第11話:王都からの密使、あるいは禁忌の光
1. 招かれざる「公式」の使者
カイゼルとの騒動から数日。
塔の修復を終えたレイたちの前に、これまでの村人たちとは明らかに雰囲気の違う一団が現れた。
洗練された白銀の鎧を纏い、王家の紋章を掲げた一団。
その中心には、冷徹な眼差しを持つ女性、王宮魔導師団の調査官・セーラがいた。
「ギルド『プリズム』の代表者、レイ殿ですね。
「えぇ・・そうですが?」
王都より、あなた方の活動に関する『重要勧告』を持って参りました」
エレナが反射的に剣の柄に手をかけるが、レイはそれを制し、無表情にセーラを見据えた。
「勧告……。おそらく、納税の督促か、さもなければ僕たちの技術の『接収』といったところかな」
セーラは微かに眉を動かした。
「話が早くて助かります。あなた方が水源の再起動や防衛に使用した『収束光魔法』。あれは既存の魔法体系を著しく逸脱しており、国家の安全保障上の脅威になり得ると判断されました。よって、その理論の開示と、塔の管理権を王室に委譲していただきます」
2. 測れない価値
「管理権の委譲……。たぶん、無理だと思うよ」
レイはあっさりと断言した。
「拒否は許されません。これは国王陛下の名において――」
「いや、感情的な話じゃないんだ」
レイは手元にあったバルカスの試作鏡を一枚、セーラに向けた。
「この塔のシステムは、バルカスの超精密な研磨技術と、リィンの特異な魔力波形、そして僕の設計思想が三位一体になって初めて稼働している。
……おそらく、理論だけを奪っても、君たちの魔導師では過負荷で自爆するのが落ちだ。再現性は極めて低い……はずだよ」
「自爆ですって……?」
セーラの顔に不快感が走る。
王宮の精鋭たちが、落ちこぼれの技術を扱えないと言われたのだから。
3. 未知への恐怖
「……試してみますか?」
レイはリィンの手をそっと取り、彼女の魔力を微弱に励起させた。
リィンは緊張で体を震わせたが、レイの手の温もりを感じ、意を決して魔力を放出した。
レイが指先を空に向け、数式を空中に描く。
「光学・基本術式――散乱制御」
放たれたのは破壊の光ではなく、セーラたちの周囲を囲む「光の檻」だった。
触れれば火傷どころではない熱量が、ミリ単位の精度で彼女たちを閉じ込めている。
「……何、これ。魔力の気配が……感じられない。なのに、この密度は……!」
セーラは驚愕した。
通常の魔法は、発動前に「詠唱」や「予兆」がある。
しかし、レイの光は、物理法則そのものを書き換えたかのように唐突にそこに「存在」していた。
「これが僕たちの日常だ。……正直、僕自身もこの力の全貌を完全には制御できているとは言えない。……一歩間違えれば、この山ごと消し飛ぶ可能性だってあるんだ」
レイの瞳は嘘をついていなかった。その「不確定さ」への恐怖に、セーラは一歩後ずさった。
4. 猶予と火種
「……今日は、一旦引き上げます。ですが、王都がこれで納得するとは思わないでください」
セーラは捨て台詞を残し、逃げるように去っていった。
一行が見えなくなると、レイは深くため息をつき、膝の力を抜いた。
「……ふぅ。正直、ハッタリが通じてよかったよ。あの光の檻、あと数秒で僕のMPが切れて崩壊するところだったんだ」
「えぇっ!? レイ君、そんなギリギリだったの?」
エレナが慌てて彼を支える。
「ああ。……リィン、助かったよ。君の供給がなければ、あんな威圧感は出せなかった。……バルカス、すまないが、もっと強力な『防衛用の鏡』を急いで作ってくれないか。……おそらく、次はもっと実力行使に来る」
「おう、合点承知だ! 舐め腐った王宮の連中に、度肝を抜く奴を拝ませてやるぜ!」
自由を手に入れたはずの彼らの前に現れた、大きな壁。
自分たちの技術が「希望」ではなく「禁忌」として扱われる現実。
レイは、遠く王都の空を見つめながら、次の「計算」を始めていた。




