ショッピングへ
模擬戦をした翌日、私達はバイエホルンの街に出かける事にした。
デートの約束しちゃったからね、ちょうど着替えとかも欲しかったところだし、現在、隣にいるラデンは私からショッピングと聞いてかなり上機嫌である。
私としても、バイエホルンがどんな風に様変わりしたのか気になっていたし、これはちょうどいい機会だと思って街に足を運んだわけだ。
「キネさん! 見てください! あの服物凄く可愛いですよ!」
「へぇー……。確かに、お洒落なスカートだね」
私はショールームに展示してあるスカートを見ながら目を輝かせているラデンに告げる。
女の身体になったせいか、服なんかも結構買うようになったので、女の子が感じている可愛い服とかそういう分野にもそれなりに目が利くようになった。
それは、私の家具作りや家作りにも生かされているので、私としては助かっている部分もある。
「入りましょう! キネさん!」
「ん、わかったわかった。わかったからそんなに引っ張らないでくれ」
服屋の店内にラデンから引っ張られるようにして入る私。
そんな風に笑顔で手を引かれると、断れないだろう? 仕方ないよ、そういうものだ。
私は服を色々選びながらはしゃぐラデンを見守りながら、その微笑ましい姿に思わず笑みが溢れる。
こうしていると、彼女も普通の女の子なんだなとそう感じた。
ほら、私の周りには一癖も二癖もある女性がたくさん居るからね。
こういう風に買い物に来るのも久々なものだから新鮮なように感じてしまうよ。
「キネさん、あのー……。どっちが似合います?」
「そうだなぁ……。
赤色かな? そっちのほうがラデンに合う気がする」
「本当ですかっ! よーし! これにしよう!」
そう言って、試着室へとスカートを持って入っていくラデン。
うん、私も何か服を買わないとな、何か良い物はあれば良いが。
私はそう思い、辺りを見渡すと一着のジーンズと暖かそうなタートルニット、そして、黒のダッフルコートを見つけた。
そろそろ寒くなってくるしな、これは買っておいても良いかもしれない。
すると、しばらくして、試着が終わったラデンは笑顔を浮かべながら試着室のカーテンを開ける。
「じゃーん! どうですか! キネさん!」
「うん、バッチリだね。そのプリーツスカート」
「えへへ、なら買いですね、これ」
そう言いながら、サムズアップしてくるラデン。
ラデンはどうやら、プリーツスカートを買うことに決めたようだ。うん、私も買う服はあらかた決めたし、サイズを測ってから買うことにしようかな。
その前に、私が選んだ服をラデンに見てもらうことにした。
選んどいてなんなんだが、今更、女の子らしい服装にこだわるつもりは無いんだ。ただ、センスの問題でね。
ほら、センスが悪いと家具とか家作りに響くだろう?
だから、断じてこれは楽しんでいるわけじゃ無いんだ、良いね?
「……ど、どうかな?」
「わぁ! 似合ってますよ! キネさん!」
試着室のカーテンを開けて、ラデンから自分が選んだ服装を見てもらう私。
鏡を見ても、悪く無いと感じる。うん、冬の服はこれで良いな。……絶対、この服を着ている間は仕事や戦闘はしないように心がけておこう。
服は基本的にプライベートと仕事着と私は着分けているからね、仕事の時は基本的にジーンズと白の長いシャツに上着を羽織るスタイルなんだよね。
最近は赤い皮ジャケットとか、黒のコートが多いかな。
今後寒くなるから、仕事用のタートルニットなどを他に何着か買っておくことにした。
これで、今年の冬は大丈夫だろう。
しかしながら、現場仕事が入ってくると冬場は寒いから勘弁してもらいたいなとは思う。
こっちにいる間はそんな仕事は入ってこないだろうけどね。
店から袋を携えて出た私とラデンは次の目的地について話をしていた。
「じゃあ、次はどこ行きます?
喫茶店でコーヒーでも飲みますか?」
「そろそろ昼近いし、それも良いかも……」
「あれー? もしかして、キネスさん?」
そう私がラデンに言いかけたその時だった。
私の背後から、聞き覚えがある声が飛び込んでくる。
私は咄嗟にその聞き覚えのある声に反応して、ゆっくりと背後へと視線を向けて振り返った。
「……ん?」
そこにいたのは満面の笑みを浮かべ、こちらに手を振ってくる見覚えのある女性だった。
銀髪の長い髪に綺麗な青い瞳の彼女の姿を見た私は思わず、驚いたような表情を浮かべた。
それは、随分と前に私を取材しにきた1人の女記者の姿だった。彼女は私だと分かると急ぐように駆け寄ってくる。
「お久しぶりじゃないですかっ! キネスさん!」
「やあ! クリスじゃないか‼︎ 元気だったかい?」
「はい! それはもちろんですよ!」
そう言いながら、嬉しそうに私の手を握りしめてくる記者のクリス。
随分とあれから時間が経ったが、変わらず元気そうで何よりだ。
あれからクリスはアルバスさんの別荘つくりについて話をして、それをちゃんと綺麗にうちの広告をつけて記事にして出してくれた。
おかげで、一時期、ウチに来てくれるお客さんが随分と増えてくれたという経緯がある。
ネロちゃんが求人を見たと言ったのも、実はクリスの記事が一役買ってくれていたのだ。
彼女の記事には本当、色々と助けてもらっていたから、お礼を伝えたいとちょうど思っていたところなんだよね。
クリスは嬉しそうに私の手を握りながら興奮気味に語り始める。
「キネスさんの記事! 物凄く反響が良かったんですよっ、いやーあの時はありがとうございますー!」
「あぁ、見たよ。良い記事だった。こちらこそありがとう」
「いえいえ! また近いうちに取材させてください!
……それで、そちらの方は?」
そう言って、私に問いかけてくるクリス。
まさか、ここで、彼女に鉢合わせるとは思ってもいなかったな、別段、特には問題無いんだけどね。
それから、ラデンは軽くクリスに頭を下げると親しみ易そうな笑顔を浮かべ、軽い自己紹介を彼女にしはじめる。
「はじめまして、私はラデン・メルオットと言います」
「どうも、はじめまして! クリス・ハートランドですっ」
互いに自己紹介をしながら、笑みを浮かべ握手をかわす二人。
とりあえず軽く自己紹介も済んだし、二人とも割と簡単に打ち解けそうだな。
そう言われてみれば、クリスの下の名前ってハートランドというのか、前に聞きそびれていたが、可愛くて良い名前だ。
そんなことを考えていると、笑みを浮かべたクリスがこちらへと間合いを詰めてくる。
「キネスさん。これは何やらまたスクープの臭いがしますね……」
そう言いながら、私に擦り寄ると軽く肘で突きながら怪しげな笑みを浮かべるクリス。
流石に私の隣にいるという事もあって、ラデンが只者では無いという事をすぐに察したのかな。
この娘は変なところで直感が鋭いなと素直にそう感心した。
「それは職業的な勘かい?」
「そんなところです」
私の問いかけにニカッと陽気な笑みを浮かべて応える。
新聞記者の勘って言うのはどうにも馬鹿にできないな、特にクリスは本当に優秀な記者だと思うよ。
仕方ないと、私は笑みを浮かべ肩を竦めると、そのままクリスを加えて、ラデンと三人で昼食を取ることにした。
色々と積もる話もあるだろうし、何より、クリスが聞きたいことがたくさんあるだろうからね。




