13、不死の者
13、不死の者
私は驚いていた。だって、アリスのお師匠さんが街中であんな強力な魔法を放つなんて何が起こったのだろう。
「ピイィッ 」
私がアリスにどういう事か訊いたら、アリスではなくシモンが答えてくれた。
「アリスの師匠はエドガーという、この国一番の魔術師でした アリスにも様々な魔法を伝授して、本当に知識、実力共に素晴らしい師匠であったと思います ですが、その魔術を追求するあまり一線を越えてしまったのです 彼は魔術の力で不死になり、永遠に魔術の研究をしようと考えたのです 彼は魔術の深い深淵を覗き込み、その深淵に取り込まれてしまったのです それから、彼の研究は常軌を逸していくようになりました そして、その異常な研究を繰り返し、周りが諌めても聞きませんでした それで、ついにヴァイオレット王に追放されたのです すべての権限を剥奪されて放り出された彼は、ヴァイオレット王に必ず復讐に来ると大声で叫んでいたと言います ここに、こうして戻って来たということは、ヴァイオレット王に復讐する為でしょう 」
「ピ、ピイィーッ 」
・・・じゃあ、さっきの魔法はヴァイオレットを狙ったってこと シャーロットたちも一緒にいるのに大丈夫かな ・・・
私は心配になってきた。ナアマとクレアもいるから大丈夫だとは思うけど、アリスのお師匠さんって事は、魔法に関してはエキスパートだよね。しかも、その研究にのめり込み過ぎて追放になっているなんて……。「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている」ドイツの哲学者ニーチェが著書「善悪の彼岸」に書いた一節を私は思い出していた。私の元の世界で、よく小説やアニメやゲームで使われる有名な一節だよ。アリスは慌てて駆け出していて、私も取っておいた酢豚のパイナップルを口に入れると、シモンの肩に飛び乗り現場に向かって飛び出していた。
* * *
漆黒のローブを羽織った男は、禍々しい杖を振りかざすと呪文を唱えていた。
「キノコさんが、よく言ってますけど馬鹿ですか、あの男 前衛で守ってくれる戦士もいないのに、呪文を最後まで唱えさせるわけないじゃありませんか 」
クレアは電光石火の動きでローブの男に迫り、聖剣ダモクレスで斬りかかった。
ザシュッッッ!!
しっかりと手応えがあり、クレアは男を倒したと確信したが、男はよろける事もなく平気で呪文を唱えている。男の呪文の詠唱は、もう終わりそうだった。
「不味いっ、クレア避けろっ 」
ナアマが叫び、クレアが横っ飛びに回避する。そのすぐ横をナアマの魔法が突き抜けていった。
「アビスフレーム 地獄の業火で焼かれるがいい 」
ナアマの強力な魔法が男を直撃し、男は炎に包まれていた。しかし、それでも男は平然としている。そして、男の呪文の詠唱が終わる。
「ミーティア・シャワー 」
それはアリスの使った流星を降らせる魔法だった。数え切れない程の流星が降り注ぎ、ヴァイオレットたちを襲う。ヴァイオレットもナアマもクレアも、そして、コリンも剣や拳で流星を砕いているが、光速で数限りなく降ってくる流星雨に、もう処理が追い付かなくなってきていた。
「くそっ、こんな時にギュスターヴかシモンがいてくれれば…… 」
ナアマは自分はともかく他の人間、特にコリンとシャーロットは流星の直撃を受ければ、致命傷になると考え、必死に二人を守っていた。それは、ヴァイオレットもクレアも、同じ思いで二人の子供には傷を負わせないように、自分が傷つく事はかまわずに防御に徹していた。しかし、さらに流星雨は激しくなってくる。
「いかん、コリン 頭上の流星を砕けっ! 」
ナアマが叫ぶが、シャーロットを守るのに必死なコリンは自分に迫る流星に気付いていなかった。ヴァイオレットとクレアも流星を砕こうとするが、とても間に合いそうもなかった。
「コリンッ!! 」
三人が叫んだ時、何か小さい動物がコリンの肩に飛び乗っていた。そして、コリンに迫っていた流星は見えない壁にぶつかったように粉々に砕けたのだった。小さな動物は爪楊枝のような剣を天に突き立てて黒い瞳で男を睨んでいる。
「キノコ 」
「キノコさん 」
「キノコ様 」
三人が叫んだと同時に、今度はローブを羽織った男に流星雨が降り注いでいた。そして、ナアマたちの傷が回復していく。アリスとシモンだった。アリスは、男と同じ魔法で攻撃し、シモンは素早くみんなを回復させたのだった。
* * *
「師匠、あなたは道を間違えたんです 踏み込んではいけない領域に入ってしまいました 残念ですが謝った道に進んでしまったあなたに私が引導を渡します 」
アリスは悲壮な覚悟でエドガーに対峙しているよ。でも、エドガーはそんなアリスを鼻で笑っているみたいだった。
「くくく、面白い 魔術を極めた私に弟子の分際で大きな口を叩くものだな、アリス だが、私はとうとう人間を超越した 不死を手に入れたのだ 刮目するが良い これが私の真の姿だ 」
エドガーはローブのフードを外した。その下から出てきたのは、干からびた骸骨のような頭。そして、暗く窪んだ眼窩の奥で赤い光が輝いていた。
・・・これは、”リッチー” 度々ラスボスとしても描かれる不死の大魔術師 神獣も厄介だったけど、こいつも剣も魔法も効かない最悪の敵だよ ・・・
私は、アニメやゲームでどうやってリッチーを倒していたか思い出していた。
・・・確かゲームでは特別なアイテムが必要だった気がするよ アニメでも、アイテムを使っていたかな とにかく、通常の魔法や剣は効果がないんだ どうしよう ・・・
私が悩んでいるうちに、アリスが地獄の氷を呼び出していた。エドガーはたちまち地獄の氷に包まれる。
・・・やった…… ノヅチの動きを止めた魔法だよ いくらリッチーでも…… ・・・
でも、エドガーは軽く手を振り、巨大な氷をいとも簡単に砕いていた。
「物質召喚か 私の教えを守って勉強を続けたようだな、アリス 私の一番の弟子だっただけはある だがな、アリス 私は死を超越した、この世の理から外れた存在 故に剣も魔法も効かぬ 」
リッチーのエドガーは骸骨の口で高笑いしていた。でも、笑っていられるのも今のうちだよ。私に思い付いた事がある。それに、あんたなんかよりアリスの方が数倍偉いよ。アリスは、道を違えず魔法の力を高めている。人間を捨てたあんたなんかアリスの足元にも及ばない。だから、アリス。悔しがる事なんてない。アリスは、私にとって胸を張って誇れる仲間なんだから。




