喫茶店にて
喫茶店にて私とラデン、そして、対面にはクリスが座るようにして店でコーヒーと昼食を楽しんでいた。
この二人がいる絵がなんだか新鮮に感じてしまう。
「それで、何故キネスさんはこの街に?」
「あぁ、ちょっと仕事でね、出張というやつさ」
「へぇー……。どんなお仕事です?」
「……アレだよ、アレ」
そう言って、私はコーヒーを飲みながら自分の背後に貼ってあるチラシを親指で指差しながらクリスに告げる。
そこには、大々的にサクセサー・デュエルという広告が付いたポスターが貼られていた。そう、これはアルフィズ家で行われる抗争の儀の事を指している。
場所はサリエンツ・アレーナ、それだけ大きな会場を借りるのであれば、それなりのお金を使わないと人は集まらない。
他にも街の至るところで広告が目に飛び込んできていたし、ここまで話がデカいともはや隠す必要もないだろう。
「えー‼︎ キネスさんあんなのに出るんですか⁉︎
しかし、あれって確かアルフィズ家の主催するイベントで、選ばれた兵士が出るはずじゃ……」
「ちょっとね……。
そのアルフィズ家のご令嬢から頼まれたもので」
「どんな人脈持ってたらそんなことになるんですか」
冷静なクリスのツッコミに私も思わず苦笑いを浮かべる。
そうだよね、一介のビルディングコーディネイターが普通に出る試合じゃないよね、私もそう思うよ。
とはいえ、こちらも色々込み入った事情があってそうなってしまったんだ、察して欲しい。
私は飲んでいたコーヒーカップをそっと置くと肩を竦めながらゆっくりと口を開く。
「……選ばれたものは致し方ないさ……。
私だって、まさかこんなのに出ることになるなんて、つい先日まで思いもしなかったからね」
「……まあ、深くは聞かないでおきます。その事に関してはね。
……下手したら私消されそうですし」
「そうしてくれると助かるよ」
クリスの言葉に顔を引きつらせながらそう告げる私。
アルフィズ家のあの人達の事を考えれば、クリスの言うように一般人が深入りしすぎると消されるというのも、あらがち間違いではない。
世の中には知らない方が良い事もある。そういうところではクリスは非常に察しがいい記者だと言えるだろう。
「それで? この後ご予定は?」
「実は下着を買おうかと思っていたんですよ」
「へ?」
「だって、キネさん。
服は買ってありますけど下着もいるでしょう?」
私は思わず、当然とばかりに言ってくるラデンに間の抜けた声を溢して顔を赤くする。
いや、さすがに女の子と下着を見にいくのは何というか抵抗があるんだけども。
私は個人的に致し方なく買いに行く事はあるが、一応、前までは元男だった私は、一人でそういった女物の下着を買いに行くのも以前はかなり抵抗があったのだ。
それなのに、他の女の子とだって? 私はシドとも下着なんて買いに行った事なんて無いんだぞ。
すると、私の反応を見ていたクリスは悪戯じみた笑みを浮かべ私にこう告げてくる。
「あー! キネさん、何想像してるんですかぁ?
クールに見えて意外とエッチなんですねぇ?」
「……なっ! ち、違う! 私はそんなんじゃない!
ただ、ほら! 私は他の女の子と下着なんて買いに行った事なんて無いんだよ! だから!」
「へー……。なんか意外ですね」
「……き、基本は一人の時しか買いに行かないんだよ……」
私は思わず動揺したように顔を真っ赤にして指をツンツンしながら弁解する。
そりゃあ、女の子の下着売り場なんて、元男の私からしてみれば今でも行くのは抵抗あるからね。
あの、女の店員さんからの視線はどうにも慣れないんだ。
パンツとか選んで、採寸の為に店員さんを呼んだりして試着する時とかは特にね、バストサイズとか測られるのもなんだか、うん、なんとも言えない複雑な感情が出てしまう。
だが、話を聞いていたラデンはこれは面白そうだとばかりにクリスの話に便乗し、ある話をし始めた。
そう、それは私がお酒に酔った時にしでかした黒歴史の話である。
「ふーん……。
シドさんとあんな事しといて今更と思いますけどねぇ」
「ちょっと⁉︎ なんで言うの‼︎ あれはお酒もあって流れで押し倒されたからそれで……」
「はいはい」
顔を赤くしする私の反論する言葉に対して、流すように返事を返してくるラデン。
それにさらに興味を示したのはクリスだった。変なとこで食いつくなよ、お前。
彼女は目をキラキラさせながら、食いつくようにして私の目の前でラデンにこう訊ねる。
「何ですかそれ! その面白そうな話をもっと詳しく‼︎
どんな感じでした、キネスさん?」
「そりゃもう、寝てたら凄い喘ぎ声が下から聞こえてきましたよ。
……いやー、キネさんがあんな凄い声出すなん……」
「わー! わー! やめろぉ! 話すなぁ‼︎」
私は大きな声を上げて、ラデンの話を遮る。
こ、こいつ、楽しんでいるな。クソ、他人事だと思って! それは、言っちゃダメなやつだろう!
すると、ラデンはその話を興味深そうに聞いていたクリスに捕捉するようにこんな話までし始めた。
「しかも、なんと夜だけじゃなく朝からおっぱじめてましたからね」
「わぁお」
私が顔を真っ赤にしながら黙らせようとするが、ラデンの追撃がさらに炸裂する。
クリスは目を輝かせながら、興味深そうな眼差しを私に向けて感心したような声を溢していた。
もうやだ、二人とも嫌いだ。
なんで、人の黒歴史をそんな風に話しちゃうかな、いや、もちろん、お酒の流れとはいえ、お店でシドとしてしまった私にも責任があるんだけど。
私は真っ赤になる顔を両手で覆いながら、頭から湯気を出しつつ下を向く。
「うぅ……。恥ずかしくて死にそうだ……。
これじゃ、もう婿に行けないよ……」
「大丈夫です。キネさんは婿じゃなくてお嫁さんですから」
「そういう問題?」
そう言いながら私の肩をポンと叩いてくるラデンにツッコミを入れるクリス。
やめてくれ、その言葉は私に効く、しかも効果抜群だぞ。
そんな感じで、顔を真っ赤にしている私がよほど面白いのか、二人は何やら顔を見合わせて、また悪巧みを考えたような笑みを浮かべ立ち上がると、いきなり私の座っている席の脇を固めるように立ってきた。
私はいきなり二人が席を立ち、私の側に立ったきた事に驚いて思わず左右に首を振り二人の顔を見る。
「え⁉︎ ちょっ⁉︎ な、何⁉︎ なんなの⁉︎」
「さーて、では参りましょうか、クリスさん」
「そーですね、ラデンさん」
なんで意気投合してるんだこの二人、さっき初対面で会ったばっかりじゃないか。
すると、二人は私の身体を持ち上げると引き摺るような形で喫茶店の会計をし始める。
なんだ、私は一体、この二人から何をさせられるんだ?
喫茶店を出た二人は引き摺っている私に向かい聞こえるような声でこう話しだす。
「よし、このままランジュリーショップへゴー!」
「いぇーい!」
「ち、ちょっと待って⁉︎ 私の意思は関係ないって事‼︎
さっき、話したよね! あー!」
そのまま、私の意見は全く聞こえてないとばかりにバイエホルンにあるランジュリーショップへと足を進め出す二人。
私はそんな二人に引き摺られながら、力なくただただ連行されていく。
今更ながら思うんだが、女の子の身体になっていろいろと不便だなぁと改めてそう感じた。
女の子とまさか、こんな風にランジュリーショップに行く羽目になるなんて思いもしなかったよ。




