1. それは呪いではなく祝福です
夕暮れのシュヴァリエ王立魔法学園は、甘ったるい噂話で満ちていた。
「ねえ聞いた? あの公爵令嬢、婚約者ともう――」
「やだ普通でしょ。私なんて初体験は――」
石造りの回廊に、ひそやかな笑い声が反響する。
薔薇の香りが風に乗り、どこか濁った甘さを帯びて漂っていた。
私はそれを、瓶底メガネ越しにぼんやりと眺める。
(……相変わらず、すごい世界だ)
前世では、人の視線が怖くて仕方なかった。
誰が何を考えているのか分からない
――それだけで、心臓が締め付けられるようだった。
だから私は、ここでも目立たないように生きている。
ふわふわのピンク髪はきつく三つ編みにして、分厚いレンズで顔を隠す。
誰にも見られないように。
誰にも関わらないように。
――ただ一つの例外を除いて。
「綺麗……」
「本当に、変わったやつだな」
夜中の誰もいない王宮の庭園にひっそりと横たわるのは、伝説のユニコーン。
神々しい真っ白な体躯、黄金の鬣をなびかせる、気高き存在。額には美しい一本の角。
昼間は冷徹で近寄りがたい第一王太子、セドリック様。
今、私の目の前にいるのは、その呪われた姿。
息を呑む。
胸が締め付けられる。
「これは呪いなんかじゃなくて、祝福です」
そのまま首筋に抱きつく。
ふわり、とした毛並み。指を滑らせると、しなやかな筋肉がわずかに震えた。
「ああああ……これ……この感触……! やっぱり、お肌よりも被毛ですよ!」
頬を押し当てる。温かい。柔らかい。それでいて、芯がある。
「やっぱり人間じゃダメです……! この姿こそが完成形です……! あの美形すぎるお顔も、この毛並みの前では無価値も同然!」
ユニコーンが、戸惑ったように鼻を鳴らす。
その音さえ、愛おしい。
「大丈夫です」
私はそっと、彼のたてがみを撫でた。
「私が守りますから」
静かな夜。噴水の水音だけが響く庭園で、私ははっきりと誓った。
「絶対に、あなた達を人間には戻しません」
――この世界には、あと四人。同じ呪いを持つ、攻略対象がいる。
ヒロインが来る前に。“愛”なんてものが介入する前に。
私は完成させる。
ユニコーンを、この世に固定する魔道具を。
「……待ってなさい」
私は彼の首に顔を埋めたまま、呟く。
「私の、楽園」
夜の庭に、ユニコーンの静かな吐息が溶けていった。
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