた?今なに言うたがと聞いとるんじゃっ!」
ソノ「……名を持たん民族と十千国さ聞きたい言うんで、わても覚悟決めて話そうと…」
話し終わる前に顰が遮った。
顰 「おめぇ、忘れたがやなかろうな?牛一と菊のことで儂らはもう二度とそれを言わん、口にせんと2人で誓ったはずが!!」
顰は玄関に腰を掛け、後ろ姿でこちらに身体を向けようとせず話し続ける。5人は確信した。俺たち/私たちの前にこの話について聞いた人がおり、そしてその2人は良からぬ結末になってしまったのではないか、と。顰が居間に上がり
顰 「千賀ぁおめぇ、知らんはずがなかろうがぁ!他の皆は初めてのことじゃが、おめぇは知っとるはずじゃろっ!!なんで、やめねぇかと止めなかったがぁ!!それが友達っちゅうもんじゃろっ!」
赤舘「じいちゃんごめん。でも、話してはいけん、この話は他所様に話してええやつじゃないってそれ以外しか伝えなかったがや!内容も知らんのにどう気を付ければええがよ!じいちゃんやばあちゃん、そんでこの村の人たちは分かるよ。なにも言わなくても。でも、俺たちはそんなんで納得出来るかってことが!だから今こうして帰ってきたがよ。俺だって知る権利があるから。じいちゃんお願い、教えてほしいが。語り部としてだけでいいから。聞いた後は、フィクションも入れてぼかすから」
顰 「ええ加減にせえ!いくら孫といえどこんな話、なんで言わなアカンが!!ふざけんのも大概にせえっ!!この話のリスクを知らんからそげなことが軽々しく口から出てくるがよぉ。千賀、悪いことは言わん。この話から引けぇ!話はこれで終わりがや!!」
赤舘「待ってじいちゃん!!」
顰 「しつけい!男に二言はねぇが!!」
そう言いながら奥の部屋に入り、襖をバンッと強く閉めた。
ソノ「ちいちゃん。わりぃが、じいさんがあんなに怒ってしまっては話すのは無理じゃ。悪いことは言わんが。じいさんの言う通り、この話から身を引けぇ。その方が自分のためみんなのためがよ」
ソノはどこかホッとした表情をしながら赤舘にそう優しく問いかける。
赤舘「もうええ、みんな外に行こ。ここにおっても埒が明かん」
産葉川「え、いやでも」
赤舘「いいから。早く靴履いて」
赤舘にそう促されながら4人は靴を履き外に出る。
蓮川「僕たちを想ってと仰ってますがホンマにそうでしょうか?普通命を失うようなことを、自分の孫やその友達も話していたら普通注意やなぜダメなのか理由を説明するもんですよね?それをしないってことは自分の孫を見捨てて、余所者である僕たちだから余計に話そうとしなかったんですよね?千賀くんは勇気のある行動をしたと思います。もしかしたら一気に友達4人を失うという結果になるかもしれないんですよ?僕は千賀くんのしたことは間違いじゃないと言い切ります。失礼致しました」
蓮川がそう大きい声で2人に伝え、お辞儀をし赤舘と一緒に玄関から出ていき5人は祖父母宅を後にした。ソノは蓮川が別れる前に言った言葉を気にしていた。当然だ。なぜなら、もしなにかの理由で十千国に関して知り、牛一や菊之丞と同じ末路を辿ってしまう可能性が無きにしもあらずなのだから。
5人は祖父母宅が遠ざかっていくのを背に感じながら、女藤が徐ろに話し始める。
女藤「千賀、ありがとうな!じいちゃんから言われたことは気にしなくていいからな!俺たちは千賀を信じてるし、縁切ろうとも思わん!」
産葉川や夫婦川もその通りだと頷く。蓮川も頷いていたが、少しばかりの怒りは残っていた。
ソノ「じいさん。もう居なくなりましたよ」
顰 「けえったか、まぁその方がええ」
ソノ「じいさん、とうくんが言ったことは筋が通っとるがぁ。危険なことに見舞われていてそれを見ているのに、なにも言わなかったり助けなかったらそれは見て見ぬふりじゃし見殺しがぁ」
顰 「そんなのは分かっとるが!じゃが、こうせにゃならんのじゃ。おめぇが1番よう分かっとるやろ」
ソノ「牛一や菊ちゃんのようなことにならんかったらええんやけど」
顰 「…あいつらもアホじゃ。この話がどれほどなものか知っとらんから……もうええ、こんな古臭い話はもう終いじゃ」
ソノ「そやけど…やっぱり言った方がええがよ?じいさん」
顰 「ソノ…まだするか?」
ソノ「もうわてはあの子らの…ように…また失うのは嫌がよ…」
ソノは瞼から大粒の涙を流しながら顰に伝えた。だがその想いは顰も同じである。しかし、顰の中に譲れないものがあるのも事実だ。
顰 「…気持ちは分かるが。儂だってソノと一緒じゃ、これらのことを伝えねばならぬということは百も承知の上がよ」
ソノ「ならなんで伝えんのよ!そりゃあ、伝えたら好奇心が湧いてあの2人のように同じことをするかもしれん。じゃけど、そのときはわてらが犠牲になる覚悟をあの子らに伝えねばこれから先同じ想いをする人が増えるだけがぁ!」
顰 「…それもそうか。牛一と菊之丞のときもそうじゃった。儂の兄と奥さんが同じことを言ってたがぁ」
ソノ「そうです。瀬羅兄さんと笑美姉さんがわてらにそう言ったことを顰さんにも言いましたぁ」
顰 「ソノの気持ちはよう分かった。じゃがすぐには決めれんがぁ。そこは分かれ」
ソノ「伝えれるならそれでええがぁ。やけどあの子ら帰ってしまったがかぁ?」
時を同じくして、5人は顰とソノが頑なに話さず怒ってしまうほどになる名もなき民族と十千国について夫婦川の車の中で話し合っていた。
女藤「まずは状況整理やな」
産葉川「うん。私も混乱してる。おじいちゃんにおばあちゃん怒らせてしまったもんな」
夫婦川「やっぱ、おじいちゃんのことから整理した方がいいやんね。やっぱりうちらっておばあちゃんよりおじいちゃんが気になってると思うんよ」
赤舘「そうやな。じいちゃんとばあちゃんはなに隠してんのやろ。あと、じいちゃんがあんなに怒ってんの初めてや」
蓮川「おばあちゃんは最初のうちは抵抗したり口をつぐむような姿勢やったと思う。でも、俺たちの説得で決心したかのような雰囲気になったからおばあちゃんは言うつもりだった」
女藤「やけど、じいちゃんが帰ってきて状況が一変。じいちゃんが強い拒否反応を出したことでばあちゃんもそれに倣ったってことやんな」
蓮川「よっぽどのことじゃなかったら、おじいちゃんはあんな反応せんと思う。牛一って人と菊之丞って人も気になるしぃ」
産葉川「千賀。あんたは牛一って人と菊之丞って人は知らんへんの?」
赤舘「ん〜そのことなんやけど…知ってる…」
4人同時「え?!知ってんの!!」
赤舘「やけど言えん。これはタブーみたいなもんやから。村の汚点というか、小さいときからじいちゃんとばあちゃんや村の近所のおばちゃんやおっちゃんも名前を言っては、あれは村の汚点やとかちいちゃんも2人みたいになったらアカンがよ〜?って言われてたから俺もそういうもんやってので言わへんって決めてる。聞くんやったらじいちゃんから聞いた方がいい」
女藤「いやそれは分かるけどさ、ここにきて千賀もあっちに付くん?言ってや」
赤舘「あっちに付くとかこっちに付くとかじゃないって。小さいときからこう言われ続けられてたら、誰だって簡単に言わんくなるやろ」
女藤「それやったら、最初から知ってるとか言うなよ。なんなん?お前はなにがしたいん?」
赤舘「さっきからなんでそんな喧嘩腰で言われなアカンがで!ざけんのも大概にせえよぉ」
女藤「んやねん。当たり前やろそんなん。知ってるって言っといてやっぱやめるわってなんやねん。最初から言うなやって俺は言ってんねん!イキんなや、お前小学校のときからそうやもんな」
赤舘「今小学校の話とかいらんがやろぉ、お前やって人の事言えんがやぁ。いちいち目立とうとしやがってその癖ええ加減にやめぇ」
女藤「んやとぉ!もっぺん言ってみろやぁ!いてこますぞ!」
赤舘「やってみぃ!」
一触即発の状態に陥り、蓮川が制止するように話し出す。
蓮川「今そんなんしてる場合やないやろ!血が昇るのも分かるけど落ち着けって!2人の意見も分かる。双方悪くないから」
産葉川「そうやで!蓮川の言う通り、女藤落ち着こ。イライラしても解決せんしさ」
夫婦川「千賀くんも落ち着こ?深呼吸しよ」
3人が仲に入りなんとか場は荒れずに済んだ。だが2人はまだイライラしており、時折女藤と赤舘が1人でに舌打ちやはぁ〜とため息をついた。
蓮川「千賀の気持ちが分からん翔真やないやろ?冷静に考えれば翔真だって分かることやん」
そうすると運転手の神露木が荒れた空気を吹き消すかのように話し出す。神露木は夫婦川家に仕え、今年で25年になるベテランである。翠蓮とは幼稚園へ送り迎えしていた頃からの仲である。
神露木「みなさまよろしいでしょうか?」
夫婦川「どしたん、神露木。なんかあった?」
神露木「はい、と言いますのも後方から千賀様のお婆様が来られておるのではと」
夫婦川「千賀くんのおばあちゃんが!?」
神露木「Uターン致しますので、お婆様がおられる所まで車を動かします」
そう言い神露木は、いとも簡単にUターンしソノが歩いているとこまで車を動かした。
赤舘「ばあちゃん、今更どしたが」
ソノ「あっ、よかった! ちいちゃんたち帰っちゃったのかと思って探したがよぉ。そしたら近所の人が国道に黒い車が停まってるって言うからここまで来たんよぉ。よかったら、皆さん今日は泊まりませんか?」
ソノは5人と神露木の方を見つめながら言った。
神露木「いえ、私までお世話になるわけにはいきません。お嬢様とご友人の方を優先してくださいませ」
ソノ「そういうわけにはゆかんがぁ、貴方も泊まって大丈夫やきぃ」
夫婦川「神露木、おばあちゃんがこう言ってるんだから。お言葉に甘えなさい」
神露木「承知致しました、お嬢様。ではお言葉に甘えて」
運転手の神露木も赤舘の祖父母宅で世話になった。神露木はソノを車に乗せ、祖母宅まで行き庭先に車を停めた。5人が中に入った後、車から出てソノを降ろし感謝を述べた。
神露木「この度は私までお気を遣って頂き誠に有難う御座います」
ソノ「いいえ〜笑神露木さん?と言ったかしら笑みんなの運転をしてるんですから、当然のことやよぉ!」
神露木「実は私の父も村出身の者で笑この村へ来たときどこか懐かしい気分になれたんです笑」
ソノ「あらぁまぁ!そうでいらしたのぉ!うふふふ笑わてを母親のように思ってもらっていいがよぉ〜?笑なんてな笑」
神露木「いえいえ笑そのように思わせて頂きます笑本当に母親と似ていますからぁ笑」
〜このとき誰一人まだ気付いていない。その昔盟神太刀村で起きた奇怪な失踪事件が今後左右され、タブーが目覚めようとしていることを〜
夕刻、祖父母宅から賑やかなまるで酒宴でも開いているかのような声が響いていた。
顰 「みんなぁ、あのときはすまんな。せっかく遊びに来てもらったのに追い出すような言い方してもうてぇ。血が昇ってたとはいえ、大人気なかった。すまんな」
ソノ「ホンマやぁ〜、とうくんがわてらに言ったことをちゃんと2人で話し合った結果、全員お風呂入り終わった後にわてらから伝えようってことになったがよぉ」
蓮川「そうだったんですか笑僕もすみませんでした。あんな生意気な口を叩いてしまって」
顰 「んやぁ、とうくんは正論を言ったんやぁ。わしらはみんなのことを小ちゃい子たちやと思ってたがぁ笑笑みんなはもう大人になったんやもんなぁ!」
赤舘「俺も女藤とケンカしちまったがぁ笑実は女藤に話すよう言われたけどじいちゃんの口から聞けって言って、殴り合いのケンカしちまいそうになったがよぉ笑」
女藤「今はもうなんとも思ってないからな〜?笑俺は引きずらない紳士やから〜笑」
赤舘「カッコつけんな!笑」
顰 「そけけ笑笑まっ、言わんかったんは褒めたろ笑笑ケンカするほど仲がええって言うき〜笑」
女藤/赤舘「確かになぁ〜!!」
蓮川「俺が止めなかったら、どうなってたことやら笑」
肩を組み合い仲良く笑い合っている。一方女性陣と運転手も盛り上がっていた。
産葉川「女藤と千賀、さっきのケンカはどこへやらって感じ笑男子って分からへぇん、ばあちゃん教えて〜笑」
ソノ「男の子はいつの時代も同じなんやね〜笑さすがのばあちゃんも分からんがやぁ笑神露木さんに聞いてみたらええきぃ笑」
産葉川「あ、そうやん笑神露木さん教えてや〜笑」
神露木「え?!そうですねぇ〜、今日の敵は明日の友と言いますか〜笑男子は、一度争った相手とはより一層の仲が深まるんですよ笑それが仲の良い友達なら尚の事です笑」
夫婦川「まさにあの2人のことやね笑笑」
神露木「はい笑笑その通りでございます笑」
産葉川「そんなもんなんや〜笑男子ってよう分からん笑笑」
全員お風呂に入り終わり、居間でゆっくり寛いでいるとき顰が名もなき民族と十千国に関する話をし出した。
顰 「まず名もなき民族と十千国の話を語る前に牛一と菊之丞の話をせんとなぁ」
赤舘「小さいときからずっと気になってた。牛一さんと菊之丞さんはそもそも家族なの?」
ソノ「そうや、ちいちゃんからすると叔父さんにあたるねぇ。2人の父親はじいさんのお兄さんなんよぉ」
赤舘「でさ、その2人はなんで村全体から話してはいけない存在になってんの?」
顰 「……それはなぁ…ちいたちと一緒で、名もなき民族と十千国に関して聞いてきたがよ。あんなことが起きるまでは儂らも冗談というか本気に留めてなかったんや」
蓮川「一体お2人になにがあったんですか…?」
ソノ「名もなき民族と十千国のことについて、どこで知ったんか分からんけど突然聞いてきたがよ。聞いてみたら、叔父さんと叔母さんには内緒やきぃって言って理由は分からん。やけど、それを聞いてから2人は忽然と消えてしまったんよ…村の人と一緒に探したんやけど、見つからんかったが」
女藤「それは一体なんで…?」
顰 「…理由は分かっとる。十千国について知りそして行ったんや」
産葉川「十千国に行ったんですか?!でも十千国って固定の場所を持たないんですよね?」
顰 「それは行く方法を知らんかったらの話じゃが。儂らもびっくりしたわ。ホンマに行けるなんて夢にも思わんやろぉ」
夫婦川「それは、私たちは聞いてもいいんですか?」
ソノ「それは…」
顰 「あぁ、構わん。じゃが、命は保証せんぞ」
ソノ「…じいさん…ホンマに言うがぁ…?」
顰 「聞きたい言うとるんじゃあ。まぁ言う前に聞いておきたいことがあるがな」
赤舘「じいちゃん、聞きたいことってなに…?」
顰 「行くんなら、儂ら全員で行くことや」
ソノ「じいさん…」
すると、今まで沈黙を貫いていた神露木が突如顰とソノの2人に疑問を投げかける。
神露木「お待ちを。申し訳ありませんがこれでも私は皆様5人の引率と言いますか、責任を担っている者でもあるんです。そんな勝手に話を進ませるわけにはいきません。必ず帰ってくるという保証はあるんですか?」
顰 「お気持ちは分かるがぁ。じゃが前例が出来てしまった通り、必ずとは言い切れん」
神露木「私の単純な疑問がありますのでいくつかお聞きして宜しいですか?」
顰 「構わんがよ」
神露木「結局牛一さんと菊之丞さんは見つからなかったんですか?」
ソノ「…いや、見つかったが…」
顰 「しかも…狂った状態で2人は見つかったがよ。正気を失くしとるっちゅうか、何かに怯えているような気もしたなぁ」
5人は鳥肌が立った。点と点が繋がった。最初聞いたときソノが狂うぞと伝えたその意味は、2人が狂った状態で見つかったからだったのだ。
女藤「それって…ばあちゃんが最初俺たちに伝えたことやん…」
ソノ「そうじゃ。5人に、あの2人みたいになって見つかってほしくなかったが…」
神露木「もう1点。本当にお2人は自分たちの意思で行かれたんですか?もしくは、誰かに唆されて行かれたんですか?」
顰 「それはどういう意味がで。儂らが嘘を言っとる言うんか」
神露木「いえ、そうは申しておりません。聞いている限り、お2人はお若いと思いました。しかも5人とさほど変わらないともみえる。それに、お2人はこの村ご出身なんですよね?だったら尚更の事です。千賀様のように幼い頃から、あちこちから言われていれば確認しようと思っても最終的には諦めてしまうと思うんです。ですが、聞いている限りそうは思えない」
顰 「…もしそうやったとして、誰が最終的に確信にさせたんや」
神露木「そのことですが…私ソノ様にはお伝えしたのですが父は村出身と言っていたのです。その村がこの盟神太刀村なんです」
顰 「!?なんやて?!」
ソノ「そ、それはホントがかえ!?」
夫婦川「神露木、それは本当なの…?!」
この告白に一同驚愕した。もちろん翠蓮も知らなかった事実なのだ。
神露木「はい、お嬢様。しかも、私はその菊之丞の長男です」
顰 「嘘や…そ、それはホンマがか」
神露木「誠です。菊之丞は生前こう私に伝えてました。あの村は異常がや。近付いたらいかんがぞ、祝人と。私はその意味が今まで分かりませんでしたが少し解りました。何故なら、ここの人間は異様に外部へ情報を言おうとしないということ。あと、風習も外部から見たら信じられないと父が言っていました。その風習の1つ目は、”盟神探湯” (くがたち)です。この村の名前に由来する古来の日本で実際に行われていた方法です」
5人同時「盟神探湯?」
顰 「うぬはそこまで聞いとるがかぁ」
神露木「これは今でいう裁判の原型ともなったといわれるものです。無罪か有罪を決めるのは、お湯の中に腕を入れ火傷を負わなかったらその者は無罪という方法」
赤舘「…俺も小さいとき1回それされた…」
神露木「あと、お2人はその後についてなにも言いませんが私から申し上げます。まず牛一叔父さんのことから。牛一さんは、精神病院に入院しました。そして弟菊之丞と共に、リハビリして話せるほどにまで回復しました。父もそうですが叔父さんもこの村のことを言っていました。叔父さんから聞いたのはこの盟神探湯、本来は先ほど伝えた説明を意味するのですが、この村の異常さはここからです。例えば嘘を付いたり、家族や村人に歯向かったり禁忌に触れた者は罰としてこの盟神探湯を強制的にするらしいのですが、あろうことか全身裸にしてそこへ放り投げるという村全体でそれを見届け周囲から罵詈雑言を浴びせるという一種の洗脳状態にさせるというのです。2人は特にこの洗脳状態から抜けるのに悪戦苦闘してましたよ、死ぬまでね。それを聞いた後、叔父は、祝人あの村に言い伝えられている名もなき民族と十千国のことを祝かその意志を継ぐ者に託せ。それが遺言でした」
顰 「儂らの言葉が分からんがかっ!!やめえと言っとるんが聞こえんがやっ!!あの、牛一と菊之丞の奴らめ大罪を犯しよってからに。由々しき事態やなぁこらぁ。自分が今この村でどれほどの罪を被っていってんのか分かっとんかっ?」
神露木「次に父菊之丞は、牛一と同じ精神病院に入院してリハビリをしました。菊之丞は牛一が亡くなったことをショックに思わず、寧ろ自分が生きなければと日常生活に支障が出ないほどにまで回復してから退院しました。そのとき付きっきりで看病をしてくれたのが、菊之丞担当の看護師だった母畏実です」
顰 「ちっ。確かに村から失踪して連絡が付かんかったから分からんかったがぁ」
ソノ「言われてみれば菊ちゃんにそっくりじゃあ、のうじいさん」
顰 「あぁ、確かによう似とる。この憎たらしい顔もな」
神露木「あなた方からすればそうでしょうね。何故ならこの盟神探湯を率先して村民を動かしたのは他でもない、あなたたち2人ですよ、盟神太刀村村長 箆口顰!そして村長の妻箆口ソノ!!」
顰 「おいっ!!黙って聞いてたら好き勝手なこと言いよってぇ。いくら菊の子どもでも言ってええことと悪いことの分別は分かるがなぁ!なんで言うがやぁ、そんなによう知っとるんならそれ以上はやめえ!!タダでは済まんぞっ!」
神露木「2つ目は、”持衰” (じさい)ですよ。洪水や土砂崩れ等が起きたときは、それは龍神が怒っていると思いそれを鎮めるため神に捧げるという儀式で、毎年村から1人を籤で5歳になる子どもを選び神社で育てる。そしてもちろん自由はない。例えばお風呂に入ることも髪の毛を梳く(すく)のも出来ない。そして、黥を目と頬そしてこめかみまで入れる。そして川へと放り投げる、いわゆる生贄がまだ残ってると言うんですから」
ソノ「余所者がこの村のことを次々に言うのは違うがで?じいさんの堪忍袋の緒が切れる前に謝るが!」
神露木「飢饉のときも同様ですよ。そしてなにより十千国に行く方法も菊之丞は私に伝えました。というのも、この悪しき伝承を無くせという遺言で私は伝えられたんですから。その方法は太占です」
顰 「もうお前をここから帰らせるわけにはいかん。それは聞いている5人もそうや」
赤舘「じいちゃん…!?なんでそんなこと言うんよ…」
神露木「何故なら、赤舘家は盟神太刀村の歴代村長を務めていますから。ここに住んでいる村民はこの赤舘家に逆らうことは出来ない。つまりは、自分の親族や子どもたちには今言った持衰で行われた籤の結果を他の家に無理やり回していたんですから。人間的に終わってますよあなたたち!」
赤舘「それはホンマがか、じいちゃん…嘘やったら嘘って言ってほしいがぁ…」
顰 「あぁ、ホンマじゃ」
神露木「皆さん車に急いでください。この2人が村民へ伝える前にまずこの村から脱出しましょう」
神露木は玄関に行きながらそう言った。5人も自然と身体が動いていた。そして、玄関を出て車に飛び乗りエンジンをかけた。
顰 「お前らぁ〜!!!待たんがぁ!!!逃させんぞぉ〜!!」
顰がそう叫びながら走って左手に槍のような物を持ちながら出てきたと同時に、ソノが外でなにかを上に投げたように見えた。それは狼煙である。その音を聞くやいなや、あちこちから人が出てきた。車の中から見たその光景は所謂村八分にあっているかのようなものだった。ある者は鎌を持ち、またある者は鍬を持って走って村民全員で追いかけてくる。ようやく国道に乗ったとき、それは見えなくなっていた。
神露木「千賀様。いくら私怨があったとしても千賀様には申し訳ないことをしました。お許し下さい」
赤舘「いや、神露木さんは悪くありません。謝らないでください」
神露木「ありがとうございます。あと皆さん、十千国への行き方を言いました。私になにかあったときは私の意志を継いで終わらせてくださいね。最後に、私の母畏実はまだ生きています。必ず何か力になると思います」
蓮川「神露木さん。俺はちゃんと聞いているのでみんなが落ち着いたときに伝えます。命がけの告白、有難う御座いました」
神露木「冬真くん、ありがとうございます。お嬢様のこと4人で守ってくださいね?」
蓮川「お任せください」
産葉川「うち、あんなに怖い思いしたの初めてかも。だってまだ鳥肌立ってるし、聞いた後その風習をするつもりだったってことでしょ…?まだ生きてる心地がせえへん…」
女藤「俺も。あんなに拒否反応をしたり、覚悟をしているのか確認してたのはそういうことだったんや…」
蓮川「ホンマに。まさか今の時代に、こんな体験をするなんて…夢にも思わなかった」
神露木「その通りです。いくら興味を持ったからといって、無闇矢鱈と現地に行ったりそこの人たちに聞くのは時には命取りな行為になり得るということです」
夫婦川「ホントにそうやね。神露木、助けてくれてありがとう」
神露木「お嬢様と皆様がご無事でよかったです。お嬢様はすごく成長なさいました。私はそれだけでも感無量です。お嬢様のことは陰ながら守りますので」
夫婦川「なんですか笑そんな改まって笑」
神露木「あははは笑そうですね笑」
そして無事に4人をそれぞれの家へ送り、また明日会おうと約束しその日は終わった。
夫婦川「神露木、今日はよく寝て明日の送迎お願いしますね?」
神露木「………」(今まで本当に有難う御座いました。お嬢様申し訳ございません)
翌朝、4人はファミレスで夫婦川の口から驚愕なことを聞かされる。
夫婦川「帰った後すぐ寝たんだけど。起きたら、神露木が辞表を提出したみたいで…もしかしたらあの村に行ったのかな……」
女藤「ま、マジで…!?」
赤舘「なんでや…神露木さん…もしかして自分と家族のことを清算するためにわざわざ行ったってことがか…?」
産葉川「やめてや…考えたくもないって…」
蓮川「神露木さんも覚悟を決めて言ったんやないん?だって行く方法も言ってくれたことやし、俺たちは神露木さんと牛一さんと菊之丞さん3人の意志を受け継いだんだから」
女藤「冬真、ホンマにそれ言ってるん?」
蓮川「ホンマやで。神露木さんの表情が今までと違ったから」
赤舘「だからって…自ら死地に飛び込むって…あの村の異常さを1番よく理解してるのは神露木さんやん…」
蓮川「尚更行ったんじゃない?しかも帰るつもりのない徒歩で行ったんやと思う」
夫婦川「私が1番神露木のことを理解してる。冬真くんの言う通りやと思う。あの村には行った神露木の気持ちが浮かばれへん」
産葉川「1番この中で辛くて悲しいのは翠蓮やんな…」
夫婦川「芽維ちゃんありがとう、心配してくれて!でも大丈夫やから…」
蓮川「今この瞬間、神露木さんは頑張ってくれてるかもしれん。だから十千国に行かんと!」
夫婦川「そうやんね…!みんな!神露木のために動かないと!」
女藤「おん!そうやな!産葉大丈夫か?笑怖いんやったら行かない選択肢もあるで?」
産葉川「怖くないわ…!うちも行く決心はついてる!」
蓮川「よし、これで決まり。じゃあ十千国に行きますかっ!!」
女藤・赤舘「おう!!」
産葉川・夫婦川「うん!!」
〜1人の人間がタブーの生贄となり、命を代償に目醒めた。この先、無事に終えることが出来るのか、、、巻き添えを喰らうのは【御免】というものだ〜
始幕『十千国への誘い』終読




