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ヴェルデドラードの日常  作者: 雨根
本編幕間
16/74

非日常に潜む罠

拍手小話No.37

本編64話ライカ視点

「お待たせー! ごめんね、準備任せちゃって」

「あぁ、リコさん……」


 そんな明るい声が響き、ライカリスはリコリスたちが戻ってきたことを知る。

 普段のリコリスの趣味からして、さほど露出の大きな水着を選ぶことはないだろうが、それでも水着は水着。できれば控えめなものであってほしい。

 そんな願いと、微かな不安を覚えながらも、彼は振り返った。


 そうして、見たリコリスは、


「っ?!」


 普段の趣味からは程遠い、可愛らしいが露出の多いビキニタイプの水着を着ていた。


 まさかこんな水着を選んでくるとは思わず、完全な不意打ちに、リコリスから目が離せなくなる。

 普段は表に出ることのない滑らかな肩のラインや、ジェンシャンが以前言っていた小さすぎず形のいい胸と、際立って細い腰、紺のショートパンツからすらりと伸びた足。

 それらを勝手に視線が辿り、呼吸を忘れそうにすらなって。


 ――背後の物音で我に返った。


 咄嗟に振り返れば、チェスナットたちは皆、砂に頭を突っ込むなり、シートに巻かれるなりして、自衛に走ったようだった。

 彼らはリコリスの水着姿を見ただろうか。

 それとも、目にする前にこれなのだろうか。

 判断がつかなかったが、殺意を覚えるよりも先に、やらねばならないことがある。


「……えぇと」


 戸惑うリコリスに大股に歩み寄れば、微かに怯えの気配があった。


「ラ、ライカ?」

「……」


 だがそれにも今は構わず答えず、ライカリスは着ていた白いパーカーを脱ぐ。

 それをそのまま、何事かと目を丸くするリコリスの肩にかけた。


「え?」


 そうして前をしっかりと合わせてしまえば、2人の体格差から、パーカーはすっぽりとリコリスの太股までを覆ってしまう。

 何とか大部分は隠せたことに安堵し、しかし当のリコリスが肩を落とした。

 パーカーを確認し、ライカリスを見上げた彼女は、悲しげに眉尻を下げる。


「……そんなに変だった?」


 まさかそんなことを聞かれるとは思わなかった。

 そうではない。そんなはずがない。

 思いもよらない言葉に、ライカリスは慌てて首を振る。


「いえ! そ、そうではなく」


 咄嗟に否定して、それで何を言えばいい。

 確かに自分の行動は、リコリスからすれば勘違いしてもおかしくなかったかもしれない。

 けれど実際には、こんなにも――。


(言って、いいのか……?)


 変に思われたりはしないだろうか。もし軽蔑されでもしたら。

 そんな躊躇いは、結局は目の前の泣きそうにも見える瞳に負けるのだ。もとより勝ち目などない。

 ライカリスは自身を落ち着かせるために一度大きく息を吐いて、ひたとリコリスを見つめた。


「……とても可愛いです」

「!」


 それから、何と続けようか。

 言葉を探す間に、ぽかんとして固まるリコリスの三つ編みに手を伸ばす。

 ただ黙って彼女を見ていたら、何か言うより先に行動してしまいそうだったから。せめて、と髪に触れ、衝動を押し殺してそれを弄ぶ。

 三つ編みの先が、さらさらと指先を擽った。


「可愛いですよ」


 心からの言葉を、もう一度繰り返して。


「でも……だから、見せたくない、と言ったら――」


 続けたこれも、紛れもなく本音だった。

 できることなら、今この場から浚って、隠してしまいたい。

 後ろにいる彼らだけでなく、誰の目にも触れないように。



 ――自分だけの、ものに。



「え、えっ……」


 そんな思いを込めて目を逸らさずにいると、リコリスの顔が赤く色づいてくる。

 ライカリスを見つめる緑の目は零れ落ちそうに見開かれ、頬だけでなく耳から首までが薄紅に染まる。

 何かを言おうとして、唇が開閉する。その動きすら、今はライカリスを煽るようで。


(あぁ、まずい)


 流されてしまいそうな己を自覚する。

 それでどうにか思い留まり、無理矢理に代わりの言葉を探した。


「そもそも何故この水着なんです? あなたの趣味ではないでしょう。他の水着では駄目なのですか?」


 情けない自分のために、リコリスを責めるような言葉を吐いたことにまた情けなくなるが、これもまた本音だった。

 できれば着替えてくれないだろうか。

 そんな希望を言外に告げるが、対するリコリスは申し訳なさそうに肩を落とす。


「それは、その。どうしようもない事情っていうか、……蝙蝠様がね」


 最後まで言われずとも、それで全てを理解した。

 掲げられた手提げ蝙蝠が不敵に笑う、それだけで十分だ。


(嫌がらせか……!)


 無理をしなくてもいいと言ったくせに。

 目の前の笑みに向かって、ライカリスは呪いの叫びを上げた。

 ……もちろん、心の中で。

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