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チートスレイヤーズ!!  作者: 堀井ほうり
鈴村龍之介の思考/不幸/虚構
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第31話「死にますよ」


「アリスをっ……アリスを傷つける奴だけは許せないからっ……」


 握った拳を震わせる日々子の表情は、見たことのないものだった。愛する人を傷つけられたとか、そんな状況に遭遇したことなんて俺にはないし、そんな状況の人間に会ったこともない。

 ドラマや映画の中ではいくつか見たことはあるけれど、あれらは結局のところ俳優の演技でしかないんだと思わされた。それくらいに、日々子の表情は痛々しく、醜かった。俺にはそう見えた。

 視線を横に移すと、そこではアリスが嬉しそうな、そしてとても悲しそうな笑みを浮かべていた。授業中、先生に指されて、答えを見つけられない時のような気まずさを感じる。 


「ヒビィはあたしを可愛がってくれて、それは嬉しいんだけどね……」

 それはヒビィの未来に繋がるのかな? なんて、いつだったかアリスは言っていた。

「誰かを想うことが力になるのは、やっぱり想いが報われたときが最強だと思うよ、あたしはね。

 でも、それもやっぱり言い訳で、あたしはヒビィに嫌われたくないんだ」

 あたしはヒビィの想いに応えられないけど、ね。


 そんな話を聞いたときと同じ表情をアリスはしばらく浮かべていた。

 けれど、今ここにいるアリスはそこから一歩踏み出した。


「ヒビィ」

「……何? アリス、心配しないで。……アリスは、私が守ってあげるから……」

「ううん」

 アリスはゆっくりと、首を横に振った。

「ヒビィ、あたしね、好きな人がいるんだ。ヒビィの気持ちには、だから、応えられないよ」


 次々に現れる魔物達は寅宗に襲いかかり、そのうちのいくつかは真空の刃に切り刻まれていく。

 けれど、傷を負いながらも魔物の何体かは寅宗の身体に辿り着き、鋭い爪を皮膚に這わせている。

 そんな非日常の教室の中で、俺の友達は俺の友達に、ひとつの決別を告げた。


 拳を一度ほどいて、それから日々子は、

「それでも! いい! ……私は、アリスの、味方だよ……!」

 初めて聞いた日々子の大声に、俺は目を丸くした。日々子のアリスに対する想いは、無償の愛のようなものなのかと、そう思った。けれど--


「困ったなぁ!!」

 再び日々子が叫ぶ。いくつものまだらの渦が現れて、異形の怪物達が咆哮を上げる。

 そして、さっきまでは寅宗だけを目指していた魔物達が、今度は俺達に目を向けた。

「え?」

 疑問符のついた声音は、アリスではなく、日々子の口から発せられていた。


「『マリオネットワーク』でしたっけ?」

 背後からの声は葵のものだった。いつもと同じ、少しおっとりとした声音だったけれど、どこか冷たく感じる。

「『困った』と口にすれば助けてもらえる、と……。

 日々子さん、ひとつお訊ねします。あなたは本当に、あなたの想いが報われなくてもいいと思えましたか?」

「…………」

 日々子は答えない。

「恋が叶わないのなら、世界なんて滅んでしまえ--そんなことは思わなかったと、はっきり言えますか?」

「…………」


 俯いてしまった日々子と俺達に、魔物が牙を剥いて近付いてくる。

 俺とアリスは「チートスレイヤーズ」だ。チートスキルホルダーを倒すことは容易だけれど、普通の魔物相手には為す術がない。

 葵の「ゴールデンウィークポイント」で距離を取るしか……!


「残念ですが、不可能ですわ」

 俺の発言を先読みするように葵が告げた。

「さっきから、遣おうとしているんですけどね……うまくいかなくって」


 俺達のチートスキルが「無意識選択式発動型」に変わってしまったことが原因らしかった。

「たぶん、お二人の『逃げてはいけない』という気持ちの表れでしょうね。素敵だとは思いますけれど……」

 死にますよ、私達、全員。

 大仰に肩を落として、葵は苦笑した。



 異世界「バーガーランド」。ジャックバーガー異世界店にて。


 異世界店にて、と表記してみたものの、そこにはもう店舗があった形跡はない。

 異世界「バーガーランド」。その名が表すように無数のファストフード店が立ち並び、異世界からの使者たちが身体を休めていたその土地は荒野と化していた。


「抜け殻仲間が偉そうにお願いかよ~」

「……頼む、ジャッキー! いや、『神に挑んだ敗北者の抜け殻』!」

「うるさいんだよ~。『友愛を得られなかった敗北者の抜け殻』ごときが~!」


 巨大なピエロのぬいぐるみが、荒野にまたひとつ窪みを造った。

 そして、それと対峙している一人の少年は、武器ひとつ持たず、拳を握ることもなく、ただ懇願している。


 少年の名は鷺沼正義。友人達は彼を「敗北者」や「抜け殻」ではなく「サギー」と、親しみを込めて呼ぶ。そう呼んでくれた記憶が、彼の唯一の武器だった。

 その武器を胸に、彼はまた叫ぶ。

「頼む、ジャッキー! お前の中にいるんだろう? 友達が困ってるんだ、力を貸してくれ!」

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