温度差
本編53話より
お風呂裏話
家主不在の小さな家の中。
7人の男女がテーブルを囲み、意見を出し合っていた。出稼ぎに出た師に内緒で建設する風呂の相談である。
テーブルの上には建設予定の浴室の見取り図が広げられ、細かい書き込みがそこここにあった。
「全面木製とかどうだぁ?」
「それなら木の組み合わせで柄を作ったらお洒落ですわね」
「木製にするんだったら、換気用にでかい窓がいるんじゃねぇか?」
「…………覗きは駄目よ、チェスナット」
「し、しねぇよっ!」
「それなら外に柵を作ればいいのではないかしらぁ」
「それはいい考えだな。まぁ念のためだ。拗ねるな、チェスナット」
ああでもない、こうでもない。こんなのはどうだと、個人の趣味の入り込んだ意見が飛び交う。
そんな時、それまで何やら考え込んでいたウィロウがおもむろに赤いペンを掴んだ。
全員が見守る中、ウィロウはグリグリと見取り図に線を描き入れると、
「――先のこと考えて、広めがいいと思う」
そう呟いた。
トンと赤ペンの先が叩いた図面には、普通サイズだった元の浴槽をかなり広めに拡張する赤い線が描かれている。
「先のこと……?」
ペオニアがきょとんと図面を見つめる。その顔には、意味が分からない、と書かれていた。 アイリスにチェスナット、ファーも同様だ。
だが、肝心のウィロウは、言い出しておきながら、何故か気まずそうに視線を逸らす。
「あー、まぁその、イロイロ便利だろ。ライカリスさんも……使うだろうし……」
とは、頬を掻きながら。
「あぁ、そう……イロイロ、ねぇ?」
「イロイロ……」
ジェンシャンに意味深に微笑まれ、ジニアにチラ見され、ウィロウはますます視線を泳がせる。
そんな微妙な空気の中、精一杯難しい顔をして考え込んでいたファーが声を上げた。
「――分かった! 師匠とライカリスさんに子どもができたら、皆で入るかもしれねぇもんな!」
「ぶっ」
(そっちかよ!)
ウィロウがぎょっと目を剥くが、ペオニアたちの方はそれで納得したらしい。
なるほど、と頷き、
「あの方たちのお子様なら、きっととてもお可愛らしいわ……」
薄らと頬を染めたペオニアが微笑み、それに対し口々に同意の声があり、場が盛り上がる。
そこには如何なる他意も見受けられなかった。少なくとも、ウィロウが考えたようなことは。
「………………」
盛り上がる仲間たちから物理的に1歩、精神的には100歩ほど引いた気分でため息をついたウィロウが、力なく肩を落とす。
「俺って汚れてんなぁ……」
その肩を、ジェンシャンとジニアがそれぞれ叩いて、曖昧な笑みを浮かべた。
「……大丈夫よ、ウィロウ」
「あなたは独りではないわぁ」




