プロローグ 神授の儀
気付いたの、俺だけですか?
~ハズレスキル《よく見える》で危機を見つけても、自分じゃ何もできないので仲間と戦います~
「次!」
神官の声が広場に響いた。
年に一度の神授の儀。
十五歳になった子供達が神からスキルを授かる日だ。
村中の人間が集まり、順番待ちの列を取り囲んでいる。
「剣聖来い…剣聖来い…!」
前に並ぶアッシュが拳を握る。
日に焼けた顔。
燃えるような赤髪。
今にも飛び出しそうなほど落ち着きがない。
いつものアッシュだった。
「無理だろ」
後ろからセイルが言う。
アッシュが振り返る。
「じゃあ英雄!」
「もっと無理だろ」
「うるさい!」
アッシュは文句を言うが、すぐに笑った。
セイルは肩をすくめる。
黒髪も黒い瞳も、この辺りでは珍しい。
そのせいか子供の頃から「何を考えてるか分からない」とよく言われた。
本人としては見たままを考えているだけなのだが。
「二人とも緊張してないの?」
柔らかな声が割って入る。
栗色の髪を揺らしながらティアが首を傾げた。
村娘らしい素朴な顔立ち。
どちらかと言えば可愛いより親しみやすい。
けれど笑うと妙に目を引く。
「してる」
「してない」
アッシュとセイルの返事が重なった。
ティアは呆れたようにため息を吐く。
「どっちなの?」
「こいつはしてる」
セイルがアッシュを指差す。
「してねえ!」
「耳真っ赤だけど」
「え?」
ティアがアッシュを見る。
アッシュは慌てて両耳を隠した。
「見るな!」
「やっぱり緊張してるじゃん」
ティアが吹き出した。
「セイルは欲しいスキルとか無いの?」
「知識系かな」
「地味」
アッシュが即答する。
「知らないこと多いからな」
「賢者とか鑑定とか?」
ティアが首を傾げる。
「そんなのもらえるわけないだろ?せいぜい物覚えか熟考かな」
「でもセイルっぽいよ」
「そうか?」
「うん」
ティアは笑った。
「昔から気になることがあると放っておけないし」
セイルは肩をすくめる。
否定はできなかった。
確かにそうだった。
森でも。川でも。人でも。
なんとなく気になることがあると、つい見てしまう。
理由は自分でも分からない。
「ティアは?」
セイルが聞く。
ティアは少し考えた。
「私は……」
そこで言葉を止める。
「何でもいいかな」
アッシュが吹き出した。
「適当だな」
「…だって二人と一緒なら何でもいいし…」
今度はセイルが黙る。
アッシュは気付かず笑っていた。
「お、呼ばれたぞ!」
神官がアッシュの名を呼ぶ。
アッシュが勢いよく前に出た。
「剣聖お願いします!」
と言いながら水晶に手を置く。
今日一番の眩しい光に広場が静まり返った。
神官の目が大きく開く。
「《上級剣士》」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「よっしゃあああああああ!」
アッシュの絶叫が村中に響いた。
「騎士だ!俺騎士になるぞ!」
アッシュは興奮して神官に抱き着く
「落ち着け!離せっ!」
神官が慌てて振りほどく。
村人達は大笑いしていた。
セイルも少し笑う。
アッシュは本当に嬉しそうだった。
次に呼ばれたのはティアだ。
ティアが緊張した顔で前へ出る。
水晶に手を置く。
優しい光。
しかし今度は先ほどより遥かに強い。
神官が固まった。
村長が固まった。
周囲の騎士達も固まった。
「……《聖女》」
誰も声を出さない。
アッシュさえ黙った。
ティア本人も固まっていた。
「え?」
小さな声でもよく響いた。
「せせせ聖女様…」
神官は震えている。
「王都に伝令を!」
騎士はどこかへ走り出した。
「わしの村から聖女様が…」
村長は膝をついて手を合わせている。
「せい…じょ?」
「まさか…」
「聖女様だ!」
「「「わぁー!聖女さまぁぁ!」」」
「え?」
周囲が喧騒に包まれてもティアだけが状況を理解できていなかった。
何とか冷静を取り戻した神官に最後に呼ばれたのはセイルだった。
聖女騒動の熱気が残る中、水晶に手を置く。
淡い光。
神官は表示を見て首を傾げた。
「《よく見える》」
沈黙。
セイルは首を傾げる。
「……よく見える?」
「何だそれ」
「目が良くなるとか?」
村人も苦笑いだ。
神官も困っている。
「視力向上系……でしょうか」
「地味だな」
「うるさい」
アッシュを軽く小突く。
だがセイル自身も似た感想だった。
…微妙。
少なくとも上級剣士や聖女ほどではない。
「でも」
ティアが言った。
「セイルっぽい」
「そうか?」
「うん」
ティアは少しだけ安心したように笑った。
その笑顔を見てセイルは違和感を覚えた。
笑っている。
でも。
指先を強く握っている。
肩が少し上がっている。
呼吸も浅い。
そして何より。
目だけが笑っていなかった。
セイルは首を傾げる。
なんだろう。
ティアが聖女になったからだろうか。
それとも。
もっと別の何かか。
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広場を出て騒がしい村の中を三人で歩く。
その日は「強腹筋」「走り高跳び」「早寝早起き」「方向感覚」「虫に刺されにくい」とか色々聞こえてきたが、結局、聖女はおろか上級剣士に匹敵するスキルは出なかったようだ。
そして村の入口にある石橋へ差しかかった時。
荷馬車が通った。
ゴトッ。
橋がわずかに揺れ、セイルは足を止めた。
「……?」
「どうしたの?」
ティアが振り返る。
セイルは橋を見つめた。
「なんか変だな」
ティアは眉間に皺を寄せて顔色が変わった。
「やめてよ」
「何が?」
「セイルが『なんか変だ』っていう時、ろくなこと起きないんだから!」
アッシュが吹き出しながら笑う。
「セイルのなんか変だが、また始まったな」
セイルは橋を見たまま首を傾げた。
「橋って、こんなに揺れたっけ?」




