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意地

 


 周りの観客達がざわめく中、ミアはレナに背を向けて会場から立ち去ろうとする。


 だが、地面に這いつくばっているレナはこの事に納得などしてはいなかった。


 当然だ。現状を見てみれば明らかに自分が負かされていることは明白だし、何より、自分が相手にならないとしているミアの態度が気に入らなかった。



「……ま、待てッ! ……僕はッ!」

「そんな状態のお前に選択権はねぇ、黙って受け取っとけ。こう見えてお前の事は気に入ったんだ」



 背を向けたまま立ち上がってくるレナにミアは笑みを浮かべたままそう告げる。


 そして、再び歩を進めはじめたミアは軽く手をヒラヒラとさせながら会場の出口へと消えていった。


 会場はその決着に暫し呆然としていたが、すぐに歓声が湧き上がる。



「あ、アドルフォ・ミアの棄権により! 勝者! エンポリオ・マルタ! これは衝撃的な幕切れとなりましたッ!」



 だが、勝者だと言われたレナはミアの背中を見つめながら悔しさで歯を食いしばり、拳を握り締めていた。


 これは、ミアからの情けでしかない。結局のところ、自分はいいように弄ばれ、敗北したに等しいのだ。


 しかし、立ち上がったレナは無言で踵を返すと早々に会場を後にするように歩き出す。


 あれだけボロボロにされ、情けをかけられてしまえば、言ってしまえば恥をさらしているようなものだ。


 会場からは拍手を送られていたものの、レナの気は晴れないままであった。


 そんな、レナの姿を遠目で見ていた私も彼女のそういう気持ちは理解できる。



「とりあえず、無事に終わってよかったなキネ」

「……結果的にはね」

「レナの奴はボロボロだけどな、ありゃ相当悔しいに違いない」



 シドはそう言いながら顔を引きつらせる。


 決着をつけたというよりも、自分が相手にならないから戦いを放棄されたというのは軍人にしてみればプライドが傷つく負け方だ。


 錬金術師として自分の技術や知識、そして、訓練を重ねてきたレナからしてみれば尚更だろう。



「何にしても、キネ、次にあの娘と戦う事になるのは貴女よ?」

「あぁ、そうだね」

「ミアが強かったにしろ、あのレナの嵐の錬金術というのは相当な破壊力がある、油断ができる相手じゃないぞ」



 腕を組んでいるレイは私を横目にそう問いかけてくる。


 それは私も理解している。レナが錬装を扱った時の錬金術の破壊力を見ても普通に戦って勝てるような相手には見えなかった。


 相手がミアだったから圧倒できていた部分もあったと思うしね、何か対策は考えておかないと痛い目に遭うのは間違いないだろう。



「まあ、それについては決勝までにゆっくり考えを練っておくさ、期間は十分にある事だしね」

「そうだな、それが一番だろう」

「ところで気になってたんだが、ラデンは?」



 私は周りを見渡しながら隣にいるシドにそう問いかける。


 試合が始まってからずっとラデンの姿を会場で見かけていなかった。


 せっかく錬金術師同士の戦いが見れるという機会なのにわざわざ彼女が見逃すのはどうにも気になる。



「ミアの奴がトラウマになってるから見にこなかったんじゃねぇか?」

「まあ、それも確かにわかるんだけど……」

「あの娘は元々、帝国の諜報部隊だったんだろう? 

 それならきっと何かしてるんじゃないのか? 例えば、極秘任務とかな」

「まさか、だってラデンは……」



 レイのその言葉に反論しようとした私はそこで言葉を発するのを止めた。


 そう、ラデンは帝国軍人であくまでも私の観察を皇帝から命ぜられてしているに過ぎない。


 最近、側にいることが多かったので忘れていたが、彼女とて一人の軍人であり帝国に忠誠を誓っている女性なのだ。


 私が知らないところで何かしらの極秘任務にあたっていたとしても不思議ではないだろう。


 すると、近くで観戦していたカナエは首を傾げながらこう問いかけてくる。



「ラデン? ラデンとは、もしやラデン・メルオットですか?」

「……ん? あ、あぁ、そうですよ」

「やはりそうでしたか、先日、パーティーで少し見かけていたので何故いるのだろうと疑問に思っていましたけれど」

「カナエさんはラデンをご存知で?」



 私は笑みを浮かべながらラデンについて話すカナエにそう問いかける。


 すると、カナエは静かに頷き、当然だとばかりに私に告げはじめた。



「それはそうですよ、私だってエンパイア・アンセムですよ」

「へ?」

「死の十字架部隊の副隊長なんですから当然でしょう。錬装もできますしね」



 そう言いながら、クスクスと笑みを浮かべるカナエ。


 確かにあれだけ強くて、帝国最強の将軍であるデスドラドの娘ならエンパイア・アンセムであったとしても不思議ではない。


 しかし、そこで気になったのはラデンと彼女が面識が元々あったという点だ。



「ちょ、ちょっと待ってください、ならラデンは貴女の事を……」

「当然、知っていたと思いますよ。あら、ラデンから私の事を聞いては?」

「……い、いえ、全く聞いてなかったです」



 私は戸惑いながらカナエにそう答えた。


 ラデンの口からは一切、カナエについての話を聞いたことが無い、いや、多分、彼女自身、話そうとはしなかった。


 きっと、ラデンはカナエがどんな錬金術を扱うのか、どういう経歴の持ち主だったのか把握していた筈だ。にも関わらず、彼女は私にその事を話そうとはしなかった。



「……どうにもキナ臭いな」

「ラデンの事か?」

「あぁ、あいつ、何企んでやがるんだ一体」



 そう呟くシドの言葉には私も同意せざる得なかった。


 確かに気を許していた。私は彼女とずっと居たからわかるが、ラデンは本当に優しい女の子だし、私も彼女には手厚く看病してもらった。


 だから、何か隠し事があるならば、本当ならちゃんと話して欲しいと思うし、彼女とは今後も良き友人として付き合っていきたいという気持ちがある。


 私はしばらく考え込むと、シドにこう告げた。



「ラデンには……。私から少し話を聞いてみようと思う」

「……そうか」

「うん、何を考えているのかはわからないけどね、彼女にはいろいろお世話になってるから」



 私はそう言いながら、シドに笑みを浮かべ告げる。


 カナエの事を私に話さなかった事も含めて諸々、ラデンには聞きたいことがたくさんある。


 いつも見ている彼女の顔とは別の顔が他にあるなら、それを一人だけで背負わせておくわけにはいかないしね。



「カナエさん、話してくれてありがとう」

「いえいえ、お力になれたなら幸いです」



 そう言いながら、ニコリと優しい笑みを溢すカナエ。


 それから、彼女は軽く頭を下げると黒服に車椅子を押させ私達の前から立ち去っていく。


 新たにラデンについての疑惑という問題も出てきたわけなんだが、どうすべきだろうか。



「ひとまず今日は屋敷に帰りましょう、本来ならキネもまだ安静にしなきゃいけないでしょ?」

「……そうだね」



 何にしても、私は前回の戦いでの傷も万全に治っているとは言えない状況だ。


 ラデンについての心配事も確かに重要なんだけども、何にしても身体を万全にしておかないとどうにもできないのは間違いない。


 それから、試合を見終わった私達は、アルフィズ邸にひとまず引き上げる事にした。




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