大変な買い物
ランジュリーショップに二人から連れてこられた私は試着室でゲンナリとしていた。
まさか、こんな事になるなんて数分前まで予想できただろうか? きっと二人とも私の反応が楽しくてからかうつもりでここに連れてきたんだろうけどね。
早速、食い入るように下着を次々と私に二人は持ってくる。
「このピンクとかどうですかね? クリスさん」
「いやぁ……キネさんは大人だから。
この黒のガーター付きのティーバックとか似合いそうな気がするなぁ」
「うわぁ……。これは大人ですねー」
「ちょっと二人とも、普通の下着を持ってきてくれないかな?」
私の下着を選んでいる二人に青筋を立てながら強い口調でそう告げる私。
どんな下着を私に着させようとしているんだ彼女達は、というか、黒のガーター付きのティーバックなんていつ穿くんだよそんなもの。
そんな事を考えていると、試着室にいる私の元に店員さんがやってくる。
さっき、お店に着いた時に採寸をお願いしていたからね、きっとそれだろう。
店員さんは私に一言断りを入れると試着室のカーテンを開けて中へと入ってきた。
さっきまで下着を選んでいた二人も私の採寸が気になったのか、私がいる試着室に戻ってくる。
おい、別に戻ってこなくても良いんだよお前達は。
「それじゃ、計りますね」
「あ、う、うん」
「それじゃ下着になって貰えますか?」
そう店員さんから促されて私は服を脱いで上下薄い水色の下着姿になる。
すると、店員さんは採寸の為に私の身体にメジャーを伸ばしてサイズを測っていく。
なんだかなぁ、男の時はウエストだけで良かったんだけど、女の身体になると、バスト、ウエスト、ヒップまで計らなきゃいけなくなるから面倒だよね。
私の身体の採寸をする店員さんは私に聞こえるような声でサイズを述べ始める。
「えーと……。上から89とウエストが55、ヒップは87ですね、理想的なスタイルですね、何か運動とかされてます?」
「あ、いや⁉︎ そういうわけじゃないんですけど……」
「そうなんですか、羨ましいですね」
「も、もう良いですかね」
そう言いながら顔を引きつらせる私。
だが、それを側で聞いていたラデンとクリスは満面の笑みを浮かべて外から試着室のカーテンを開き、下着を片手に持ちながら現れる。
なんだその顔は、なんで笑顔なんだ二人とも。
「キネさーん、見つけてきましたよー下着」
「ささ、早速付けてみましょうかー」
手をワキワキさせながら、ゆっくりと私に近づいてくるラデンとクリス。
私は身体を隠すようにしながら後退り、店員さんは何かを察したのか、ごゆっくり、と一言だけ告げるとそそくさと外へ出て行ってしまった。
そこからはもう、地獄と言っても過言ではなかったね。
「真っ赤な下着も良いじゃないですかっ! セクシーで!」
「次は紫付けてみましょうよ! 紫!」
「な、なんでそんな過激な色ばっかり選ぶんだ! 君達は!」
完全にこの二人の玩具にされてしまったからね。
やれ紫だの、黒だの、白いガーター付きの下着だの、もう、普通自分じゃ買わないだろって下着をここぞとばかりに私に押しつけて来た。
流されるまま、仕方なく着た私だったけど、さすがに紐とかは無理だったよ。
黒のティーバックとかは穿いたけどね、二人から迫られていた仕方なくさ、そして、何故か買い物品の中にぶち込まれていた。
多分、買ったところでまず穿くことはまずないだろうとは思う。
「キネさんはやっぱり大人な下着が似合いますからね」
「そうそう」
「フフフ、なら次は私が君達の下着を選んであげようか?」
私はここぞとばかりに反撃に出てみる。
流石に元男である私に下着を選ばれるのは嫌だろう、でも、私も同じ目にあったんだこれくらいはお返しさせて貰わないとね。
悪戯じみた笑みを浮かべる私に対して、二人は顔を見合わせると嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
あれ? 思っていたのと反応が違うぞ?
「えー、良いんですかぁ?」
「ならむしろお願いしようかなぁ」
「んなっ⁉︎」
なんと、むしろ大歓迎とばかりに私に二人は下着を選ぶ事に対してなんの抵抗もない様子であった。
こ、これはもしや、墓穴を掘ったんではなかろうか。
私は思わず顔を真っ赤にする。ダメだ、私にはこの娘達二人に勝てるビジョンがまるで思い浮かばない。
仕方ない、こうなったら選ぶしかないか。
だけど、二人の下着ってなるとな、どんな下着が良いんだろう。
着替えを着た私は既に試着室のカーテンから出て、二人に着せる下着を選ぶのに悩んでいた。
私も過激な下着を持って来られたんだ、多少くらいは。
「よ、よーし、私だってやるときはやるんだぞ」
やられっぱなしで引けるかとばかりに私が選んだのは布生地が少ない下着であった。
流石にこんなのは着れないだろ、私に許しを乞う二人の姿が目に浮かぶ。ひとまず、水色とピンクのそれを手に取ると二人の元へと持っていった。
年上をからかうとどうなるか、思い知るがいい。
ちなみにラデンのスリーサイズはバストが81、ウエストが55、ヒップが81くらい。
そして、クリスは確か、バストが85、ウエストが57、ヒップが83くらいって店員さんが言っていたから多分、このサイズで問題ない筈だ。
うん、女の子の下着を片手づつ持って試着室行くのって相当恥ずかしいなこれ。
しかも手に持ってるのが過激な下着だから尚更ね、身体が女とはいえこれは精神的にキツすぎる。
この時まではそんな風に思ってたんだけどね、試着室に私がそれを持って来ると二人はジト目を私に向けてきた。
「へー……。キネさんそんなの付けて欲しいんですかぁ」
「ふーん」
「な、なんだよー二人して! さっきまで私にすごいパンツ持って来てたくせに」
そう言いながら顔を赤くする私。
あれ、これ結局が何か悪いことしたみたいになってない? 違うよね?
私はむしろさっきまで被害者だった気がするんですけど。
すると、首を覗かせていた試着室のカーテンを閉める二人、そして、しばらくすると、またひょっこりと顔を出して来る顔を少し紅潮させたラデンが私に一言。
「……キネさんのエッチ」
「ぶっ!」
私に対してジト目でそう告げたラデンはまた顔を引っ込めて持ってきた下着に着替え始めた。
私の背中からは変な汗が出てきている。なんだろう、この背徳感は何もやましい事はしたつもりはないはずなのに何故か湧き上がってくるぞ。
数分後、試着室で着替え終わったラデンとクリスが恥ずかしそうに顔を赤くしながら姿を現す。
「ジャーン、ど、どうですか?」
「なんかちょっと後ろがスースーして、恥ずかしいですね……」
「わー! ちょっと⁉︎ ちょっと待って! 私の負けでいいから!
ごめんなさい! 早くカーテン閉じて!」
私は二人の過激な下着姿に慌ててカーテンを一瞬で閉めて顔を真っ赤にする。
とてもじゃないが、良い子の皆にはとても見せられないような格好だ。
流石に生地が少な過ぎた、あれはダメだよ、二人もなんで素直に着るかな、別に嫌なら着なくてもいいのに。
すると、両方の試着室のカーテンからスルッと綺麗な手が二つ私に伸びてくる。
悪戯じみた笑みを浮かべる二人は、そっと私の耳元に顔を近づけると囁くようにこう告げてくる。
「……ほらぁ、キネさんが選んだんですから」
「ちゃんと見てくださいよぉ」
「君ら、私だと思って、からかい過ぎだぞ!」
ダメだこの二人が相手だと、私は絶対に勝てない。
私は改めてそれを身に染みて感じた。
たかだか買い物だというのに普通に仕事をするよりも何倍も疲れたような気がするのは気のせいではないだろう。
それから、必要な分の下着を購入した私達はランジュリーショップを後にする事にした。
やっぱり、今度から下着を買いに行くときは一人で来る事にしよう。




