Deveでの生活5
「ただ知りたいだけなんじゃが、なかなか敵が多くてな」
下を向き悩むラドン。ラドンはどうやら本当に心の底からスキルについて知りたいだけのようだ。
「じゃあなんで普通の世界で研究者として研究しないのよ。ラドンあなた優秀でしょ?私分からないけどあなたなら普通の世界で研究者としてやっていけ」
「やめてくれ。カレンよ。いや、カレンの皮をかぶった別の生命体とも言えるのかも知れんが」
窓辺で外を見ながら話していたラドンがこちらを向いた。ラドンには俺が偽物のカレンだってことがバレていたのか?
「……何を言っているのか分からないわ……私はカレン……カレンよ」
「君はスキルホルダーではないだろう。毎日見させてもらったがね。長年スキルホルダーを見ているわしなら分かるよ。ラグラスは騙せても」
ラドンにはバレていた?しかもこの口ぶりだとずっと前からラドンは分かっていたようだ。
「スキルホルダーにはね、なんとも言えない雰囲気みたいなものがあるんだ。長年見てきたワシにしか分からないが、何というか独特の異質な雰囲気がある。お前さんにはそれがなかったな」
笑いながらラドンは言った。決して騙している事を咎めているわけではなさそうだ。
「じゃあ……なんで?なんで、私をここに?研究にも何にもならないって分かってて何で置いてくれたの?」
「すまんな。楽しかったんじゃ。ワシにも実は娘がおってな。訳あって離れ離れで暮らさなければならなくなったんじゃが、久しぶりに味わえたよ。父親という感覚を」
ジンはラドンやセレンとの日々を思い返した。あの意味のわからない研究はただ2人が普通の父親と母親をやりたかっただけのことなのではないか。
一緒にジェンガをしたり、一緒に美味しいご飯を食べたり、一緒にテレビを見てたわいのない話をしたり、ただそんなことがしたかっただけであったのだ。
「セレンも楽しそうじゃった。この生活が始まって妻には迷惑しかかけてこなかったからの。お前さんのおかげで恩を少しは返せた。お前さん?中身は本当に女なのか?」
「……わ……わたしは……」
ラドンがどこまでくるみのスキルについて理解しているのか分からない。しかし、完璧なはずのこの変装に気づき始めている。中身までも違うと気づきはじめている。
ジンは悩んだ。正直に言うべきか。否か。
「……わいは……カレンや……」
悩み、どう決断すればいいかわからなくなったジンは咄嗟に関西弁で話してしまった。
その瞬間、全てを悟ったかのようにラドンが感嘆の声を上げる。
「ほぉ……面白いスキルもあるもんじゃな」
その一言で全てをラドンが理解したとジンは思った。一言関西弁を話しただけでラドンは全てを察した。
「……ならほど。おそらく……ラグラスに狙われて……そういうスキルホルダーがいて……ふむふむ……面白いな。考えたのは君かい?」
ジンはもうラドンは危険な人物ではないと判断した。この人になら大丈夫だと。
「いや……俺たちのチームに1人賢い男がいてな……そいつの入れ知恵さ」
「ほー、それはそれは。一度その男と会ってみたいな」
ジンは久東の名前こそ出さなかったが作戦は自分が考えたわけではないことを言った。
「それではカレンよ。早くここから出てゆくのじゃ。セレンにはワシから言っておく。彼女も覚悟しておる。早く行かないと駅はここから遠い」
ジンはラドンとの別れが名残惜しくなっていた。ラドンが娘を擬似体験していたのと同じようにジンも家族という体験を擬似的に体験していたのだ。
ジンは別れ際、最後にこう言った。
「ラドン、ありがとう。セレンにもよろしく。体に気をつけて研究がんばってね」
とびきりの笑顔。そして完璧なまでのカレンの口調で言った。
ジンは最後はカレンとしてお別れをした。ラドンとセレンとの素敵な日々を彩るために。
Deveでの生活終わりです。
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