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回帰  作者: 雨宮吾子
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プリズムの雨

 ベランダに出て、夜の街を見渡す。以前に住んでいたところとは違うマンションに引っ越してから、数ヶ月が過ぎた。以前のところとは違って高いところ(ついでに家賃も)を選んだから、夜の街がより広く見渡せるようになった。恋人は、相変わらずいない。今は私の眼鏡に適うような人がいない、ただそれだけのことだ。それでもどこか充実した気分を味わっているのは何故なのだろう。それはきっと、あの夏に過ごした時間が私の心を今でも包み込んでくれているからなのだろう。

 結局、雨嶺がどうして死を選んだのかということは何も分からなかった。私の心には、ずっと前に失った雨嶺のために取っている席がある。そこに座る者がいないことが、やはり悲しみをもたらしている。早くに亡くなった雨嶺の分も生きていこうだなんて、そんな大それたことを考えたりはしない。それでも、私は雨嶺がいつ帰ってきても良いように、失望されないような生き方をしようと思っている。

 あの夢日記は今も人目に付かないところに保管している。もしも雨嶺と再会したなら、そのときには返してあげなければ。

 冬の雨は、冷たく厳しい。そんな日に私は雨嶺のことを思い出す。冬の雨はそんなに激しくはないから、私は傘を持ち歩いていても天に向かって傘を突き出すことはしない。その代わりに鼻歌でも歌いながら、もしかするとスキップでもしながら、都会を歩いていくのだ。最近になって、そのくらいのことでは都会の人間の目には止まらないことに気が付いた。段々と図太くなっていく神経を感じながら、私は微笑みを絶やさずに歩いていこうと思うのだ。

 プリズムのようにきらきらとした雨が、都会の街を彩っていく。そんな雨の中で、私はいつまでも踊り続けていたい。

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